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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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〇五八 七年の想い、その決着


「えっ」


 ギルは咄嗟にその太刀を受け止める。


 ガキンッ!


 アジの太刀は鋭く、重かった。


「ぐっ」


 ふらふらとよろめくギルに、


「うぉおおお!」


 ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!


 アジが襲いかかる。


 ギルは必死にアジの繰り出す太刀を躱し続ける。


 ガキンッ!ヒュンッ!ガキッ!ヒュンッ!ヒュンッ!ガキンッ!


 だが、もうギルは限界だった。


 ふらつくギル。


「死ね!」


 アジが繰り出した太刀を、


 ガキンッ!


 ギルはなんとか受け止めたが、


「くそっ」


 よろめき、片膝をついて倒れてしまうのだった。


 そこに、


「トドメだ!」


 と叫び、アジが思いっきり剣を振り下ろした。


 ギルにその太刀を受ける体力は残っていなかった。


 嘘だろ・・・


 ギルが諦めかけたそのとき、


 ガッキーンッ!


 剣と剣とが激しくぶつかる長い音が響いた。


 気づいたらそこに、銀色の霊兎、ラウルの姿があった。


 アジの振り下ろした剣を、ギルの体の前に立ちふさがるようにしてラウルが受け止めたのだった。


 助かった・・・


 ギルはほっとし、ぐったりとその場に倒れ込むとそのまま意識を失った。


「落ち着け」


 ラウルはそう言ってアジの目を鋭く見つめる。


「うるさい!よくもタケルを!」


 アジはそう叫びながらラウルを斬りつけた。


 ビュンッ!


 ラウルをそれを躱しながら、その実力を推し量る。


 こいつ、強い・・・


 アジの放ったその一太刀で、ラウルにはアジの実力がわかった。


 アジは太刀を次々と繰り出してくる。


 ガキッ!ヒュンッ!ガキ!ッ!


 ラウルはそれを払い、躱し、受け止める。


 アジはタケルが倒されたことで我を忘れていた。


 タケルの仇は俺が打つ!


 アジにあるのはその一念だけだった。


 ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!


 それにしても、アジの繰り出す太刀は鋭かった。


 ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!


 ラウルはその太刀を払いながら、


 賢烏にもこれだけの奴がいるのか・・・


 と思って本気を出すことにした。


「遊びはここまでだ」


 ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!


 アジの太刀を払うラウルの目つきが変わる。


 ラウルは動きを止めるとアジに向かって剣の切っ先を向け、その動きを目で制圧した。


 そのとき、ラウルから出る気の流れが変わったことに、タヌは気づいた。


 そして、タケルを介抱しているサスケにもラウルの(まと)う気の流れが変わったことがわかった。


 まずい・・・


 サスケはそう思った。


 くっ・・・


 アジはラウルに睨まれ動けなくなる。


「アジが危ない」


 サスケはそんな声を漏らすと、ぐったりとするタケルを橋の欄干によりかからせ、アジの加勢に向かった。


 ラウルはアジの前でピタッと剣を構えた。


 ラウルの鋭い眼光がアジを威圧する。


 その得体の知れない眼力は、アジの心に恐怖心を呼び起こした。


 アジは今まで感じたことのない底知れぬ恐怖を、この目の前にいる霊兎から感じて身動きが取れなかった。


 どこに動いても、どう動いても、次の太刀で斬り殺される気がして、全身から汗が吹き出していた。


 こんなことってあるのか・・・こんなところで死ぬのか・・・


 アジは死を覚悟した。


 そして、


 ならば、潔く散るまでだ・・・


 アジは覚悟を決める。


 その瞬間、不思議と恐怖心は消え、腹の底から力が湧いて来るのだった。


 ラウルはアジの覚悟を感じ取った。


 思った以上だな、こいつは・・・


 ラウルは呼吸を鎮める。


 ラウルの周りですべてが音を失くし、ラウルは意識を集中させていく。


「うぉー!」


 声を張り上げ、アジはラウルに斬りかかった。


 ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!


 アジはラウルに攻撃の隙を与えないように剣を繰り出し続けた。


 ガキンッ!ビュン!ガキンッ!ガキンッ!


 ラウルはアジの繰り出す剣を躱し、逸らし、払い、隙を狙う。


 凄いな・・・


 ラウルはアジの全身全霊の攻撃を受け流しながら感心していた。


 そこに、死を恐れぬ者の強さを感じた。


 ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!


 もういいだろう・・・


 ラウルは心を決めると、守りから攻めに移行した。


 ラウルはアジの太刀を体を入れ替えるようにさっと躱すと、すれ違い様にアジを斬り捨てる。いや、斬り捨てようとしたそのとき、


 ドンッ!


 サスケがアジの体を突き飛ばしていた。


 ビュンッ!


 ラウルの太刀は空を斬り、


 ズダダーッ!


 アジは勢いよく地面を転がった。


 もう体力の限界だった。


 タケル、ごめん・・・


 アジは大の字になって肩で息をし、張り詰めた緊張感から開放されことに安堵して、自分が生きていること、死ななかったことを感じるのだった。


「アジ、休んでてくれ」


 そうアジに声をかけ、サスケはラウルと対峙した。


 サスケの頼もしい声。


「後は任せた・・・」


 そう呟いてアジは目を閉じた。


 一方、ラウルは意表を突かれ驚いていた。


 この烏人にしては珍しい茶色の髪をした少年は、気配を感じさせない動きで仲間を助け、そして今、特に剣を構えるでもなく自分の前に立っている。


 この少年の気配を感じれなかったことは驚きだった。


 何者だ・・・


 ラウルはその茶髪の少年を見極めようと、じっと見つめ、そして改めて驚いた。


 まとう空気がタヌに似ていると思ったからだ。


 こういう男が烏人にもいるのか・・・


 ラウルがじっとサスケを見ていると、


「俺が相手になってもいいか?」


 サスケはそうラウルに声をかけた。


 その穏やかな口調にラウルは好感を持った。


「俺たちを見逃してくれたら、戦う必要などないんだけど」


 ラウルは素直な気持ちを伝える。


 そもそも事を荒立てて良いことなど何もないのだ。


 この事が監視団に知られたら、間違いなく大騒ぎになって、タヌとラウルはイスタルに居られなくなる。それどころか、無数の追っ手に命を狙われることになるだろう。できれば穏便に済ませたい。


 それがラウルの望みだった。


 サスケはふーっと長い息を吐くと、


「残念ながら、それは俺には決められないんだ」


 そう申し訳なさそうに答えた。


「それなら、戦うしかないな」


 ラウルは改めて剣を構え、サスケも剣を抜いた。


 睨み合う二人。


 サスケに隙はなかった。


 ラウルは攻めることができない。


 サスケはラウルが動くのをじっと待っている。


 こういうところが昔のタヌを見ているようだった。


 なんか、懐かしいなこの感じ・・・


 そう思ったら戦意も薄れていく。


 そんなラウルの心を見透かしてか、


「ちょっと待った!」


 タヌが待ったをかけた。


 その声にビクッとし、


「どうした?」


 ラウルが驚いて目を向けると、


「俺が相手になるよ」


 タヌはニコニコしながらそう言うのだった。


「いいのか?」


 ラウルが申し訳なさそうにすると、


「やりづらいだろ?」


 タヌはそう言って笑う。


 やはりタヌにはお見通しだった。


「わかるか」


 ラウルがほっとした表情を浮かべると、


「うん。ここは任せて」


 タヌはそう言ってラウルの肩をポンポンと叩いた。


 二人のそのやり取りをサスケは呆気に取られ見ていた。


 そんなサスケに構わず、ラウルはさっと構えを解き、剣を鞘に収めた。


 おもしろい奴らだ・・・


 サスケは喜びにも似た感情が胸に広がるのを感じた。


 ラウルはサスケに一礼してから、


「こいつ、タヌって言うんだけど、タヌが相手になるってさ。ちなみに、俺はラウルって言うんだ。よろしくな」


 そう言ってタヌにその場を譲った。


 この三人のやりとりを、タケルは橋の欄干に背中をもたせ掛け、体に力が入らないぐったりとした状態で眺めていた。


 殺すか殺されるか、そんな場面でなぜ笑っていられるんだ?・・・


 二人から感じる人としての余裕。


—七年前のことを引きずってその強さを無駄遣いするな。


 そのギルの言葉。


 七年もの間、ずっとギルを憎み続けてきた自分が小さく思えてくる。


 なんて奴らだ・・・


 タケルはあのラドリアの惨劇を起こした二人の子供たちを見て、やっぱり只者ではないと思ったし、


 ギルだって、弱いものいじめを許さなかっただけなんだよな・・・


 そんな風に思えてくるのだった。  


 タケルの心にはもう何の屈辱感もなかった。


 それよりも、得体の知れない喜びのようなものを感じて胸が震えていた。


 自分の人間としての器の小ささをみせつけられ、タケルは打ちのめされてはいたが、それと同時に、自分にそれを気づかせてくれたこの霊兎たちにどこか憧れにも似た感情を抱いている自分自身に驚いているのだった。


 こいつらには敵わない。


 タケルは素直にそう思った。


 タケルが長く抱いていた屈折した劣等感のようなものが、この時、すーっと消えていったのである。


 一方、アジは倒れたままだった。


 目は閉じているけど音はちゃんと聞こえていた。


 ギルはと言うと、疲れ果て、ぐっすりと眠っているのだろう、ぴくりとも動く気配がない。


 テムスは荷台で横になっていて、寝ているかどうかはわからない。


 新世界橋の上を、微かな風が吹いていた。


「おい」


 サスケは二人に声をかけた。


 あまりの緊迫感のなさに呆れてもいたが、それがなんだか嬉しくもあった。


「なに?」


 タヌはそう言いながら剣を抜いた。


 まったく緊張感のない返事にサスケはふっと笑みを浮かべる。


「いや、特に意味はないんだ。すまない」


 サスケはバツが悪そうに謝った。


 そんなサスケに、


「剣を交える前に、名前を訊いてもいいかな」


 タヌが親しみを込めて名前を尋ねると、サスケは嬉しそうに、


「俺の名前はサスケだ」


 と答え、それから、


「あそこでぐったりしている奴がタケルで」


 そう言ってタケルの方に(あご)をしゃくるようにしてから、


「あっちで倒れてる奴がアジって言うんだ」


 と、アジを目で示した。


「ありがとう」


 タヌは礼を言ってサスケに笑顔をみせる。


 その笑顔は人の心を惹きつける無防備なものだった。


 違う形で出会いたかったな・・・


 サスケはそう思った。


「それじゃ始めようか」


 そう言ってタヌは剣を構え、


「ああ」


 サスケがそう応えると、


「やっ!」


 タヌはすぐさま太刀を繰り出した。


 ビュンッ!


 何も考えず、ただ繰り出した太刀だった。


 意表を突くようなその太刀に、


「おっ」


 サスケは驚き、


 ガキンッ!


 体を右に捻るようにしながら払うと、


「負けるか!」


 と叫んで反撃した。


 ビュンッ!


 これまた鋭い太刀だった。


 ガキンッ!


 タヌはその太刀を払うと、


「へぇー」


 嬉しそうにサスケを見るのだった。


 相手にとって不足なし。


 すかさず、


「はっ!」


 タヌは太刀を繰り出し、


「やっ!」


 サスケも負けじと太刀を繰り出した。


 ガキンッ!


 剣と剣がぶつかり、そこから激しい剣の応酬が始まった。


 ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!


 ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!


 二人は楽しむようかのように剣を交えた。


 楽しそうだな・・・


 ラウルは(うらや)ましくその光景をみつめた。


 しばらくやり合った後、タヌは後ろに跳んでサスケとの距離を取ると、


「そろそろ決着をつけようか」


 そう言って剣を構えた。


 同時にその目つきが鋭く変わる。


 ラウルはタヌのその目つきを久しぶりに見た気がした。


 相手がそれだけの人物だということなのだろう。


「ああ」


 サスケはそう応え、剣を構え直す。


 サスケは改めてタヌをまじまじと見、そして、気づいた。


 そこにいるはずのタヌの存在を感じることができないことに。


 たしかに目の前にいるし、触れることもできるはずなのに、そこに何も感じないのだ。


 自分の出す気がそのまま何にもぶつからずに漂い流れていく。


 そんな感じだ。


 タヌはサスケの目をじっと見つめる。


 サスケもタヌの目をじっと見つめ返す。


 タヌは頬に微かな笑みを浮かべ、サスケも同じように笑みを浮かべる。


 しんとした空気が世界を支配する。


 緊張が高まっていく。


 それを見ているラウルも緊張で手に汗を握る。


 その刹那、


 ヒュンッ!


 空気が鳴った。


 俊敏な動きで張り詰めた空気を切り裂き、タヌとサスケは目にも留まらぬ速さでぶつかった。


 ガキンッ!


 勝負は一瞬だった。


「ぐふっ」


 膝から崩れ落ち、


 ドサッ!


 地面に倒れたのはサスケだった。


 タヌはサスケの繰り出す太刀を払いながら、すっとその懐に入ると、サスケの鳩尾に剣の柄をぶつけたのだった。


「うぐっ・・・」


 サスケは息ができなかった。


 それでも、サスケは鳩尾を押さえながら、なんとか立ち上がろうとするが、足元がふらついて立ち上がれなかった。


 そしてついにサスケはガクッと両手を地面に突くと、立つことを諦め、うつ伏せにバタリと倒れたのだった。


 その光景を見ていたラウルは当然といった表情の笑みを浮かべ、


 さすがだな・・・


 タヌの圧倒的な強さに感心した。


 タヌは立ち上がる様子のないサスケを確認すると、タケル、アジ、サスケの三人に向かって声を張り上げた。


「終わりだ!」


 タヌはそう告げると剣を鞘に収め、軽くズボンをはたいて埃を落としてから荷馬車に向かった。


「ギルを運ぼうぜ」


 タヌはそうラウルに声をかけ、ギルを二人で担いで荷台のテムスの横に寝かせた。


「よし、帰ろう」


 タヌは御者台に座り、その横にラウルが座った。


「どぉー」


 タヌは手綱を握ると馬の尻を叩いて荷馬車を走らせた。


 タヌの操る荷馬車はタケルの停めた荷馬車の横をゆっくりと()り抜け、イスタルに向かった。


 去りゆく三人の霊兎をタケルは橋の欄干にもたれ掛かったまま、力なく見送った。


 アジは倒れたままで荷馬車の去りゆく音を聞いていた。


 サスケは荷馬車が去ると、仰向けになって夜空を眺めた。


 夜空に浮かぶ綺麗な月。


 そこにある静けさ。


 ガタガタ、ガタン、ガタン・・・


 去りゆく荷馬車が立てるその音は、三人それぞれの耳に心地よく響いているのだった。


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