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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
79/367

〇七八 イスタルからの要請


 従者は軽く礼をしてから、


「イスタルより応援の要請が来ています」


 ハキハキとした口調でそう告げた。


 イスタルからの要請・・・


 ミカルとダレロの表情がさっと変わる。


 従者は報告を続けた。


「現在、イスタルではラビッツなる(やから)による蛮兵への襲撃が多発し、神出鬼没な彼らに手を焼いているとのことです。これはまだリザド・シ・リザドへは報告されておらず、コンドラ様からは、早急にこれを解決しなければ、いずれリザド・シ・リザドに知られることとなり、霊兎族全体にとって良からぬ事態が発生することになるため、至急ラドリアの精鋭を送ってほしい、とのことです」


 従者はそこまで報告すると、一同を見渡し反応を窺った。


「これはまさに、爬神様による公開処刑を正当化する出来事ではないか」


 高位兎神官の一人であるデラクはそう言って顔を強張らせ、他の高官たちも同じような危機感を持った。


「ラビッツなる武装集団がたんに蛮兵に対する襲撃のみを目的にしているのか、それ以上の何かを目指しているのか、今の段階では判断がつかないようです。ただ、コンドラ様からは、襲われた蛮兵には襲われる理由はなかったと明確に伝えられています」


 従者がハキハキとした口調で現状についての説明を終えると、


「公開処刑を正当化させないためにも、ラビッツなる輩を大至急捕らえる必要があるだろう」


 コンクリは一同に向かってそう告げ、続いて護衛隊隊長であるミカルに意見を求めた。


「ミカルよ、お前はラビッツについてどう思うか」


 コンクリの探りを入れるような眼差しに、ミカルは落ち着いて応える。


「蛮兵を襲うこと自体は、背信の罪に値する行為だと思います。しかし、そのリスクを犯してまで蛮兵を襲撃するということは、そこには何か理由があるとしか考えられません。つまり、ラビッツなる輩が蛮兵を襲撃するに至った理由を、考えてみるべきだと思います。コンドラ様は理由はないと伝えているそうですが、それはコンドラ様が気づいていないだけで、そこには必ず理由があるはずです。その理由がわかれば、ラビッツなる輩の姿も見えて来ると思います」


 ミカルはそう自らの見解を述べた。


 ミカルが理由にこだわったのは、イスタルのドゴレからコンドラの悪行を知らされていたからである。


 爬神教を守るための護衛隊である。


 その隊長であるミカルが、統治兎神官であるコンドラを非難する事は許されていない。


 だからこそ、理由にこだわる事でしかコンドラの悪行を訴える方法がなかったのだ。


 ミカルのその見解を受け、アクが意見を述べた。


「理由はどうあれ、これは秩序に対する挑戦ではないでしょうか」


 アクは厳しい口調でそう言い、その目に怒りの色を浮かべる。


 爬神族が支配するこの世界の秩序に挑戦することは断じて許されない。


 しかも、スペルスで公開処刑が行われたこのタイミングだ。ラビッツなる輩の蛮行が知られたら、爬神族からどれだけの報復を受けることになるだろうか。


 アクはそれを考えるだけで身の毛がよだつのだった。


 ラビッツなる輩は一刻も早く捕らえ、処刑せねばならない・・・


 アクの目にはラビッツに対する怒りと殺意しかなかった。


「うむ」


 コンクリはアクの主張に深く頷くと、


「たしかにアクの言う通りだ。理由は関係ない。ラビッツの行為は秩序に対する挑戦にほかならない。ラビッツはこの世界に対し反旗を翻した者たちである」


 とラビッツを断罪し、


「そうは思わぬか、ミカルよ」


 鋭い眼差しでミカルの見解を質した。


 コンドラがラビッツを断罪している以上、ミカルの答えは決まっている。


「たしかに理由はどうあれ、秩序への挑戦と考えて良いかと思います」


 ミカルは心の内を隠してそう答え、先の発言を撤回するように頭を下げた。


「これは由々しき事態です」


 アクは深刻な表情で訴える。


「うむ。リザド・シ・リザドはまさにラビッツなる輩の出現を予見していたのだろう。そして間違いなく、ラビッツはラドリアの惨劇によって生じたこの世界の綻なのだ。だからこそ、我々はリザド・シ・リザドに知られる前に、ラビッツなる武装集団を壊滅させる必要があるのだ」


 コンクリは強い口調でそう告げると、意味深な眼差しで一同を見渡し、


「ラビッツを生け捕りにし、服従の儀式において背信者として処刑すれば、まさに服従を示すのに相応しい儀式となるではないか」


 そう言って片頬に笑みを浮かべた。


 そのコンクリの冷酷な眼差しは、すでに服従の儀式の光景を見ているかのようだった。


「さすがはコンクリ様です」


 アクはコンクリのその案に感服した。


 ミカルとダレロ以外のすべての高官が、コンクリの案に感服し自然と頭を垂れていた。


 そして、コンクリは告げた。


「あの二人を処刑するのに最も相応しい舞台でもある」


 コンクリはそう言って、冷たい眼差しの口元に微かな笑みを浮かべる。


「あの二人とは?」


 アクが尋ねると、


「五年前にラドリアから逃亡した、タヌとラウルの二人に決まっている」


 コンクリは当然といった風に二人の名を告げた。


 コンクリが口にした二人の名に、その場の誰もが驚いた。


「タヌとラウルの二人がラビッツであることは、間違いのないことなのでしょうか」


 マーレは不安な眼差しでそれを確かめる。


 マーレにとって二人は今でもかわいい教え子なのである。


 だから二人を処刑するなんて考えられなかった。


「間違いない」


 コンクリは突き放すような冷たい言い方でそれを断言した。


「二人を救う方法はないのでしょうか」


 マーレがなおも食い下がると、


「ラドリアの惨劇の二人、ナイとハウルの血を受け継ぐ二人に救いなどない。ミザイ・ゴ・ミザイが二人を恐れているからだ」


 コンクリはそうきっぱりと言い、マーレにこれ以上の発言を許さなかった。


 そのコンクリの断固とした態度に、その場にいる者は皆、服従の儀式にかけるコンクリの強い意志を見たのだった。


 そして、ミカルとダレロは改めてコンクリの恐ろしさを思い知るのだった。


 コンクリはあの二人がイスタルにいることを知っていたのだ。


 ミカルとダレロの顔から血の気が引いた。


 その一方、アクはその事実に、もの凄い形相で宙を睨んでいた。


 ラウル・・・シールが愛する男・・・


 激しい殺意ともいえる感情が、アクの心の中で渦巻いていた。


 アクは思わず一歩前に出て、


「コンクリ様、イスタルからの応援要請は是非、我が親衛隊に受けさせてください」


 思い詰めた表情でそう訴えていた。


 アクは懇願するように深々と頭を下げる。


 そこに、


「これこそ護衛隊の役目です。コンクリ様の警護を務める親衛隊がラドリアを離れることは許されません」


 ミカルはそう強く主張し、アクに待ったをかけた。


 いくらタヌとラウルが成長し、(すぐ)れた戦士になっていたとしても、アクは危険だ。


 アクは並みの霊兎ではないし、タヌとラウルがアクに匹敵する力を身につけているとも思えない。アクは容赦なく二人を殺そうとするだろう。そのとき、ドゴレに二人が守れるだろうか・・・アクが率いるのはラドリアでも精鋭が集められた親衛隊なのだ。ドゴレ率いるイスタル護衛隊では残念ながら二人を守ることはできないだろう。だからこそ、なんとしても、アクをイスタルに行かせてはならないのだ。


「ミカルの言う通り、親衛隊はコンクリ様を守るのが役目です。ラドリアを離れるのは問題ではないでしょうか」


 ダレロがそう言ってミカルの援護射撃をする。


 ここでタヌとラウルを失ってはならない・・・


 ダレロも必死の思いだった。


 コンクリは再び精気を失った眼差しで宙を睨み、じっとして動かなくなる。


 しばらくしてその目に精気が戻ると、コンクリは答えを出した。


「アクよ、イスタルを知るお前に、ラビッツの始末は任せよう」


 コンクリはアクを真っ直ぐに見つめそう告げたのだった。


「ありがとうございます」


 アクは喜びに胸を震わせた。


 ラウルよ、首を洗って待ってるがいい・・・・


 そう思ったら、自然笑みがこぼれていた。


「必ずラビッツを壊滅させ、生け捕りにいたします」


 アクはそう決意を語り、改めて深々と頭を下げた。


 ミカルとダレロはコンクリの決定に黙って従うしかなかった。


「儀式で処刑する霊兎だということを忘れるな」


 コンクリは冷たくそう付け加えた。


「わかりました」


 アクは真顔でそう応え頭を下げる。


 生け捕りにするのはラウル以外の連中だ。あいつだけはその場で殺してやる・・・


 アクのその殺意を秘めた眼差しを、コンクリは頼もしく思うのだった。


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