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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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〇五六 雪辱を果たすとき


 タケル、アジ、サスケの三人は、亜麻色の霊兎ギルを待ち伏せるために急いでウオチ(サムイコク側)の検問所に戻って剣を受け取ると、乗ってきた荷馬車で新世界橋の中央辺りまで引き返した。


 そして、乗っている荷馬車を他の荷馬車の邪魔にならないように端っこに寄せて停め、そこからウオチの検問所の様子を窺うことにした。


 タケルとアジが御者台に座り、サスケは荷台に胡座(あぐら)をかいて座っている。


「タケル、どうする気だ?」


 アジが訊くと、


「ここであいつらを待つさ」


 当然といった風にタケルは答え、


「検問所で待ってた方が楽だと思うんだけど」


 と、アジは疑問を口する。


 そんなアジの疑問に、


「検問所で揉めるわけにはいかないだろ。ここで七年前の借りを返すんだ」


 タケルは真顔でそう応え、検問所の入り口を睨みつけるのだった。


「ここで?」


 アジは首を傾げる。


 タケルはアジに振り向くと、


「どっちの領分でもない、この橋の上で決着を着けてやる」


 そう言って片頬に微かな笑みを浮かべた。


 タケルの目的は七年前の屈辱を晴らすことだ。


 同じ条件で戦わなければ雪辱を果たすことはできない。


 だから、橋の真ん中でギルを待っているのである。


「ああ、なるほど」


 アジはそう相槌を打ち、


「タケルらしいな」


 荷台のサスケはそう言って納得する。


 三人はサムイコク側の検問所を見つめ、じっと時が来るのを待った。


 いつしか日も落ち、橋を行交う馬車の姿も見えなくなっている。


 気づけば夜空に綺麗な月が昇っていた。


 しばらくすると、


 ガタガタ・・・ガタ・・・


 検問所の方から音が聞こえてきた。


 来た・・・


 タケルが検問所へ目を()らすと、一台の荷馬車から三人の霊兎が降り、検問兵から預けていた剣などを受け取る様子が確認できた。


 タケルはそこに亜麻色の霊兎の姿を見つけた。


 そして、一緒にいる赤褐色の霊兎と銀色の霊兎を見て身震いするのだった。


 いよいよだ・・・


 タケルは手綱を握り直すと、


「荷馬車を移動させるぞ」


 そう言って荷馬車をゆっくりと動かした。


「タケル、いよいよだな」


 アジが声をかけると、


「ああ、いよいよだ」


 タケルは目を輝かせる。


 アジには一つ気になることがあった。


「でも、どうやって決着つけるんだ?」


 アジが尋ねると、


「どうやって?」


 タケルは首を傾げる。


「向こうも三人、こっちも三人だ。いっぺんに行くか?」


 アジがそう言うと、タケルはアジの言いたいことを理解した。


「いや、まずは俺とギルの一対一だ。狂人の子供の相手をするのはその後だ」


 タケルは宙を睨んでそう答える。


 そこにある強い意志。


「わかった」


 アジはそれを承諾し、


「しかし、お前は真っ直ぐな男だな」


 と、タケルの実直な姿勢に感心した。


「正々堂々だ。俺は卑怯者ではない」


 タケルはアジを横目に見て胸を張る。


 荷台でそれを見ていたサスケも、タケルのそういうところが好きだった。


 プライドが高くてどこか屈折している部分もあるけれど、タケルは常に人として正しくあろうとする誠実な男だった。


「もし、狂人の子供が邪魔をしてきたら?」


 サスケが尋ねると、


「そのときはサスケとアジで二人の相手をしてくれ」


 タケルはそう言って頭を下げるのだった。


「任せろ」


 サスケはそれを承諾し、


「それはそれで楽しみだ」


 アジはそう返して笑う。


「どぉー、どぉー」


 タケルは道を塞ぐように荷馬車を横向きに停めた。


 夜空に浮かぶ月は満月だった。


 今日はきれいな月夜だな・・・


 タケルはそんなことを思っていた。


 これから決闘に臨むにしては落ち着いた心境だった。


 それは七年間苦しみ続けながら厳しい修行に耐え、自分を磨いてきたことに対する自信の表れに違いなかった。


 橋の上にはこの荷馬車と、あいつらの荷馬車しかいない。


 ギルの乗る荷馬車はこちらを気にすることなく少しずつ近づいてくる。


「よし、行くぞ」


 タケルはアジとサスケにそう声をかけて荷馬車を降りた。


 二人もそれに続く。


 三人は荷馬車の前に仁王立ちに立って亜麻色の霊兎を待った。


 そうとは知らないタヌは検問所を抜けると安堵(あんど)して、のんびりと荷馬車を走らせていた。


 荷台で横になるテムスに刺激を与えないように、タヌは優しく馬を(あやつ)った。


 タヌの操る荷馬車が徐々に橋の中央へと近づいていく。


 タケルの目に、御者台に座る赤褐色の霊兎の輪郭がおぼろげに見えてくる。


 ガタ、ガタガタ・・・


 荷馬車の音が次第に大きくなってくる。


 今だ・・・


 タケルは胸一杯に息を吸うと、


「止まれ!」


 腹の底から絞り出すような声で叫んだ。


 迫力のある声が前方から聞こえ、タヌは空を見上げるようにしていた視線を下げ、橋の前方に目を凝らした。


 すると、橋の行く手に道を塞ぐように荷馬車が停められていて、その前に三人の黒髪の若者が仁王立ちに立っているのが見えた。


 賢烏(けんう)?・・・


 タヌは三人の若者が賢烏族だと気づいて驚いた。


 タヌが唖然としながら手綱を引き、手前で荷馬車を停めると、


「待ってたぜ」


 タケルはニヤリと笑い、自分の肩の高さに持ち上げた剣を、鞘からゆっくりと引き抜いた。


 タヌは荷台に振り返ってテムスの様子を確認し、ラウルとギルに視線を向ける。


 ラウルは首を傾げ、ギルは月明かりに浮かぶタケルを見ると、


「あいつらには見覚えがある」


 とタヌに告げた。


「知り合い?」


 タヌは驚いてギルの顔をまじまじと見る。


「知り合いが剣を抜くかよ」


 ギルが呆れると、


「ま、知り合いにも色々あるからさ」


 タヌはそう言って苦笑いを浮かべた。


 タケルは抜いた剣を握り()めたまま立ち尽くしていた。


 こっちに振り向きもせず、三人で話し込む霊兎にタケルは苛立ちを覚える。


「さっさと降りろ!」


 タケルは今にも斬りかかりそうな勢いでギルの乗る荷馬車に向かって怒鳴った。


 声の迫力にタヌは振り返ると、申し訳なさそうにタケルに声をかけた。


「あの、怪我人がいるんです。だから、通してもらえませんか」


 タヌのその落ち着いた口振りが、タケルのプライドを傷つけた。


「ふざけるな!ここを生きて通れると思うなよ」


 怒りに満ちたその目に、タヌは驚いた。


 ただならぬ事態だということに、このとき初めて気がついたのだった。


「タヌ、あいつは俺のお客さんだ」


 ギルはそう言うと荷台から飛び降りタケルの前に立った。


 ラウルもすぐに荷台から降り立ち、タヌは荷台を見て寝ているか起きているかはっきりしないテムスに「休んでてね」そう声をかけてから御者台を降りた。


 タヌ、ラウル、ギルの三人は、タケル、アジ、サスケの三人と対峙した。


 ギルは一歩前に出て、


「なんか俺に用か?」


 剣を握りこちらを睨みつけているタケルに向かって問いかける。


 タケルも一歩前へ出て、


「待ってたぜ、ギル!」


 そう叫んで嬉しそうに笑うのだった。


「そんなに俺が恋しかったのか。俺も罪な男だぜ」


 ギルはニヤリと笑う。


「今日ここで、七年前の借りを返させてもらうぞ!」


 タケルはそう告げながら、胸に言いようのない喜びが湧き上がってくるのを感じるのだった。


 それは、タケル自身思いもよらない感情だった。


「ふん」


 ギルはタケルを鼻で笑う。


「一対一だ!」


 タケルがそう叫ぶと、


「返り討ちにしてやる」


 ギルはそう吐き捨て、腰に下げる剣を抜いた。


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