表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コメディー短編(現代社会)

【コメディー版】臭い車

作者: 多田 笑

少しでも笑っていただけたら嬉しいです。

 ある日、俺は親友の歩夢(あゆむ)に呼び出された。どうやら深刻な相談があるらしい。


 待ち合わせのカフェに行くと、すでに歩夢が座っていた。


「おーい、陽介! こっち!」


 手を振る歩夢に近づき、俺は腰を下ろす。


「で、相談ってなんなんだ?」


 尋ねると、歩夢は急に真剣な顔になって口を開いた。


「ああ……実は先月、中古で車を買ったんだ。その車が……なんか、臭くてさ」


 俺は思わず身を乗り出す。オカルト好きの俺にとって、こういう話はご馳走だ。


「臭いって……どんな臭いだ?」


 水没車ならドブ臭い、事故車なら血の臭い──そんな怪談が脳裏をよぎる。胸が高鳴った。


「……あのな、中古の軽自動車って安くても二十万はするだろ? でも俺が買ったのは、一万円なんだ」


(きたきたきたー! 事故物件ならぬ事故車両!? 安すぎだろ! 絶対、霊が乗ってるやつじゃん!)


 俺のテンションは爆上がりだった。


「しかもな、一か月乗ってるのに全然故障しないんだ。点検だって半年ごとに無料でしてくれるらしいし……」


(……な、なんだ? まだ引っ張るのか? いいから早く“臭い”の正体を!)


「……で? (くさ)いって何なんだ?」


 痺れを切らして尋ねると、歩夢があっさり言った。


「え? だって安いのに調子いいなんて、胡散臭いだろ?」


(……は? その“臭い”かよ!?)


 俺はテーブルに突っ伏した。


「いやいやいや! そんなダジャレのために呼び出したんじゃないだろ?」


「当たり前だろ! 今のは冗談だって。……でもな、その車、本当に“臭い”んだ。鼻が曲がるくらいにな!」


 歩夢は深刻そうに言った。


(……やっと本題か!)


 歩夢はホットコーヒーをすすり、ため息をつく。


「でな、この前、その車で深夜にドライブに行ったんだよ」


(深夜のドライブ! まさに心霊現象にうってつけ!)


 俺はごくりと唾を飲んだ。


「最初は普通だった。エンジンも一発でかかるし、ラジオもつくし。『意外と快適じゃん』って思ったんだ。でも、問題はナビだった」


「ナビ……?」


「そう。目的地を入れたら、やたらハイテンションでさ──『了解したよ~! 最短ルートをご案内しちゃうよ~!』って、芸人みたいにしゃべるんだ」


「……芸人? でも、それなら楽しい気分になれていいじゃないか?」


 俺は眉をひそめる。


「そう思ったけどな……俺がちょっと寄り道して違う道に入ったらだぞ?」


 歩夢は声を低くした。


「『あれ? 今、違う道に入りました? いや、別にいいんですけどぉ……どうせ私の指示なんて無視するんですよねぇ……』」


 背筋がぞわりとした。


 ただのナビが、まるで感情を持つかのように拗ねる……?


「極めつけはな、次の交差点で曲がらなかったら……『……もういいです。案内やめます。勝手に迷子になれば?』って黙り込んだんだよ」


「……勝手に、黙った?」


 俺の声はかすれた。


 歩夢はうなずく。


「そうだ。人工音声に、あんな“すね方”があるか?」


 ナビの機械音声が、人間のように怒り、黙り込む。俺の頭の中で「普通じゃない」という警鐘が鳴る。


「結局さ、山の中で迷って……帰り道のナビを設定しようとしたら、『今日は気分が乗らないんで休みます』だと」


(ナビが気分で……休む? 何それ……面倒臭っ!)


 そのとき、俺は気づいた。


 歩夢がゆっくりと口を開く。


「どうだ……? 面倒臭い車だろ?」


「お前が面倒臭ぇわ!!」


 俺は思わず叫んでいた。


 すると、歩夢はしゅんと肩を落とす。


「辛気臭ぇわ!!」


「キレイに捕ろうとするな! 飛び付け! 根性だ、根性!!」


「え……泥臭い? 高校球児か!? 難しいわ、それにツッコむの!! ふざけてるなら、俺はもう帰るぞ!」


 俺は息を切らして立ち上がろうとした。


 そのとき、歩夢が急に真剣な顔つきになった。


「ごめん……。実は、本当に“変な臭い”がするんだ。いきなり話したら信じてもらえないと思って……」


 その言葉に、俺は足を止める。


「なんだよ……歩夢! 水臭ぇな! 俺たち、親友だろ。お前の言うことなら、信じるに決まっているじゃないか……。で、どんな臭いなんだ……?」


「陽介……ありがとう。それでな……その臭いってのが……“カレー臭”なんだ」


(ん? 今、“加齢臭”じゃなくて……“カレー臭”って言ったか?)


「クミンとか、ターメリックとか、スパイスの匂いが……車内に充満するんだ」


(……本当に“カレー臭”かよ……!)

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 これってもしかして「アホ臭い」って言わせたい?  でも普通に面白かったです。
最後に『寺育ちのTさん』が出てきて抹香臭いことにならなくて残念! 昔のGPSは精度が低くて、最初期のカーナビがT字路を直進しろと指示したという恐ろしい話は聞きました
なるほど、いろんな臭いツッコミか。 >「ああ……実は先月、中古で車を買ったんだ。その車が……なんか、臭くてさ」 >俺は思わず身を乗り出す。オカルト好きの俺にとって、こういう話はご馳走だ。 ただ、導…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ