〇八〇 宿命
朝靄漂う神殿前。
コンクリが朝の祈祷を終えて外に出ると、〈聖なる井戸〉の傍に一人の少年が立ってこっちを見ていることに気づいた。
「トマスか」
コンクリは少年に向かって声をかける。
「うん」
少年は虚ろな瞳で無表情に頷いた。
「今日は何だ」
コンクリはトマスに問いかける。
トマスは前触れもなく突然、こうして聖なる井戸の傍に立つことがあった。
トマスの目は虚ろで、精気のない顔をして、感情の伴わない声音で、淡々とコンクリと会話をするのだった。
「服従の儀式を行うんだね」
トマスは感情のない声でそう言う。
その言葉で、コンクリはなぜトマスが現れたのかを理解した。
「そうだ。今がそのタイミングなのだ」
コンクリは真顔でトマスに答える。
「そうだね」
トマスは相槌を打ち、
「生贄を捧げるんだね」
と言って、寂しげな笑みを口元に浮かべた。
コンクリはそれを認めるようにゆっくりと頷き、
「生贄となる者が霊兎族を救うことになる」
と断言した。
トマスは宙を見つめる虚ろな眼差しで、じっとして動かない。
コンクリも何も言わず、じっとトマスの反応を待つ。
そして、
「もう決まってるんだね・・・」
トマスはポツリと呟いた。
そして、ボソボソっとその者の名を口にした。
トマスの口からその名を聞いて、コンクリは複雑な笑みを浮かべた。
「お前にも見えているのだな」
コンクリが問うと、
「うん」
トマスは迷わず頷いた。
その声音に揺るぎはない。
その眼差しの先に見えるものはたしかに、コンクリと同じものだろう。
「お前はそれでいいのか」
コンクリがそう言ってトマスを見つめると、
「それが宿命なら」
トマスはポツリと答えるのだった。
それはまるで、その者が服従の儀式の生贄になることは、生まれる前から決まっていたかのような言い方だった。
「宿命か・・・」
コンクリが憐れみの表情を浮かべると、
「そう、それは宿命なんだ」
トマスはポツリと、それでいてきっぱりとそれを明言するのだった。
その無表情な顔、ボンヤリとそこに立つ姿は、不思議な説得力を持っていた。
「ならば、失敗は許されまい」
コンクリは鋭い目つきでそう言い、その口元に微かな笑みを浮かべた。




