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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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〇六九 焦り


 ザクッ、ザクッ、ザクッ・・・


 畑を耕す鍬の音が気持ちよく聞こえてくる。


「休憩だー」


 タケルの声がすると、サスケは鍬を置いて一本松の下へと向かった。


 そこにはいつもの光景があった。


 視線の先には作業を終えたタケルがいて、その横にクミコが昼食の入ったカゴを持って立っている。


 その昼食の入ったカゴを覗き込むヘイタ。


 アジとセジも額の汗を拭いながら、一本松の下に集ってくる。


 みんなが揃うと車座になって座り、いつものように昼食を摂りながらお喋りを始めるのだった。


 腹を空かせて食べる料理ほど美味いものはないし、みんなでワイワイ言いながら食べると気分もいい。


 だからみんな幸せそうな顔をしている。


「このジャム美味しいね!」


 ヘイタはそう言ってパンを頬張り、幸せそうな顔をする。


 この日は、タケルとクミコの間にヘイタは座っていた。


「ヘイタ、そんなにいっぺんに口の中に入れないの」


 クミコが呆れ顔でたしなめると、


「ヘイタ、お姉ちゃんの言う通りだぞ」


 クミコの隣でアジはそう言って、ヘイタを微笑ましく見る。


 セジは焼いた豚肉をパンに挟んでむしゃむしゃと食べていて、タケルは美味しそうに鶏のもも肉とパンを交互に口に運んでいるのだった。


 和やかな雰囲気がそこにはあった。


 サスケはその光景を微笑ましく思いながら、焦りのようなものを感じていた。


 数ヶ月前、


—ガルスコクの奉仕者がリザド・シ・リザドから奉仕者が逃げ帰って来たらしいぞ。


 タケルから告げられたその事実が、サスケを揺さぶっているのだった。


—使い物にならなくなった奉仕者は神兵(しんぺい)に食べられているんだってさ。それが嫌で逃げ帰ったらしい。


 タケルは淡々と言葉を続けたが、その顔には苦渋の色が浮かんでいた。


 奉仕者は天寿を全うすることなく、神兵に食されているという。


 スラム街からサスケの知り合いが何人も奉仕者としてリザド・シ・リザドに行っているのだ。


 まったく他人事ではなかった。


 胸がきりきりと痛んだ。


 そんなこと許せない。


—使い物にならないんだから、しょうがないよね。


 セジはそう言って受け入れていたが、


—ひどい話だよな。奉仕者たちは神に仕える喜びを胸に一生懸命尽くすだけ尽くして、使えなくなったら食べられちまうなんて、ほんと、(ひど)い仕打ちだ。


 アジは悔しそうにしていた。


 常に冷静なセジと情に動かされるアジ。


 そこに兄弟の根本的な性質の違いが表れていた。


—どうにかならないのか。


 サスケが問うと、


—俺だってなんとかできるなら、したい。でも、どうすることもできない。


 タケルはそう答えるだけだった。


 タケルだって苦しいのだ。


 爬神族に逆らったらどうなるか。


 サスケだってわかっていた。


 だから、諦めるしかなかった。


 だが、諦めない者たちがいた。


 三ヶ月前、タヌ、ラウル、ギルの三人がラビッツの仲間と行動を起こしたのだ。


 兎人狩りを行っていた蛮兵を斬り殺したという。


 あの新世界橋での決闘の後、交流を深めてきた三人がこの世界に反旗を翻したのだ。


 それはラドリアの惨劇を知ったときの衝撃と同じものだった。


 そのことを知ってから、自分たちにも何かできるんじゃないか、何もしないでいいのだろうか。


 そんな焦りを感じているのだった。


 食べる手を止め宙を見つめるサスケに、


「どうした、サスケ」


 タケルが声をかける。


 その声にはっとして、


「あ、いや、何でも」


 そう応えてサスケが苦笑いすると、


「しっかり食べて、もうひと働きだぞ」


 タケルはそう言って笑ったが、タケルにはサスケの考えていることが手に取るようにわかっていた。


 焦りを感じているのはタケルも同じだった。


—リザド・シ・リザドは我々の思っているような場所ではないかも知れないが、奉仕者は提供し続けなければならない。


 父ムサシのその言葉にタケルは反論できなかった。


 だけど、あの三人は違った。


 奉仕者たちのことを伝えたら、


—俺たちは行動を起こすことにした。


 次に会ったときにはそんなことを言ってきた。


—何をするつもりだ?


 と尋ねたら、


—すぐにわかるさ。


 タヌはそう言って笑った。


 そして、三ヶ月前、ラビッツによる蛮兵襲撃が明るみになったのだった。


 それを知ったときの衝撃。


 そのとき以来、タケルもサスケと動揺の焦りを覚えているのだった。


 タヌ、ラウル、ギルの三人とはその後も会っているけど、会う度に三人の顔つきが変わり、どんどん遠い存在になっていくようだった。


 俺たちも立ち上がれたら・・・


 日増しに強くなるその思い。


 タケルは顔を上げ、青空を背景に聳える高台の三階建ての塔を見つめた。


 もくもくとした綿菓子のような雲が、塔の背後を右から左にゆっくりと流れてゆく。


 一本松が風に揺れる。


 食事が一段落つくと、


「そういや、父上とトノジおじさんは何か企んでいるらしいぞ」


 タケルはそう言って意味深な眼差しをアジへ向けた。


 その発言にクミコははっとしてアジに目を向け、何も知らないアジは、


「へぇー」


 そんな相槌を打ち首を傾げる。


 何を企んでいるんだろう・・・


 アジにはまったく検討がつかない。


 その横で、クミコは微かに頬を赤らめ、セジと目を合わせる。


 セジがクミコに目で頷いてみせると、クミコは恥ずかしそうにセジから視線を逸らすのだった。


「ま、そのうちわかるだろう」


 タケルは清々しくそう言う。


 アジはタケルの表情から、それが悪い話ではないことはわかった。


「クミコは知ってる?」


 何気なくクミコに訊くと、


「全然、何のことだかわからないわ」


 クミコはアジに振り向くこともせずに首を横に振り、アジをチラッと横目に見て頬を赤らめるのだった。


 アジはそんなクミコの様子を変だとは思わなかったし、アジのことを冷たく見つめるセジの眼差しにも気づくことはなかった。


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