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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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〇六五 秩序を破壊する者たち


 テドウ家の塔の三階にある執務室。


「トノジ、みんなにあの話を」


 ムサシはそう言ってトノジに目を向けた。


 ムサシの正面に座るトノジはムサシに目で(うなず)くと、一同を見渡し、


「これはムニム市場に出入りしている商人たちから得た情報なのだが、イスタルではこのところ、蛮兵(ばんぺい)が襲撃される事件が多発しているらしい」


 と、イスタルで起こっている異変について伝えた。


 治安部隊はイスタルへ出入りする商人に対し、霊兎(れいと)族の情報を得る努力をすること、得た情報は速やかに治安部隊に提供することを義務付けている。


 その中で上がった情報だった。


「それは興味深い話です」


 キヨス・ミザワは興味津々の眼差しで前のめりになる。


「あの従順な兎人(とじん)が蛮兵を襲うなどということは考えれらない」


 宗教担当のミノル・タヌカには、信仰心の厚い兎人に蛮兵が殺せるとは到底思えなかった。


 ミノル・タヌカの言葉に反応し、


「ラドリアで一度ありました」


 と発言したのはタケルだった。


 それがラドリアの惨劇を意味していることは言うまでもない。


「あれは気狂いの仕業だ」


 ムサシはそう言ってタケルの発言を一蹴し、


「トノジ、今わかっていることを伝えてくれ」


 と、先を促した。


「今得ている情報では、犯人は〝ラビッツ〟を名乗る集団のようです。そのことから判断すれば、今イスタルで起こっていることは、ラドリアの惨劇とは違い、組織的な犯行ということになる」


 トノジはそう言って、今イスタルで起こっている事と、ラドリアの惨劇との違いを説明した。


 ラビッツ・・・


 タケルとアジは目を見合わせ、その場の誰にも気づかれないように頷きあった。


 二人はラビッツのことをすでに知っていた。


 直接、タヌ、ラウル、ギル、その三人から聞いていたからだ。


「それは組織的な犯行ということで間違いないのか」


 ミノル・タヌカはそう確認し、納得できない表情を浮かべる。


 信仰心が厚く従順な兎人が、徒党を組んで蛮兵を襲うとはどうしても考えられないことだった。


「そういうことになる」


 トノジが真顔できっぱりと答えると、


「しかし、なぜ蛮兵は襲われたのでしょうか」


 そう疑問を投げかけたのはキヨス・ミザワだった。


「襲われた蛮兵に共通しているのは、兎人を食しているところを狙われた、ということのようだ」


 トノジは思案するように答えながら、(あご)をつまむような仕草をする。


「なるほど。しかし、蛮兵が兎人を食すのはさほど珍しいことではないはずです。それが今になって襲撃することの動機となり得るのでしょうか」


 キヨス・ミザワにはどうも納得がいかない。


「蛮兵が食すということは、そもそもその兎人は罪を宣告されているということだ。そういうことなら、襲われた蛮兵に非はないはずだが・・・」


 そこまで言って、トノジは言い淀んだ。


「そうではない、ということか?」


 キヨス・ミザワが興味津々の目を向けると、トノジはそれに促されるように重々しく話を続けた。


「ここがよくわからないのだが、統治兎神官(としんかん)であるコンドラが蛮兵による霊兎狩りを許しているという噂が出回っているようだ。それを証明するかのように、現場にいた兎人の証言によれば、罪を宣告された兎人は無実らしいのだ。蛮兵が勝手に罪をでっちあげて食べているということのようだ」


 トノジがそこまで言うと、


「それはあり得ない!」


 ミノル・タヌカが激しくそれを否定した。


「蛮兵が勝手に罪を判断することがあってはならない。これは爬神(はじん)教における大罪にあたるからだ。もし、蛮兵が勝手に罪をでっちあげているとしたら、爬神様がそれを許さないだろう。もしそれが事実なら、これは蛮狼(ばんろう)族にとっての悲劇の始まりになるのは間違いない。そして、もし統治兎神官のコンドラがそれを許しているとしたら、その罪はさらに重くなり、霊兎族による霊兎族の統治が許されなくなるだろう。いくらなんでも、そんな馬鹿げた事はしないはずだ」


 ミノル・タヌカはそう自らの見解を力説し、コンドラにまつわる噂を否定した。


「うむ」


 そのミノル・タヌカの見解に同意するかのようにトノジは頷き、


「コンドラや蛮兵についての噂は、私も信憑(しんぴょう)性は低いと見ている。いくら愚かな霊兎族とはいえ、そこまで愚かではないだろう。ただ、そういう噂があるということも事実なのだ。ときに噂が人を動かすこともある。どうもコンドラがイスタルの統治兎神官に就任してからというもの、住民が神隠しにあったり、罪を宣告される住民も極端に増えたりと、住民が不安に思うことが増えているようなのだ。そういうこともあって、ああいう噂が流されているのだろう。そこに現れたのが、〝ラビッツ〟を名乗る武装集団ということだ」


 と、難しい顔をして自らの認識を伝えた。


「イスタルでは秩序が崩壊しはじめているのかもしれませんね」


 キヨス・ミザワがそう感想を口にすると、


「うむ。その可能性はあると思う」


 トノジはそれを認めて頷いた。


 それからテーブルにつく一同に対し、


「理由はどうあれ、蛮兵がラビッツを名乗る者たちに襲われていることは確かだ」


 トノジは噂は噂として、改めてそこにある事実を明確した。


 それを受け、


「ラビッツ、か・・・しかし、霊兎とはほとほと愚かな人種だな。爬神様の番民(ばんみん)である蛮兵を殺害したということは、爬神様に剣を抜いたことになる。それがどういう結果を招くことになるのか想像できないのだろうか」


 ムサシは霊兎族の惨めな未来を予測し、兎人の愚かさを鼻で笑うのだった。


 そのムサシの言葉を聞きながら、タケルとアジは宙を睨み、太ももにおいた手をぎゅっと握りしめるのだった。


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