おはよう
「おはよう。」って彼女が言った。
窓から差し込む朝の光が、コーヒーの湯気を金色に染める。僕はまだ寝癖のままテーブルに座り、スマートフォンを片手に目を細めた。「おはよう。よく眠れた?」
「うん、でも朝が来るのが少しだけ早かったかな。」彼女は窓際の植木鉢に水をやりながら笑った。交際して半年、まだぎこちなさの残る朝の挨拶も、二人にとって新しい日常の一部。
トーストにバターを塗りながら、彼女の髪にかかる日の光を眺めながら聞いてみた。
「今日、どこか行かない?」
「うーん、どこか、って?」彼女は首をかしげ、僕の表情を探る。
「ただ、歩きたい。君と話しながら、歩くだけでいいんだ」
彼女はちょっと驚いたように目を輝かせ、「じゃあ、いつものパン屋さんまで行ってみる?」と提案した。二人で外に出ると、まだ人通りの少ない街角に冷たい空気が漂っていた。手袋越しに彼女の手を見つける。手袋のもこもこした感触越しにぎこちなく握っても、互いのぬくもりを確かめるには十分だった。
パン屋へ向かう途中、彼女が立ち止まって指差した。「見て、ねこー!」低い塀の上で、小さな猫が丸くなって日向ぼっこをしている。二人はしゃがんでそっと近づいた。猫は最初、警戒していたが、彼女が差し出した指先を一度だけ鼻で確かめると、そのまま目を閉じた。彼はそんな彼女の横顔を見て、自然と笑みがこぼれる。
パン屋では、いつものクリームパンを二つ買った。店主が「お似合いだねぇ。」と言うと、彼女はちょっと微笑んで「ありがとうございます。」と返す。そんなささいなやり取りが胸に残った。
帰り道、僕は話の途中で少し真剣な顔になる。「ねぇ、最近君といる時間が一番安心するんだ。」と言うと、彼女も静かに頷いた。
「私も!」
彼女はそう言ってくれたけど、たぶん僕の気持ちとちょっと違うんだろう。きっと僕は彼女よりちょっとはやく恋心を愛情に変えてしまったんだと思う。
交際半年。意見がぶつかることもあるし、慣れない部分に戸惑うこともある。でも今日は、コーヒーの香り、猫の温もり、店主のひと言――小さな出来事が積み重なって、二人を少しずつ紡いでくれた。まだ未来の大きな約束も確信もないけれど、朝の「おはよう」から始まる今日という一日を、一緒に過ごすことが何よりも大切だと、互いの目を見て確かめ合えた。
夕方、彼女が「また明日も同じように歩けるかな」と言うと、僕は笑って「もちろん」と答える。二人は肩を寄せ合って帰路についた。もこもこ越しのささやかな手の温度は、これからも続いていくことをささやかながらも確かに約束しているようだった。
最後まで読んでくれてありがとう。
起伏が少ない日常シーンの描写が苦手なので練習に書いてみました。
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