28話 ~今後~
「アウロレシア王女、ご丁寧に連絡をしてくださり、ありがとうございます」
『いいえ……なんの力にもなれずに申し訳ございません。女王を……母を、わたくしでは止められなくて……』
今にも泣きだしそうな、か細く優しい声。
お守り越しであっても、胸がギュウッとしめつけられた。
「王女様のせいじゃありません! こっちのことは、こっちのメンバーでどうにか対応しますから……!」
『ありがとうございます……その、どうか、お気をつけてくださいね。と……ああ! そうだ! 一番大事なことを、言っておかなくては』
と、お守りの光が徐々に弱くなってきたところで、アウロレシアの声が大きくなった。
『実は、魔の森の中に”魔封じの洞窟”という名の大きな洞窟があるんです』
「ま……魔封じの洞窟? なんか、ファンタジーにありがちな名前の洞窟ですね」
『ファン……? え、えぇと、その洞窟内に、実は王家の秘宝が隠されているというウワサがありまして』
「お……王家の秘宝ですって!? そんなこと、あたしたちに話してしまってよろしいのですか!?」
エリアスが、飛び上がって声を張り上げた。
たしかに。王家の秘宝なら、部外者に教えていいものではないよな、と内心同意しつつ、お守りの返事を待った。
『もはや、伝説と言ってもいいくらい、はるか昔のウワサですし……なにより、その秘宝は、遠き場所へ転移する力がある、という特殊な言い伝えがあるのです』
(転移……もしかして、ワープ装置か?)
キョトンとした表情のエリアスと、光の弱くなってきたお守りを見つめつつ、脳内でその手のファンタジーアイテムをいくつか考える。
『もしそれを見つけられれば、兵士たちの目をかいくぐって、森から安全に抜けられるのではないか、と思います』
「……わ、わかりました。情報頂きありがとうございます。あたしとハナで、探してみます」
『魔封じの洞窟は、森の奥深くに位置すると聞いております。どうぞ……魔女様も、エリアスも……お気をつけて……』
声はだんだんとかすれるように小さくなっていき、お守りの光が消えると、完全に途切れてしまった。
シン、と静かになった森の中で、エリアスがその場にトスンとしゃがみこんだ。
どうやら、かなり緊張していたらしい。
自国の王女様相手だし当然かぁ、と納得しつつポンポンと背中をたたくと、恨みがましそうな目で見上げられる。
「っていうか……あんた、いつの間に王女様と仲良くなったのよ」
「えっ? あ、言ってなかったでしたっけ。死刑台から逃走した後、森に突入する直前にお会いしまして」
「あー……そういえば、城の裏からこの森へ来た、って言ってたわね」
「ええ。そこで少しだけお話をして、そのときにこのお守りをくださったんです。いやー、すばらしい王女様ですよね。エリアスさんのことまで、気にかけてくれていたみたいだし」
あれはまるで、旧知の仲のような気のかけ方だった。
さすが王女様。下々の者にも分け隔てないなぁ、なんてニマニマしていると、エリアスはふぅ、と小さくため息をついた。
「だって。アウロレシア王女とあたし、幼馴染だもの」
「……ハイッ!?」
唐突な爆弾発言に飛び上がった。
エプロンの端がうっかりめくり上がりかけ、死ぬ気で死守する。
「どっ、どど、どういうことですか!?」
「どういうもなにも……言ったでしょ? 代々、王家に仕えていたって。だから、子どものころから、あたしも城で訓練を受けていたのよ。王女様は年下だから、いい遊び相手になってあげていた、らしいわ」
「……らしい??」
歯切れの悪いセリフに、エリアスをジッと見返す。
彼はフー、と長々と息をつくと、ゆるりと首を横にふった。
「覚えてないの。……記憶が、おぼろげにしかないのよ」
「え……っ!?」
まさか、私が治療したせいで!?
そう思ったのがありありと顔に浮かんだのか、エリアスは片手をブンブンと振った。
「ちがう。ちがうの。もっとずっと前からよ。……うっすらとは、残ってるの。城の中庭で、誰かと遊んでいた記憶が……でも、詳しく思い出そうとすると、急に頭が痛くなって……」
「それで……思い出せない、と」
「ええ。でも、王女様はハッキリ覚えているみたいで、しょっちゅう気さくに声をかけてくれてね。だから、かえって申し訳なくって……なんか、ギクシャクしちゃったまま、今に至る、って感じよ」
「ハァ……なるほど……」
なんとなく、どういう状況なのかは理解できた。
ぼんやり覚えている程度の元クラスメイトが、同窓会で隣の席に陣取って、やたら昔話しつつ絡んできて気まずい、みたいな感じだろうか。
ちがうか。
「とりあえず、魔封じの洞窟ってのを探すのがよさそうですね……って、あれ? ヴィルクリフさんは?」
さっきから、会話に混ざってこないなぁと思いきや、そもそも姿が見えない。
キョロキョロと周囲を見回しても、あの長い黒髪は見えなかった。
「あら? 話に混ざれなくってすねちゃったかしら」
「そ、そういうタイプじゃなさそうでしたけど……」
苦笑いしつつ、王女様のお守りをポケット内にしまいこむ。
まさか、さっきの今ではぐれたってこともないだろうし、いったいどこへ行ったのだろう。
トイレか? だったら探すのも悪いだろうか。
でも、万が一ってこともあるし、木にでも登って周りを確認してみるか? なんてアクティブなことを考えていると。
「オーーイ」
当のヴィルクリフの声が、森の中から聞こえてきた。
「あっ、ヴィルクリフさん! どこにいるんですか?!」
「こっち、こっちだ! ……見つけたんだよ、それらしき洞窟!!」
「……仕事早いわね」
声の聞こえる方向へと、ガサゴソとやぶをかき分けて歩いていくと、髪や服に大量の葉っぱをつけまくったヴィルクリフが、大きく手を振っているのが見えた。
「お疲れ様で……って、なにもありませんが?」
「そりゃな。場所はもっと南だ」
彼は、グッと親指で木の向こうを示した。
顔立ちも相まって、なかなかカッコイイ仕草だ。前髪に枯れ葉が絡まっていなければ、だけど。
「うーん……出口、というか東の方へ向かうより、そっちの洞窟へ行ったほうがいいんですかねぇ」
「まぁ、わざわざ王女様が教えてくれたんだし……王家の秘宝とやらが使えるんなら、その方が安全かもしれないわね」
今のところ、ヴィルクリフのほかに追っ手の姿はないものの、これから兵士が増員されたら、どうなるかわからない。
【王家の転移装置】とやらが、ファンタジー世界にありがちな旅の扉のようなものであれば、ぜひ活用したいところだけど――。
「ま、ここでジッとしてたってしょうがねぇんだし、行くだけ行ってみようぜ」
「……そうですね……」
冒険は、新しいモノに飛び込んでこそ、だ。
よし、と両手で頬っぺたを叩いて気合いを入れる。
もう、処刑されるところまで行ったのだ。怖いものなんてない!
そう意識を切り替えて、進むヴィルクリフの後を追ったのだった。




