26話 ~今後の行先~
「そうねぇ。あたしは、実家の領地へ戻ろうかと思ってたけど……殺し屋のあんたはどうするの? 死んだことになってるんでしょう」
「そうだな。呪いが消えた時点で、オレは死亡とみなされてるはずだ。城に戻るつもりはねぇ」
「え、ブラウくんに無事を知らせないんですか?」
「弟には、もともと疎まれてたからな……それに、オレが死んだとなれば、制約は果たされる。ブラウの今後の面倒は向こうがキッチリ見るはずだ」
詳しく話を聞けば、『死の呪い』というのは契約で最上級のもののようだ。
【死の呪いが遂行された=契約は完了された】ということで、彼が死ぬことにより、弟の保護という契約は永劫のものとなったらしい。
(なんか、がん保険の払込免除特約みたいな契約だな)
私が彼を浄化したのは、呪いが完全に発動した後だったから、制約的に遂行された、という扱いになるようだった。
本当に、なんともイイタイミングで治療してあげられたようだ。
よかったなぁ、とほのぼのした気分に浸っていると、エリアスは眉をひそめ、男性に向かって問いかけた。
「弟には、って……あんた、ブラウに嫌われてたの?」
「……グッ。あ、ああ……なんだろうな、ずっと避けられててな……」
「あの、優しい子が? ……わからないものねぇ。身内相手だと変わるのかしら」
「優しい……そうだな。アイツは本当に優しい子だ。だから……まぁ、オレに原因があったんだろうな……きっと……」
「ちょっと、そんなに落ち込まないでしょ。ブラウなりの理由があったんでしょ、きっと」
エリアスがなんともいたたまれなさそうに慰めているので、空気を変えようと、おずおずと口を開いた。
「あのぅ……行く宛てがないようでしたら、私たちと一緒に来ませんか?」
「あぁ? いっしょに??」
「死んだことになってるなら、城には戻れないでしょうし……私も記憶喪失で、行く宛てがなくってですね……とりあえず、エリアスさんについていこうかとは思ってるんですが」
「き、記憶喪失……はー、あんたも大変なんだな」
男性は、ぽかんと大口を開けて驚いた後、少しだけ考え込むようにして頭に手を置いた。
そのまま、しばらくうんうんとうなっていたが、
「あー、深く考えるのは、止めだ! あんたには命を救ってもらったっていう恩もあるし、オレの行く宛ては当然ねぇし、一度死んだ身でよけりゃ……ついていかせてもらうぜ」
と、ニヤッと笑って頷いた。
よかった! と両手をパンッとたたいたものの、そういえばエリアスの意見を無視してた! と思って彼の顔色を窺うと、
「べつにあたしも構わないわよ? 彼の腕前は本物だったしね。……まぁ、得物は爆散したようだけど」
「あー、アレなぁ。長いこと使ってたし、思い出のモンだったんだよなぁ……ま、寿命と思ってあきらめるが」
「ううぅ……面目次第もございません……」
あきらめたように笑う男性に罪悪感が刺激され、しおしおと謝る。
「オイオイ、気にすんなよ。第一、アレは暗殺用じゃなくて、傭兵時代から使ってたモンだ。ソレ用の武器は別で持ってるしな」
と、彼は懐から刃渡りが手のひらサイズくらいのナイフを数本取り出した。
「ま、刀はどっかの町か村で仕入れるさ。今のところは、こっちでなんとかする」
「あんた、それだけ武器持ってたのに……ホントに、あの場で死ぬつもりだったのねぇ」
シュッと再びナイフをしまい込む姿をまじまじと見つめて、エリアスがあきれたように首を振った。
「そうそう。あと、いい加減に教えなさいよ」
「ああ? なんだよ、突然」
「名前よ、名前。……殺し屋さん、なんてずっと呼ばれたくないでしょう?」
彼はパチッ、と大きくまばたきした後、「あっ」と言った。
「そういやぁ、名乗ってなかったか。オレの名前はヴィルクリフ。で、そっちの元隊長の名前がエリアスってことは知ってるが……命の恩人の名前はなんだ?」
「えっ。あ、私の名前は……ハナです」
「ハナ、な。短い付き合いになるか、長い付き合いになるかはわからねぇが……ま、よろしく頼むぜ」
男性は――いや、ヴィルクリフは、そう言ってガシッと力強く握手した。




