53話 ~滅びた村2~
「えっ……なんでわかるんですか」
「苔一つ生えてないもの。長いこと風雨にさらされたら、いくら防腐加工されていたとしても、もうちょっと朽ちてるでしょ」
「ほほぉ……なるほど……」
「おーい、あっちにまだ食えそうな食料あったぜ」
「えっヴィルクリフさんいつの間に」
エリアスの観察眼に感心している間に、いつの間にかがれきの合間をスイスイ動いていたヴィルクリフが、大きく手を上げた。
「腐ってるモンもあるが、干し肉と酒が無事だ」
かつては食糧庫だったのだろうか。
崩れた蔵の間から、いくつか麻袋を取り出しつつ、ヴィルクリフは呟いた。
「寝床は……この状態じゃあ、厳しそうだがな……」
「そうね……寝台もつぶれてるでしょうね……」
二人は、悲しそうにうなだれた。
なにせ、立っている自分たちより背が高いものが、周りに生えている木しかないのだ。
たとえ布団がどこかに埋もれているにしても、寝転がれるような状態ではないのは確かだった。
「ああ……布団が恋しいわ。野宿には慣れてるけど、やっぱりあの柔らかさを求めちゃうわね」
「そうだな……どこでも寝られるが、どこでもイイってわけじゃねぇからな……」
と、兵士長と殺し屋の嘆きが聞こえてくる。
ごもっともな嘆きだ。私は眠らずにいられるが、二人にとっては死活問題だろう。
(うーん……なにか見つけられないかなぁ)
もしくは、なにか力になれないだろうか。
あまり離れると心配をかけるだろうから、二人の傍で、がれきを剥がしたり、モノがありそうな場所をひっくり返してみるものの、収穫はない。
(うーん、役立たず……)
今日のところ、なにも良いところなしだ。
なにかこう、よくあるファンタジーのように、レアアイテムをポッと見つける丘、特殊な魔法でこの町が滅んだ原因を探るとか、なんかそういうことでもできないものだろうか。
と、私がうんうん唸りつつ、あちこちをひっくり返している時だった。
「おーい! なんか変なモン見つけたぞ!」
と、ヴィルクリフから声がかかった。
「変なモンってなんですかヴィルクリフさ……て、え、それ」
ヴィルクリフが両手に持つのは、キラキラと輝く水晶玉だった。
まるで、占い師が使うようなもの、とでもいうべきだろうか。
「それ……なんか意味深ねぇ……」
エリアスも近づいてきて、まじまじと水晶玉を見つめている。
滅びた町の中に埋もれていた、水晶玉。
明らかに、なんだか怪しい代物だ。
「うーん……どうしましょう。とりあえず取っておいて……って、わ!?」
と、私が近づこうとした瞬間、水晶玉がものすごい光を発しだした。
まるでもう一つ太陽が生まれたかのような、眼球を焼くかと思うほどの光。
『なんじゃ!? なにがあった!?』
遠くで町の様子をチェックしていたテルペロン鳥がバッサバッサと羽を揺らして戻ってくる。
しかし、真っ白い光に視界を焼かれた私は、あわあわすることしかできなかった。
「わ、わかんないんです……今、水晶玉が光って……!」
『水晶玉……? な、エリアス! ヴィルクリフ!!』
「え、二人に何か……あっ!!」
ようやく眩んだ視界が戻った瞬間、目に入ったのはその場に倒れ伏した二人の姿だった。
慌てて近寄って二人をひっくり返す。
「脈はある……呼吸も……」
気を失っているのか、二人は目を閉じたまま動かない。
軽く肩を叩いてみても、無反応。
『……この水晶玉……見覚えが……』
「え、テルペ様知ってるんですか!?」
『古い記憶にある。これは……睡眠玉やもしれん』
「睡眠玉……って、じゃ、まさか二人は」
『ああ……この玉の力で、眠ってしまっているんじゃろう』
「な、なんだ……よかった~……」
害のある能力ではなかったらしい。
スヤスヤ眠る二人をそっとがれきの横の地面に横たえて、一息つく。
「いやー、しかし、いつ目覚めますかねぇ」
『わからんなぁ……なにせ、魔法の玉じゃし……』
「とりあえず、二人が目覚めるまで待ちますか」
例の睡眠玉は、また突如発動すると恐ろしいので、エプロンポケットに放り込んでおく。
今のうちに、もう少しがれきや木材の除去でも進めておくかと、私が立ち上がった瞬間だった。
ケーン!!
真横から、甲高い鳴き声が聞こえたのは。
「て、テルペ様! 変な声出さないでくださいよ!!」
クジャクもどきの姿のテルペロン鳥が、宙を舞いながら奇妙な声を上げている。
急にいったいなんなんだ、と迷惑そうに見上げると、
『ま、マズイ! ま、魔物がこちらにやってきている気配がする……!!』
「えっ……魔物!?」
サッと血の気が引いていくのがわかった。
二人が眠ってしまっているときに、魔物!?
「こっちって……この町ですか!?」
『うむ……間違いない。かなりのスピードで向かってきている……!!』
と、テルペロン鳥が言うが早いか、
ギーッ、ギャギャギャッ
町の向こう、森の合間から、おぞましい叫び声が聞こえてきた。
「うわ……まさか、もう……!?」
『……その、まさかじゃ』
テルペロン鳥が絶望の声を上げたと同時に、
『ニンゲン……ニンゲンの、匂いだ……』
ぞわ、と。
鳥肌が立つほど不快な声が、木々の合間から聞こえてきた。
『ニンゲンだ。本当だ、ニンゲンの匂いだ』
『まだ残ってたんだ、ニンゲン。食べたい、ニンゲン』
まるで、金属板をひっかくような、不快な声。
おそるおそる音の方を見て、ひっ、と喉が震えた。
「あ……あれ、って……」
見えた影は、二つ。
形は人型であるものの、肌の色は毒々しいオレンジ色。
爬虫類のようなギョロついた目と、いっさい頭髪のないツルリとした全身が、けっして人間たりえないことを知らしめてくる。




