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【第2章・2話完結】ゲームは夜に作られる  作者: 未知(いまだ・とも)
第2章

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第5話「バトル班の優しい狂犬・前編」

バトルプランナーのポニテの兄ちゃん。

軽そうなノリで、いつもエナドリ片手に笑ってるけど——


この人、どうして社内で『狂犬』なんてあだ名がついてるの?


今回は、そんな疑問にお答えするべく、彼が『狂犬』と呼ばれるようになったきっかけのエピソードをお届けします。


※対戦ゲーム用語がいくつか出てきますが、いつものように、後書きに「読んで楽しい用語解説」をご用意しておりますので、まずはふわっと雰囲気でお読みいただいて大丈夫です!

挿絵(By みてみん)


それは、ティルナノ正式サービス開始前のこと——


クローズドβテスト用サーバーでは、

PvPバランス検証も兼ねた公式イベントが行われていた。


 * * *


「ん? ……なんか、コイツ動きおかしくないっスか?」


モニターの前で腕を組みながら、バトルプランナーの新堂直希が眉をひそめた。


開発室の片隅に設置された簡易モニタールームでは、

テストプレイヤーたちが操作するキャラの姿が、観戦用カメラに次々と映し出されている。


テスト参加者同士が、三戦二本先取ルールで腕を競う、一対一の決闘大会。

今日は、その最終戦が行われている日だ。


「このアカウント……さっきから全部、同じパターンで勝ってるみたいなんスけど」


「動き方が不自然、ということですか?」


隣でコーヒーを飲んでいた、チーフディレクターの榊原瑛士がモニターを覗き込む。


「不自然ってか……

 人間らしいミスが一個もないんスよね」


画面の中では、黒いローブの魔導士キャラが、また一人相手を倒したところだった。


回避と射線切り、スキルの回し方、硬直の切り方。

どれを取っても教科書のように無駄がない。


……いや、無さすぎる。


「毎試合、同じフレームで回避出してますね、あれ。

 入力ブレがゼロって、さすがに有り得ないっスよ」


「ふむ……」


瑛士はウィンドウを開き、戦闘のログをチェックした。


「……そうですね。入力タイミングとログの揺れ方から見ても、完全に機械的です」


普通に人間がプレイしていたら、こんなに揃った数値にはならない。


「外部ツール経由でパケットいじってますね。チート確定っス」


「まあ、正式サービス前に見つかっただけ、まだマシと思うべきですかね」


「っスね、さっさとBANしちゃいましょうよ」


「いや、それができれば早いんですけどね……」


瑛士は天井を仰いだ。


「証拠取りと挙動解析をして——

 つまり、ちゃんと戦ったログを残しておかないと、後で絶対揉めるんで……」


「なるほど。

 誰かが『遊んで』やらなきゃいけない、ってことか……」


新堂がため息をついた、その時だった。


画面右下のチャット欄には、問題の魔導士と、

それを観戦している他のテスターたちのコメントがひっきりなしに流れていく。


【Arena】《Root0》:弱すぎんだろ、これで本番出すの?


先ほどの黒ローブが、勝利ポーズのままチャットに挑発めいた一文を投げる。


「うっわ……」


「言ってくれますね……」


開発室の空気が、ピリッと張りつめた。


これは単なる不正ツール使用で済む話ではない。

このゲームを作り、運営している「中の人」たちへの、あからさまな挑発だ。


今ここで何もせずに流してしまえば——


『このゲームの対人戦なんて、その程度なんだろ?』


そう舐められたまま、うやむやにすることになる。


【Arena】《トウヤ》:アイツぜってーおかしいって、チートじゃね?

【Arena】《cho-ko》:運営さーん、不正プレイヤー放置するんですか??


ゲーム内の空気も荒れ始めた。


その時、新堂が思い詰めた表情で、椅子からガタッと立ち上がった。


「サカキさん……俺、出ていいっスか」


瑛士は横目で彼を見た。


「やってくれますか」


新堂はコクンと頷いた。


「ただしGM権限は禁止です。戦うなら同じ条件で、ですよ?」


「もちろん。ユーザーさんと同じビルドで、同じレギュレーションでやってやります」


ニカッと笑うと、新堂は自分の開発用マシンへと戻った。


「三本勝負っスよね?」


「はい」


「じゃあ一戦目は、観察に使います」


「いいですが……勝算は?」


「ありますって。三本中二本取ればいいんでしょ?」


軽口を叩きながらも、声のトーンはいつもより重い。

瑛士は、その変化にちゃんと気付いていた。 


* * *


開発室には、瑛士と新堂の他にもイベント運営担当の運用メンバー数名が詰めていた。

不穏な空気を嗅ぎつけて、彼らも次々と新堂のデスクの周りに集まってきた。


新堂が選んだのは、一般テスターと同じ条件で育成した近接アタッカー。

装備も、テストショップで買える範囲のものだけだ。


プレイヤーネームは【Shindo_Test】

社内でテスト用に使っている、そのまんまのアカウントだ。


明らかに手抜きなネーミングだが、

だからこそ、この名前で出れば——

公式が対応に乗り出してきたと、いやでもわかる。


しかし、先程瑛士が言った「GM権限ナシで」というのは、

「チーターを一般プレイヤーと同じ条件で倒してみせろ」

という意味だ。


公式の看板を背負って出る「負けられない試合」である以上、プレッシャーも加わって、これは相当なハンデ戦とも言える。

メンバーのひとりが、堪らず声をかけた。


「新堂さん……大丈夫ですか?」


否が応でも、皆の期待と不安の入り交じった視線が、新堂の背中に集まる。


「うっス。まあ、見ててくださいよ」


だが当の本人は、

「これから楽しいゲームが始まる」

くらいのお気楽な表情で、PCに向かっていた。


観戦モニターに、対戦カードが表示された。


――――――――――


◆ 黒ローブの魔導士——【Root0】(問題のアカウント)

    VS

◆ 片手剣を構えた軽装戦士——【Shindo_Test】


――――――――――


「えっ? 新堂さん、なんでわざわざ近接で行くんですかね?」


メンバーのひとりが首をひねる。


「魔導士同士で撃ち合った方が、まだ勝ち目あるのに」


「パターンを見るためには、近接のほうがわかりやすいんですよ」


瑛士はぽつりと答えた。


試合開始のカウントダウンが始まる。


3

2

1

——Start!!


黒ローブの魔導士が、一瞬で距離を取る。

そして詠唱、回避、設置スキルと、流れるように無駄のない動きをした。


射程のギリギリだけを狙う、いやらしい立ち回り。

それを新堂は、真正面から迎えうった。


「はいはいはい、当然撃ってくるよねー」


小さくつぶやきながら、わざと一瞬だけ回避を遅らせる。


魔法をギリギリの距離で被弾しながら、

相手の詠唱タイミングとキャンセルの癖を、ひとつずつ頭に入れていく。


「今の、0.3秒。次が、0.35秒?

 ……うっわ、マクロくさいなぁ」


当然、戦況は一方的だ。

距離を詰める前に被弾し、

近づいたと思った瞬間には、さらに次の魔法の標的にされる。


——そして、数分後。


【System】《WINNER:Root0》


画面には相手側の勝利を告げるメッセージが流れた。


【Arena】《Root0》:あっれ〜? また勝てちゃった??

【Arena】《Root0》:正式サービスでこのレベルはマズくないっすか、運営さんww


「え、負けた……?」


あっさりとやられた新堂の姿に、スタッフたちもざわつく。


「ま、一戦目は、こんなもんス」


【Arena】《Siegfried》:雑ッ魚w

【Arena】《トウヤ》:近接で来るとかアホなん?


画面のチャット欄には、観戦している他のテスターたちの冷やかしも混じり始める。


だが新堂は、それを涼しげな顔で流している。

瑛士が問いかける。


「……どうでしたか?」


「んー。だいたい三パターンっスね。

 立ち回りとスキルの順番、三つくらいの組み合わせをマクロかツールで回してる感じ」


「なるほど……読めそうですか?」


「当然。それが仕事なんで」 


画面が暗転している間も、

新堂の瞳は頭をフル回転させるかのように、じっと画面を見つめていた。


// TODO: Continue in next chapter.


* * *


後編は明日(1/23)公開!

チーター相手に新堂はどんなプレイを見せてくれるのか……

ご期待ください。


新堂くんのプロフィールは『いもモー裏話』に掲載されていますので、そちらもぜひ!

◆ いもモー裏話第16話【設定資料集】バトル班の狂犬!?新堂直希のキャラ設定とその秘密

https://ncode.syosetu.com/n4405lb/16


。❅┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅。


【PvPバトル回ミニ用語集】(バトル班の狂犬ver.)


◆クローズドβテスト

正式サービス前に、限られた人だけが参加できるテスト期間のこと。

「世の中に出る前に、一度お客さんに触ってもらって、ボロを出しておく期間」くらいのイメージ。

この時点で見つかったバグと炎上要因は、まだギリギリ笑い話にできる。


◆PvP(対人戦)

「Player vs Player」の略。

モンスターではなく、人間同士がガチで殴り合うモードの総称。

プレイヤーの腕前と性格とプライドがバチバチにぶつかってる世界。


◆マクロ

あらかじめ決めた一連の操作を、自動で再生してくれる仕組み。

本来は「同じ作業を楽にする」ための便利機能だが、

対人戦で「完璧なタイミング入力」ができるので、ただのズルになってしまう。


「人間らしいミスが一個もない」時、だいたい疑われているもの。


◆パケット

オンラインゲームでやり取りされる「データの小包」。

プレイヤーの入力や、キャラの位置、ダメージ計算などが、小さなデータの塊になって飛び交っている。

これをこっそり改ざんして、自分だけ有利に動こうとする者が、いわゆるチーターである。


◆ 射線切り

相手の攻撃が届く「まっすぐの通り道(射線)」を、壁や柱で遮ること。

魔法や弓、銃みたいな遠距離攻撃は、たいてい「見えている相手」にしか当たらない。

なので、ひとつ角を曲がったり、障害物の裏に回り込んだりして

「そもそもこっちが視界に入らない位置」に移動するのが、射線切り。


真正面から殴り合うのが苦手なプレイヤーたちの

「生き延びるための小賢しいテクニック集」の代表格。


硬直こうちょく

キャラが攻撃やスキルを出したあと、「しばらく動けなくなる時間」のこと。

大振りな技ほど威力は高いが、そのぶん硬直も長い。

この「動けない時間」に攻撃を差し込まれてしまうと、反撃確定のおいしいチャンスになる。


◆ GM権限

ゲームマスター権限の略。

オンラインゲームの世界で、運営スタッフだけが使える『神様モード』みたいな力。

・どこにでも瞬間移動できる

・壁の中まで見にいける

・キャラを無敵にしたり、アイテムを無限に出したりできる


といった、普通のプレイヤーがやったら即アウトなことが、仕事として合法的にできる。


バグ調査や荒らし対処には欠かせないが、

対人戦でこれを使った瞬間、それはもう「試合」ではなく「公開処刑」になってしまう。

瑛士が新堂にわざわざ「GM権限ナシで」と釘を指した理由はそこにある。


◆ビルド/レギュレーション

ビルド:その時点のゲームの「バージョン」のこと。

レギュレーション:その試合での「ルール・縛り」のこと。


「ユーザーと同じビルドで、同じレギュレーション」

=開発用チートも封印して、プレイヤーと全く同じ条件で殴り合う、という宣言。


◆パターンを読む

相手の「行動のクセ」を見抜くこと。

・この距離だと必ずこの魔法を撃ってくる

・この状況だと必ず後ろに下がる

といった「無意識の習慣」を、試合の中で一個ずつメモしていく作業。


新堂はこれを、負け試合の最中に平然とやっている。


◆Shindo_Test

新堂が使っている、あまりにもそのまんまな開発用アカウント名。

・隠す気ゼロ

・でも逆に公式感は満点

 この名前が見えたら、「公式が本気で殴りに来たから覚悟しろ」の合図である。

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