〇九五 コンドラの悪巧み
イスタルの爬神教教会施設。
コンドラの執務室は重苦しい空気に支配されていた。
そこには、コンドラ、サウォ、アクの三人だけしかいない。
ラビッツに関する会議なのに、そこに護衛隊の隊長であるドゴレは呼ばれていなかった。
「この一ヶ月、まったくラビッツは姿をみせませんが、一体どういうことでしょうか」
アクは苛立ちを抑えた低い声で、コンドラとサウォに尋ねる。
アクがイスタルにやってきて一ヶ月、ラビッツはまったく姿をみせなかった。
俺は一体何をしにイスタルまでやって来たというのだ・・・
アクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
アクがイスタルへ来た目的は、もちろん、表向きはラビッツを生け捕りにすることだ。
しかし、アクにとっての本当の目的は、タヌ、ラウル、二人を殺すことだった。
どちらにしても、ラビッツが現れない限り、どうにもならないことだった。
何もできないもどかしさが、アクのその表情に表れている。
「サウォ殿、どうお考えになられますか」
コンドラは隣に立つサウォに、状況の説明を求めた。
「理由はわからぬが、アク殿率いる親衛隊がイスタルへ到着した日から、突如としてラビッツは現れなくなった。これが事実である。つまり、ラビッツは親衛隊を恐れているということなのだろう」
サウォはコンドラにそう答えながら、アクの威圧するような視線を不快に思っていた。
「なるほど。そういうことなら理解できますが、しかし、困ったものです。せっかくラドリアからアクに来てもらったというのに、当のラビッツが現れないのではどうしようもありません」
コンドラはそう弱音とも取れる発言をすると、眉間に皺を寄せ、何やら思案するように黙り込んだ。
「このままでは服従の儀式への影響は避けられません。どうにかしなければ・・・」
アクもそう弱音を吐き、その顔を歪めて黙り込む。
正直、アクはコンドラとサウォの態度に苛ついていた。
人を呼んでおいて、他人事のようなコメントばかりしやがって・・・
それがアクの本心だった。
ピリピリとした雰囲気を漂わせるアクに、サウォは嫌味を言う。
「ラビッツを壊滅させるためにわざわざラドリアから来たのなら、ただ相手が出てくるのを待つのではなく、頭を使ったらどうだ。まさか何も考えずに来た訳でもあるまいに」
サウォはそう言いながら鋭い眼差しでアクを睨み、口元に人を見下すような笑みを浮かべた。
「・・・」
アクは黙ってサウォを睨み返すだけだった。
何も考えずに来たから、反論ができなかったのだ。
何も応えられずに苛つくアクに、コンドラが助け舟を出した。
「私にいい考えがある」
コンドラはそう言ってふんぞり返ると、
「サウォ殿、協力してもらえますか」
意味深な眼差しで、サウォに協力を依頼した。
「コンドラ殿への協力は惜しまない」
とサウォは応じ、コンドラに頷いてみせる。
「ありがとうございます」
コンドラは感謝の言葉を述べると、深い皺の刻まれたその顔に卑しい笑みを浮かべるのだった。