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スラティ

 ――森の中をさまようことおよそ三時間。


「やっと建物が見えてきた……。地図とコンパスくらい用意しておいてくれよ。見方わかんないけど……ってうお!」

 地図という言葉に反応したのだろう、守の目の前に紙切れが現れる。



コモン 地図

ラストリア大陸の地図



「あるのかよ……」と守がぽつりとこぼす。あれから三時間も歩き通しなうえに、二十分に一体は大猪や獰猛な鹿が襲ってきてへとへとだった守には、もう腹を立てる気力も無い。

『何か』がたびたび不可解なことを告げていくせいで、精神的にもかなり疲れているようだ。


「まあいいや、これでここがどこだか分かるだろ」

 と守は少し元気を取り戻して、地図に目を落とす。

 しかし、そこには今まで守が見たことないような文字で地名が書かれていて、先ほど以上に落胆する。


「もうとっとと町に入ろ……」と守は三本に増えた猪の牙を担ぎ直して、力なく再び歩を進める。

 ちなみに同じようにして拾った七枚の鹿の毛皮とさっき出てきた地図は、もう片方の手で丸めてわしづかみにしている。



 太陽が沈みかける頃、守はようやく町の入り口に到着する。

 大きな町らしく、周囲には高さ三メートルほどの壁があり、入り口らしき門以外の場所からは入れないようになっている。


 その門の両脇にはプレートアーマーを身に纏った番人らしき者が二人立っていて、近寄り難い雰囲気をかもし出している。


 しかし、疲れていて早く休みたいというのと、とにかく話を聞いてみたいという事情もあり、守はお構いなしに門へ向かっていく。



 守が門の目の前に到着すると、門番の二人は互いの槍を交差させて守の行く道を阻んだ。 


「××××」

 右側にいた男が、兜の顔面部を上にあげて言葉を口にする。


「パ、パードゥン?」

 何と言っているのか理解出来なかった守は、とりあえず精一杯の英語で返答する。


「××××?」

「なるほど、わからん。えっと……オレ、マチ、ハイル。オーケー?」


 言葉が通じないとなると、守はボディランゲージという手段に出る。自分と門を交互に指差して門番の顔をうかがう。


 すると、意図するところは通じたのか、門番の二人は顔を合わせて何やら相談している。


 話がまとまったのか、さっき話しかけてきた右側の男が守に近づいて手を差し出す。握手を求めているようだ。


 何でいきなり握手? と訝りながらも、守はそれに応じるべく毛皮と地図を地面に置いて、差し出された手を取る。



エドワード Lv18

種族 ヒューマン

身分 平民

所属 アーケンズ公国



(なるほど、こうすると人の情報も浮かぶのか)


 獣の遺留物などで頭に直接情報が入ってくるという現象に慣れてきていた守は、もうこの程度では動じなくなっている。


 門番の方はというと、握手した際に驚いた様子で守のことを見つめ返してきたが、手を放すとそのまま元いた場所に戻り、門のほうをあごで指す。


 どうやら通らせてもらえるみたいだ。


「お勤めご苦労さん」

 言葉が通じないのをいいことに、偉そうな挨拶を残して守は門を通る。



 ――アーケンズ公国領、スラティ。貿易が非常に盛んな町で、大陸全土から商人が集まる。二週間に一度『スラティ・マーケット』と呼ばれる大規模な市場が開かれ、その日は普段以上の賑わいを見せる。


 ちょうど市場開催の日だったのか、既に日没の時間帯であるにも関わらず、通りは人でごった返している。



「やけに人が多いな。とりあえずこの荷物を何とかしないと」

 象牙とか高いらしいしこれも結構な値段になるんじゃ、と守は思案にふけりながら歩いていると、ちょうど毛皮を取り扱っている露店を見つける。


「お、ここで売れないかな、すみませーん。って言葉通じないか」

「うん? その手にしてるのでも売りにきたのかい?」


 店主である小太りのおじさんは、どうやら守の言葉がわかるようだ。


「あれ、もしかして通じてる?」

「変なことを訊くね。商人やってるんだから当たり前だよ。で、用件は?」


 商人って頭いいのな、と思いながら守は毛皮を差し出す。


「この毛皮と、こっちの牙も出来れば買い取って欲しいんだけど」

「ニンブルディアの毛皮が七枚に、そっちはサベージボアの牙だね。合計で三万と七百ルドだよ」

「……なんて?」

「三万と七百ルド。相場通りだから一ルドも上乗せ出来ないよ」


 無愛想に商人が答えるが、守が聞き返したのは提示された金額に納得していないからではない。


(ルドってのはどうやら通貨っぽいな。門番が外国人だったから日本ではないと思ったけど、ルドなんて通貨の単位は聞いたこともない。でもこの商人は日本語ペラペラだし……)


 しばらく守は考え込んだが、自分だけでは答えが出せないことに気付き、商人に尋ねることにする。


「なあ、ここは何ていう国なんだ?」

「あん? アーケンズに決まってるじゃないか」


 アーケンズ――やはり守にとっては馴染みのない響きだ。


「日本に近い? てかおっちゃん日本人?」

「おうおう、待てよ。答えてやってもいいが、そんなに質問があるんなら情報料いただくよ?」


 金取るのかよ汚ねえ、と守は心の中で悪態をついたが、彼以外に日本語が通じる者がいるとも限らないし、素直にお金を払うことにする。


「わかった。払うよ、いくら?」

「百ルドでいいよ」

「んじゃ牙やら毛皮やら全部売るから、そこから引いといてくれ」


 守がそう言って担いでいた牙を下ろして商人に渡すと、守が見たことのないような金貨三枚と銅貨六枚を手渡してくる。


(三万七百から百引いて、三万六百。貰ったのは金貨が三枚と銅貨が六枚だから……)


 守にとっては複雑な計算をしていると、商人が先ほどの問いに答えるかのように言う。


「それで、ニホン……だったか? そんな地名は聞いたこともないぞ」

「へ?」


 計算中だったこともあり、守は間抜けな返事をしてしまう。


「いや、だっておっちゃん日本語しゃべってるじゃん」

「なに言ってんだ? オレが使っているのはシグリス語。お前さんと話せているのはインタープリターの効果だよ」

「インタープリター?」

「商人の固有スキルで、どの言語でも理解できるようになるんだよ。常識だろう」


 やっぱ商人すげえ、と守は尊敬の念を込めて商人を見つめる。

 商人もそれで気を良くしたのか、聞いてもいないのに更に情報をくれる。


「まあ商人じゃなくても、あるアイテムを使えばお前さんも自由にしゃべれるようになるさ」

「うーん、俺には無理だな。いくら良い参考書があったって、おっちゃんみたいに外国語を流暢に喋れる気がしない」


「参考書?」と守の返答に商人は首を傾げたが、そんな商人の様子もお構いなしに、守は話を元に戻そうとする。


「それはさておき、そんなにペラペラなのに日本知らないってどういう……っと危ない!」


 しかし守の質問は、左方から飛んできた(・・・・・)人影によって中断される。

 なるべく衝撃を殺すように、守は後ずさりながら人影を抱きとめる。飛んできたのはどうやら少女のようだ。



イリカ Lv2

種族 ケットシー

身分 奴隷

主人 ノトーリアス



(奴隷……? それに一番下の項目は出身地みたいなのじゃなかったか? ていうか耳すげえ。動物みたい。どうなってるんだろう。うわ、尻尾まである)

 色々と気になる点はあったが、守はまず少女の安否と状況を確認することにする。


「おい、大丈夫か? 一体どうしたんだ?」

「あ……ご、ごめんなさい」


 守の腕の中の少女はそれだけ言うと、慌てて守の腕から降りて、自分が飛んできた方向へと戻っていく。


 足取りはふらふらだ。猫のような尻尾もすっかり垂れ下がって、その表情には恐怖が浮かんでいる。


 少女が向かった先には全身まだら模様の大男がいて、鬼のような形相で何やら怒鳴っていた。




――ステータス画面――

ヒノモトマモル Lv5

職業 拳闘士Lv3

装備 皮の服 ???の卵

獲得スキル ビーストキラー


――スキル詳細――

Pインタープリター あらゆる言語を扱えるようになる

Pビーストキラー 獣系モンスターに与えるダメージが10%上昇する

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