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7-1.世界7巡と1年と2ヵ月後だから、敵はいない!

注:世界7巡と1年と2ヵ月後です。

なので、7-1です。




 

 懐かしい夢を見た。


 あれは最初の物語。つまり、7巡前の世界の話だ。

 何億年も前の記憶。古びた写真よりもおぼろげな、モノクロよりも曖昧な、透明な思い出。


 喉が焼け切れ、心臓が潰れ、それでも最後まで戦い続けて、死んだ鴛噺。

 両手を千切られ、顔の半分が吹き飛んで、それでも最後は俺を庇って、死んだ春散。


 懐かしく、悔しい、そんな光景。

 自然と、俺の右眼から涙が零れていた。


――あんな状況でアホな会話してたなぁ、俺と春散……。


 主に人の生き死にとは別のところで涙が止まらなかった。

 人の生き死にの涙は、とうに枯れてしまったせいでもある。


 俺はゆっくりと身体を起こし、アホな涙をぬぐい、一階のリビングへと足を向ける。


 固まった身体をパキパキと鳴らしながら階段を降り、廊下を歩き、リビングに入る。


 そこには、中央のコタツに座りこんだ2人の少女がいた。

 2人とも、赤いドテラを着ていた。片方はモデルのように容姿端麗な長身の少女、もう片方は自然な黒髪を垂らした小柄で白皙の少女。


おはようヴァリスズノヴァ!」

――「おはようべりすずのば


 元気良く声をあげる三季崎春散と、無表情で携帯をこちらに向ける鴛噺円だ。


「……ああ、挨拶かそれ。おはよう」


 能力の応用で、『真意を認識できる』俺は、今のが挨拶であることがわかり、即座に突っ込みを入れる。

 それに対し、春散は待ってましたと言わんばかりに答える。


「ふふふ、私たちの間で流行らそうと思っている挨拶よ。どう、かっこよくない?」


 春散は、今のを、本気でかっこいいと思ってるのだろう。

 だって、7巡前もそうだったし。


 所詮、春散と俺の間にあるセンスの壁は乗り越えられないのだ。仕方がないので、それに関しては言及しない。あきらめる。


「ああ、かっこいいかっこいい。それで、だ。一応、聞いておこう。ヴェリスズノヴァとは一体なんなんだ……?」

「――特に意味はないわ」

「やっぱ、ないのかよ……」

「急に閃いたのよ。語感が良いので、とりあえず挨拶に採用したわ」

「普通、急に閃いたからって、挨拶にしようなんて思わんからな。かなり頭おかしい行動だということを、肝に銘じておけよ」

「ふっ、凡人では、この天才の感性についてこれないようね。あぁ、かわいそかわいそ。ねぇー、まどっちー」

「おい、(マドカ)。その挨拶、かっこいいか?」

――「いや、やばい」

「ま、まどっちぃぃっ!?」


 一瞬で裏切られる春散だった。いつものことである。


「さて、おまえに味方はいなくなったわけだが……」

「いや、いやいや、私だってそのくらいわかってるわよ。けど、なんていうか、言葉にできないのだけれど、懐かしいのよ……。何かを思い出すような、そんな……。だから、こう、この言葉を使わなくちゃって気になるのよ……」

――「私も同じ気持ちになったから、使ってる。初めて使う言葉なのに、慣れ親しんだ言葉のような、そんな感じがするの……。――やばいけど」


 懐かしい、だと……。


 そんなはずはない。同一人物だろうと、世界が一巡してしまえば、関わりは消失する。

 そう、あの(・・)春散・鴛噺と、ここにいる春散・円は、完全なる別人なのだ。


「お、おまえら……。本当に……?」

「ええ、そうよ。もしかしたら、この言葉は前世で大切な言葉だったのかもしれないわ。繋がりの深いまどっちも感じているのなら、ありえるわ……」

――「かもなー」


 大切な言葉。

 そう、あの春散は、あの言葉を嬉しそうに自慢していた。

 それはつまり、そういうこと、なのかもしれない――


 ――かもしれないが。


「――だからって、挨拶にそれはおかしいだろ」


 おかしいものはおかしい。

 そもそも、あれはただの思いつきであって、世界を超えて届くようなものではない。


 よしんば届いたとして、挨拶になるのはおかしい。


「え、あれ? 今、良い流れだったじゃない。これからの挨拶はヴェリスズノヴァでいこうって流れだったじゃない。やっぱり、リン的にはヴェリスズノヴァはアウト?」

「いや、そういうわけじゃない。ヴェリスズノヴァは駄目じゃない。むしろよくぞ、それを思いついた、褒めてやりたいくらいだ」


 おかげで、ちょっと懐かしい気持ちに俺もなれた。


「いやぁー、照れるなぁー。こういうネタでリンに褒められるなんて、初めてかなぁー」

「けど、挨拶にヴェリスズノヴァはおかしい、意味がわからない。意味をともなってないのは、おまえの悪い癖だぞ」

「いや、意味なんてあとから考えればいいじゃんさ」

「それは、でっちあげていると言うんだよ。馬鹿野郎」

「ば、馬鹿ってなによ! じゃあ、挨拶じゃなければ何につければいいのよ! ほら、リンが決めてよ!」

「いや、どこにもつかんって。ヴェリスズノヴァとか、意味のない言葉なんだから」

「え、『意味のない言葉(ヴェリスズノヴァ)』……? やだ、ちょっとかっこいいかも……?」

「そういう意味で言ったんじゃねえよ! おまえは、まっしぐらに生きすぎ!」

「じゃあ、私のヴェリスズノヴァはどこに落ち着けばいいのよ! かわいそうでしょうっ、私のヴェリスズノヴァちゃんが!」

「なにそんな感情移入してんだよおまえは! ちゃん付けするな、人か!」

「おお、擬人化ってやつね。ちゃん付けしちゃったから、女の子かぁー。きっと、普段はクール系だけど、好きな人を前にすると真っ赤になっちゃうようなロリっ子ね。色は赤と銀で――」

「――ああ、もうそれでいいだろ。おまえの脳内彼女ということで」

「捨てがたいっ! けどそれなら、もう少し可愛い名前つけるわ! ヴェリスズノヴァは、そういうのとは少し違うのよ!」

「捨てがたいのかよ!」


 春散はそういうのとは少し違う、と言った。

 完全に想起できていないだけで、この言葉が自分の最も大切な能力であることを薄々感じ取っているのだろう。

 

 ここまでくれば、あとは時間の問題かもしれない。春散のセンスならば、(じき)に『あの能力』も得る。

 ならば、ことが大きくならないように、ここで俺が能力開花の誘導をしてあげたほうがいいかもしれない。


「わかった。ヴェリスズノヴァは、違うものに付けよう。俺とお前の付き合いも、もう長い。おまえの考える方向性というのも、少しはわかってきた」

「お、珍しく乗り気ね、リン」


 少しばかり不自然な流れになるが、仕方がない。『呪われた力ヴェリスズノヴァ』を口にだそう。聞けば、すぐに閃くだろう。


「例えば、だ。――能力に、つけるなんてどうだ。こう、『呪われた力』と書いて、『呪われた力ヴェリスズノヴァ』とか……」


「ぶふっ! ぷーくすくす。聞きましたか、まどっちさん。あそこの倫太郎君たら、あの年になって『呪われた力』ですって、うぇへへはははっ、ごほっごほっ、あはははははっ!!」

――「爆笑」


 全て、ただの買い被りだった。

 春散はむせるほど大爆笑し、あの鴛噺ですら、にやける顔を必死に抑えている。


 なぜだ。なぜ、俺が言うとこんなにウケるんだ?

 春散が言ったときは、こんな空気じゃなかったのに。くそっ。


「言っとくけど、出所はおまえだからな!」


 たまらず、俺はネタをばらす。これで世界に関わる秘密が露見しても知らない。この恥辱よりかはマシだ。


「いや、私は名前考えただけよ。それに『呪われた力』なんて言葉を足したのはリンよ」

「いや、足したのもおまえなんだって! ほんとに!」

「えぇーやだこの人、何でもかんでも私のせいにしようとしてますよ。いくら、ハイがデフォルトな私でも、さすがにそんなハイセンスな言葉は足しませんよ。それはリンのセンスですよ、いやぁー、『呪われた力』かー、ハイセンスだなぁー、憧れちゃうなー」

「くそっ、ぶちたいっ――」


 この世界の春散に覚えがないであろうことは、誰よりも俺が知っている。だが、何とも納得しがたい状況に、俺は握りこぶしをつくる。


 そんなこんなで、いつも通り、俺はキッチンへと向かい、3人分の食事を用意し始める。

 そう、いつも通り、『友達と遊んでいる場面』だ。


 今、漫画を読めば、春散と同じところで「面白い!」と、俺は声をあげることができるだろう。


 あの頃とは違う。

 読んだ漫画も、遊んだゲームも、星の数より多いくらいだ。


 今となっては、一巡目の自分が、遠い。

 そう思いながら、黙々とお雑煮を作った。



◆◆◆◆◆



「今日は、色々ともってきてあげたわよ。囲碁、チェス、オセロ、将棋。特殊なやつも揃ってるから見てみて、これが大将棋で、3人将棋に4人将棋でー」

「うわ、見たことないのあるな」


 数万年と生きている俺でもお目にかかったことのないものがある。


 十人前を超えるお雑煮を食べ終えた俺たちは、大量のボードゲームを前に吟味し始める。


「けど、こういう卓上ゲームだと、おまえら『能力』使いそうで嫌だな……」

「おいおい、遊びでそういう真似したら冷めるじゃない。リンたら、この私がそんな真似をするとでも思うのかい?」


 春散は男前な口調で、もっともらしいことを言う。だが、


「おまえが昨日、羽子板勝負で『紡績破邪の隻手デストラクション・マリス』を使ったのを、俺は忘れていないからな……」

「いや、あれは、思いのほか2人が強いせいよ。私は悪くないわ」

「最後、羽が地面を切り裂いてたぞ。言っとくけど、あれ俺じゃなかったら死んでたからな」

「うっかり殺しちゃったかと焦ったわ」

「いや、ほんとやめろよ。一般人をうっかり攻撃したら、取り返しつかないからな。できるだけ能力は使うな」

「はいはい。私が本気出すのはリンだけよ」


 7巡目の世界では、春散とマドカの能力を開花させたのは俺だ。

 俺が能力を与えた以上、責任は持たないといけない。いかなる理由があったとしてもだ。


 俺は春散と口論しながら、1つの盤を手に取る。


「じゃ、三人将棋しようぜ。つーか、3人だからこれしかない」


 他のは偶数人数用が多い。


「うーん、せっかくだからあと1人呼んで、4人将棋しない? こっちのほうがルールわかりやすそうだし、他のゲームにシフトするときも4人のほうが都合いいしね」

――「論理的、賛成」


 だが、春散とマドカは第3の選択肢を選ぶ。

 2人は示し合わせたように、行動を始める。


「よし、まどっち。リンを生贄に、サクラちゃんを召喚スペリオルコールだ」

――「カウンターブラストッオーケー!」


 元気よく携帯で答える円、そのまま電話をかけようとする。


 聞き捨てならなかった。

 まて。


「やめろや! なんであいつ呼ぶの!? あいつだけはやめようぜ、ほんとまじで!!」


 サクラ。

 俺にとっては、『最後の一人ココノエ・サクラ』という名のラスボスだ。相性が最悪だとかいう話じゃない、会ったら胃が裏返りそうになる。魂レベルの宿敵であり、トラウマの塊なのだ。


「ぶふっ、ふふふふっ! そんな反応するリンがおもしろすぎるから、仕方ないのよ。あれでしょ、押すなよ、絶対に押すなよってことでしょ?」

「絶対に押すなよっていうのは、絶対に押すなってことだよ! 芸人じゃないんだからよ!」

「だが、手遅れだ。術式『神色自若の無震シェイシエリオン・デンガカルト』開放っ、まどっち、ファイナルフュージョン、承認!」


 言った傍から、また能力。馬鹿は死んでも治らねえ。


 春散の『神色自若の無震シェイシエリオン・デンガカルト』の効力が失われ、円の喉の封印が解けて喋られるようになる。


「お? おーぅ、声出せるようになった。ようし、私がんばるよ。あぁー、あァー、アー。テステス、マイクのテスト中ー」


 久しぶりに喋られるようになった円は、相変わらずの美声でやる気を見せる。

 そのまま、自分の声の確認をし、――いつの間にか奪い取っていた俺の携帯で、サクラに電話をかけ、俺そのものの声で話し始める。

 

 だから、おまえも能力使うなよ。


「あ、サクラか? 俺だよ、俺俺。リンだよ。久しぶりだな。……うんうん、ありがとう。それでな――」


 初めて見ちゃったよ、オレオレ詐欺。完成度高ぇ。

 堪えかねた俺は大声をあげて妨害する。


「おい、何勝手に、俺の携帯で、俺の声で、電話かけてんだおいぃ!!」

「おっと、ここから先は通さないよ、リン。いいじゃないか、ちょっと私たちの女友達を呼ぶだけだよ。ぶふっ、ふふっ、ごほっごほっ、ふははははっ」


 だが、立ち塞がる春散。大爆笑中である。


「笑ってんじゃねえか! あいつはやばいんだって、俺の死活問題なんだって! ――くそっ、おいっ、『最後の一人ココノエ・サクラ』、それは円だ、俺じゃない!!」


 全力で嫌がらせしている春散を突破するのは骨が折れる。

 俺はその場で、電話に聞こえように叫ぶ。だが――


「――『神色自若の無震シェイシエリオン・デンガカルト』。対象を、まどっちの喉から、この部屋の空間に変更。――ここから先は、震わない・・・・


 両手を広げた春散が高らかに宣言する。

 その能力は俺が教えたものだ。全ての振動を操る能力。携帯にまで声が届いていないのは、確かだろう。

 

「くっ、本気だな、春散。ならば、こっちも、――魔眼『全世の瞳エターナルフォースブリザード』を使うしかないか」


 俺も能力を開放し、眼を光らせる。

 ちなみに、ふっ、とも言ってなければ、どやっ、ともしていない。


 睨みあう春散と俺。

 部屋に備え付けられた時計が9時を告げる音が、開戦の合図となり、能力のぶつかり合いが始まる。



◆◆◆◆◆



 結構本気で戦った結果。

 お互い異空間にまで、吹っ飛んだ。


 能力開放中のマドカがいたので、なんとかサルベージされたものの、それは電話が終わったあとの話である。


 サルベージされたあとは、何とも言えない空気の中、俺と春散は謝り合った。

 流石に異空間まで吹き飛ばすのは、お互いにやりすぎだ。


 そんなこんなで、俺の一日が始まる。

 いつかの俺が望んだ、いつかの俺のための時間。


 この巡の世界が、最後だと信じて……。



全クリ後の世界です。うん、意味わからん。


1・21 修正

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