7-2.アイドルマスター☆九重桜ちゃんに敵はいない!
将棋やります、ルール知らないとわからないかも。ただ、変則オリ4人将棋の上、かなり滅茶苦茶なので関係ないかもしれない。
7巡目の世界。
この世界は、森羅万象が7巡したことにより、平和となった世界だ。
『最後の一人』が、なぜかアイドルを志し、某有名ユニットのセンターで踊っている世界だ。
1巡目の世界では、『全存在の極化』によって人類を無に帰した『最後の一人』だったが、この世界ではなぜかアイドルマスターを目指している。謎である。
そして、なぜか毎日のように『最後の一人』から、アイドルSAKURAちゃんグッズが俺の家に送り届けられるのは、6巡目の世界の『最後の一人』の怨念が残っているせいだろうか。
こちとら、あいつの顔を見るだけで発狂しそうになるのだから、嫌がらせ以外のなにものでもない。
なのにあいつは、俺が好きだった小説を原作とするドラマのメインヒロインに抜擢されたり、俺の好きな作曲家さんを使ってソロCDデビューしたり、俺のお気に入りのバラエティ番組にゲストとして出てきたりする。
俺はその度に、あいつに精神をバラバラにされたりしたトラウマが蘇るのだ。
とある歌番組で司会者から「ねえ、サクラちゃんってどんなタイプが好きなの?」って聞かれたときに、「え、え? すすすす好きなタイプですか!? そ、そうですね……、ツッコミ体質で、精神がタフで、私の全てを知ってても受け止めてくれる、そんな人が好きです! イニシャルがK・Rだと、死ぬほど大好きです!!」と答えたとき、俺は『永遠の真如』で世界を8巡目に持っていきかけてしまった。
精神攻撃だけでこの平和な世界を壊そうとするとは……。『最後の一人』め、何度俺の前に立ち塞がれば気が済むんだっ。
「お、おまたせしました! あけましておめでとうございます!」
そして、今も、俺の平和を乱そうと、『最後の一人』は俺の部屋の窓を割りながら、ごろごろと転がり入室する。
以前のような堅苦しい物言いも、ニヒルな言い回しもしない、7巡目の『最後の一人』は、快活な女の子だ。短かった髪を伸ばし、眠たげだった目を見開き、向日葵のような笑顔の似合うアイドルへと変質している。
そいつが、今、俺の部屋へ、なぜかサンタコスチュームで、割れた窓ガラスの破片で血まみれになり、向日葵のような笑顔で転がり込んできた。
「なんで、窓を割って入ってくるんだよ!? なんで、サンタの姿なの!? 割れたガラスが刺さって、血塗れてんよ、血塗れのサンタだよ、怖いよ!」
突っ込まざるを得ない。
すると、『最後の一人』は嬉しそうに答える。
「えへへ、CMの収録中だったので、そのまま来ちゃいました。こっちのほうが、倫太郎さんも喜んでくれるかなと思って!」
うわぁ、きつい。
可愛いんだけどね。可愛いけど、あの桜の末路がこれかと思うと、きつい。
それに6巡目の桜との確執もある。俺は彼女を断固として『最後の一人』として扱わないといけない。
俺とあいつは敵同士なのだ。
けど、この世界に、『敵』は、もういない……。
矛盾しているのはわかっている。
だからこそ、俺は答える。
いつものように、突っ込みを入れる。
「いや、普通にドン引きだよ! 血塗れのサンタとか、B級ホラーだよ! というか、それ以前に窓からこないでよっ、ヘリ飛ばして来ないでよっ、近所で噂になっちゃうじゃん!!」
「えっ……。そ、そうですか、そうですよね……。普通、引いちゃいますよね、あはは、私ったら馬鹿だな……。調子に乗っちゃってサンタ姿で来ようだなんて、ほんと馬鹿だな……。すみません、すぐに着替えますね……」
きつい。もう無理。
「こらーっ! リン、こらーっ!! サクラちゃんのサンタ姿のどこが気に入らないのよ! 」
――「ぶち殺すぞ、リン」
『最後の一人』が悲しそうに部屋から出ようとすると、こたつから出ようともしない春散と円が抗議をあげる。
「なんで、俺が責められてんのっ、こちとら窓割られてんだよ!? ほら、風がびゅーびゅー入り込んでんじゃん!」
「はいはい、――『紡績破邪の隻手』。ほら、直ったから、いいでしょ」
春散の能力で割れた窓ガラスが修復されていく。便利なものだが、その力は簡単に使っていいものではない。
「簡単に能力使うな! それ無害じゃないからね! 寿命とか大事なもの色々削ってるって、俺ちゃんと説明したよね!?」
「ふっ、理解してるわ、リン。けど、サクラちゃんのこのサプライズ登場シーンのために、私は命を削る覚悟があった……、それだけのことよ……」
したり顔で春散は呟く。内心「きまったー」とか思ってそうでむかつく。
「こんなアホなことに、削るな! あと、その言い草、『最後の1人』に入れ知恵したの、おまえかよ!」
「いや、サンタコスは私じゃないわよ。ちょっと、「窓割って入ってきてー」ってメールしただけよ」
「そっちのほうが大問題なんだよ! 窓さえ割らなきゃ、血塗れサンタになってないんだよ!」
「ハルさんを責めないで、あげてください! 悪いのは全て私なんです!」
春散と口論していると、見かねた『最後の一人』が間に割り込む。
「うん、結構おまえも悪いよ! 「窓割って入ってきてー」ってメールに、おまえなんて返した!?」
「え……。「窓を割って、ですね。わかりました。完璧にこなしてみませます。ヽ(=´▽`=)ノ」と返しましたが……?」
「アウトーッ! なんでそこで止めないねん! 窓割って入ることに、なんで何の疑問を抱かないねん!?」
――「リン、興奮しすぎてエセ関西弁になってる。きもい」
突っ込みが最高潮に達する前に、円のセーブがかかる。
危ない危ない。俺って興奮すると、キャラ変わるから。
「はあっ、はあっ、突っ込みを入れすぎて我を失った……」
「鼻息が荒いわよ、リン。きもっ」
幼馴染組み2人は、遠慮のない言葉で俺を中傷する。
『最後の一人』だけは、俺のことをフォローし続けたが、フォローが白熱しすぎて俺を褒め称え始めたので即刻やめさせた。
ちなみに、サクラの怪我は、円の「いたいのいたいのとんでけー」で完治させた。なんでも、アイドルに跡が残ってはいけないらしい。
なら、窓を割らせんな……。
◆◆◆◆◆
「将棋、ですか?」
『最後の一人』は、不思議そうな顔で、肌色の将棋盤を見つめている。
彼女を呼んだのは他でもない、ゲームの人数合わせのためだ。
「あれ、やったことないの?」
「いえ、ありますけど。そんなに強くありません……」
「ああ、負けそうになったら『能力』使っていいルールが、この家には常時展開してるから大丈夫よ。自然と良い勝負になるわ」
「いや、そんなルール展開してるとか初めて聞いたよ!?」
春散がしれっととんでもないことを抜かしたのを、俺は聞き捨てならなかった。
――「暗黙の了解。ヽ(=´▽`=)ノ」
「その顔文字やめろや!?」
円も負けそうになれば『能力』を使う気満々のようだ。携帯で例の顔文字を使ってまで、賛同している。
「当たり前じゃない、リン。じゃないと、この『能力』、何のためにあるかわからないわ。ヽ(=´▽`=)ノ」
「少なくとも、その顔文字を見るために、俺の能力はあるわけじゃないよ!?」
俺のパッシブで発動している『認識する能力』のせいで、いやでも普通の会話の裏にある顔文字まで認識してしまう。
『最後の一人』と円までは許せたが、春散のうざさは許されない。
「わ、わかりました、リンさん。私は能力を使いません!」
「あ、そ、そう? ありがとうね。……おまえらも使うなよ」
『最後の一人』だけは、俺の言うとおりに能力を控えてくれそうだ。他2人には、しっかりと釘を刺す。
一番危ないやつの能力の心配がなくなったところで、春散が口を挟む。
「よし、賭けるわよ。勝ったやつは、負けた誰かに、一回だけ何でも命令できちゃうから」
「――っ!」
――「――っ!」
春散の賭け将棋発言に、『最後の一人』の表情が変わる。その後ろで、円が携帯でその状況を文字にして表現し、同じ表情をつくる。
円、ほんと『最後の一人』が好きだな……。明らかに、『最後の一人』が来てから、口数増えてるもん。このアイドルオタめ。
「いや、賭けとかやめようぜ。賭けて、ろくなことになった試しないし」
――「いや、それはどうかなと思うな。それは今までの話であって、今日もそうだとは限らないんじゃない。せっかくサクラちゃんがきてくれるのに、盛り上がらないゲームだと申し訳ないと私は思うな。賭けという目的があれば、盛り上がるでしょう? だから、ここは様子見で一度くらいは試してみてもいいんじゃないかな。なあに、ここに居るのは女の子がほとんどだから、変な命令なんてしないよ。もし、問題があるとすれば、リンが勝って、女の子に変な命令する場合だよね。リンは、女の子に変な命令しちゃうような、変態さんなのかな? そうじゃないよね。そうじゃないなら、いいんじゃないかな。私はリンを信じてるよ。ね、いいんじゃないかな。いいよね、ね。ね!」
アイドルオタが必死すぎて、やばい……。
『最後の一人』に何させるつもりだこいつ。
「そ、そこまで言うなら……」
円の剣幕に押され、俺は頷いてしまう。
「よーし、決まりね! それじゃあ、第17回、賭けゲーム対決の始まりー! いえーい!!」
そう言って、春散はどこからか取り出したクラッカーをぱんと鳴らす。
盛り上がっているのは春散1人だけである。
『最後の一人』と円は、ただならぬ表情で、優勝商品の魔力に囚われている。俺も『最後の一人』を優勝させないため、笑っている場合ではない。
ここは円と結託するのが一番だろう。
俺は円をアイコンタクトで、意思を通じ合わせる。悪いが、『最後の一人』には円の餌食になってもらう。
円のゲームの弱さは筋金入りだが、流石に同盟すれば勝てるはずだ。
じゃらじゃらと、将棋の駒を並べる音が鳴る。
こうして、賭けゲーム対決が始まったのだった。
◆◆◆◆◆
しかし、平和だ。
前の世界では戦いの毎日だった。俺こと冠理倫太郎、三季咲春散、鴛噺円太が揃えば戦いの戦略を考えるのが普通だった。
だが、この7巡目の世界で3人が揃えば、何で遊ぶかを悩ませるのが普通になっている。あの歪な関係だった3人が、今は心を許せる親友となっている。
変哲もない時間。確かな、幸せな時間。
1巡目の世界で願った想いが、ここに実現している。
している、はずだ――
「はい、王手角取り。次、リンよ」
なん……だと……?
変哲もない時間。幸せな時間。のはず、――だが、何かの違和感がある。
そう、王手角取り。角を使って、角と王の両方にチェックをかけている。常套手段、……のはずだ。
だが、そこに違和感を覚える。
本来ならばありえないものが、現実に介入している違和感。
『極化使い』の攻撃を受けているような、懐かしい感覚。
世界の法則をごっそりと入れ替える、禁忌の力の波動。
…………。
「なあおまえ、能力使ってない?」
「ぷ、ぷふふ、使ってない使ってない。この公明正大な私を疑っているというのかしら?」
いつもの、春散のむかつく半笑い顔だ。いつも通り過ぎて、確証は得られない。
春散には『紡績破邪の隻手』と、まだ完成していないが『広々高射七十二色』という72の能力群の雛形を宿している。
能力は多様で、応用能力も日々発達している。
無言で知らない能力を発動されたら、百戦錬磨の俺でも流石に気づけない。
「仕方がない、角はあらきめるか……」
俺の認識能力を最大限に使えば、確証は得られるだろう。
だが、『能力』を使うなと言った手前、俺から使うわけにはいかない。少なくとも、確証を得られるまでは、まだ……。
信じるしかない。
この平和な世界で『極化』能力をみだりに使うようなやつが、俺の仲間にいるはずがない。俺は仲間たちの心を信じている。
ついさっき、みだりに使ったのを見た気がするが、信じるしかない。
「7四歩。次は、円だ」
――「1四飛車。次、サクラちゃん」
ぶっちゃけ、『極化』の波動は円のほうからも感じている。むしろ、しまくっている。
けど、協力体制を敷いているので何も言わない。あいつが俺を攻撃していないのは確かなのだ。
「2六銀です」
「私ね。少しつらいわぁ、逃げようかしら。、-1五王ね」
マ、マイナス1五王……?
くっ、今度こそ、確かな違和感を感じる。が、その違和感の正体を掴めない!
駒が盤から飛び出て戦ってるとか、そういうのはどうでもいい。なぜか、春散の駒をとることができないとかも、どうでもいい。くそっ、春散がしているであろう反則、その正体がわからない。
「くっ、仕方がない。2四歩」
――「1三飛車新」
「2五桂馬です」
「-2五王」
-2五王だと……。
くそ、このまま下がられると俺の駒では届かなくなってしまう! 早めに攻めなければ!
「4一桂馬」
――「1二飛車新」
なんか、円が飛車を量産している気がするけど、気にするな。
今は春散に集中しなければ!
「6七歩です」
「私の番だな。うーむ、リンに狙われて厳しいな。-3五王」
また、下がった……。負けだ。こうなっては、俺の駒は届かない……。
届かなければ、あいつの王を絶対に王手できないのだ。必然的に、あとは俺たちの駒が取られていくのを見ることしかできない……。
「――って、それ、ゲームとしておかしいじゃねえかっ! 魔眼『全世の眼』!」
時間の『認識』を止めて、時間を止める。
止まった時間の中では、『極化』能力の影響を受けない。
そして、数々の反則が飛び交っている将棋盤を確認して、俺は時間を『認識』して、時間を進める。
「おまえら反則しすぎだろ!?」
俺は進み始めた時間の第一声で、全員を糾弾する。
まず反論してきたのは、やっぱり春散だった。
「あ、いーけないんだー。リンたら、能力使ったでしょー?」
「いや、それどころじゃないから! おまえとか、ずっと使ってるじゃん!?」
「それはリンが能力を使わなければ、存在しなかった反則。つまり、リンが言葉通り、能力を封印して負けていれば、この反則はなかったことになる。つまり、私は能力を使わずに、勝利したという事実だけがそこに残る。私の新能力『断罪血色の否義』ならば、それが可能だったのよっ」
「え? ああ、うん。……え、いや、意味わからん! 反則は反則だからね!?」
「ほう、どこらへんが?」
「春散は王が引きこもりすぎ! もうそれ戦場から消えてるよ! それ以上行くと、コタツから落ちるぞそれ!」
「そろそろ、物理的に下がれないなと心配してたところよ」
「あと、執拗に王手しながら、ルール無視で俺の駒を取るな! 角で王手角取りとか、香車で王手飛車取りとか、あつかましすぎるわ!!」
「いやぁ、新しい戦術でしたよねー。これが能力と将棋を合わせた全く新しい将棋、SYOUGI!」
くそ、全く反省する様子がない。
だが、『断罪血色の否義』を覚えてくれたのは嬉しい。俺の知っている春散に近づいている証拠だ。だが、違和感を操作する能力は、日常生活で面倒くさいこと、この上ない。
仕方がないので、矛先を違う2人に向ける。
「おい、円」
――「なに?」
「おまえ、なんで、飛車が6枚あって負けそうなんだ……?」
――「私は悪くない! 政治が悪い!」
「おまえの勝負弱さ、もう病気か何かだよそれ……」
――「(´・ω・`) 」
とりあえず、円をへこませる。能力で駒を増やしたなら、もうちょい頑張れ。
世界を騙す能力も、まさか飛車を増やすために使われているとは思うまいて……。
「で、『最後の一人』……」
「は、はい!」
「おまえの王、もういないじゃんそれ……。なんで続行してるの……?」
「えっと、みなさんが強すぎまして……。早々に私の王はやられちゃいまして……。こんなに簡単に私が抜けてしまうと、せっかくの4人将棋が盛り上がらないかなぁーっと、思って――」
「思って、うっかり、能力を使ったと」
「は、はい……」
『最後の一人』は、普通に構築能力で、自分の王を捏造していた。
駄目駄目だった。
誰一人、能力を使わずにいられなかった。
――「で、これ、誰が優勝なの?」
円は食い下がる。もうぐだぐだになった対決だが、優勝商品がどうしても欲しいんだろう。
「うーん、リンでいいんじゃない? ぶっちゃけ、我慢大会だしね。いつまで、能力を我慢できるか大会は、リンの優勝ー。ほら、リン、適当に命令してよ」
春散は優勝商品に興味がなかったため、簡単に俺を優勝とした。
――「なっ、リン、頼むから、その権利を下さい。サクラちゃんに着せたい服があるんです!」
「ええ!?」
アイドルオタは自分の欲望にまっしぐらだった。現役アイドルが、めっちゃびびっている。
「ああ、もうそれでいいよ……」
――「ありがとうございます、リンちゃん!」
もう疲れたので、円の願いを叶えてあげることにする。
円は、間違えて子供の頃の愛称で俺を呼んでいることに気づかない。
「ひぃっ、な、何を着せるつもりなんですか!?」
少なくとも、さっきのサンタコスより恥ずかしいことはないだろう。円の趣味はゴスロリが多いので、露出は少ない。
別部屋に連れて行かれる『最後の一人』を見送り、俺と春散だけが残る。
春散は、こたつの上のみかんを剥きながら、俺に声をかける。
「どう? サクラちゃん、苦手とか言っていたけど、大丈夫だったでしょう?」
「いや、途中で、『最後の一人』が見えないよう、『認識』切ってた」
「まじでか!?」
もう無理、と言ったあたりから、『最後の一人』の姿を俺は認識していない。俺の能力ならば、特定のものだけを見ないように操作できるのだ。
「見たら、吐くし」
「そこまでか……。しかし、私とてサクラちゃんの親友。私の能力で、その能力を打ち消すことに迷いはない……っ!」
「えぇー……」
無駄な決死の覚悟を見せている春散だった。
その後、『最後の一人』が着替えている間、俺と春散のバトルが行われた。
無駄に本気な春散のせいで、殺し合いに近いところまで発展してしまう。
三千世界の果てで互いに死に掛けているところを、衣装替えした『最後の一人』が回収しにきて戦いは終わった。
春散の宣言通り、そのときには認識能力を打ち消されていたので、『最後の一人』のゴスロリ姿を直視した俺は一週間寝込むことになった。
1・21 修正 一人称がひどいことに






