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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
23/367

〇二二 コンクリとトマス


 蛮兵たちが血眼になってタヌとラウルを追っている頃、精鋭養成所の施設内は何事もなく平穏だった。


 まだ夜の闇が支配する早朝の寝静まった時間、コンクリは祈りを終え、神殿の前に出た。


 すると、神殿の目の前にある〝聖なる井戸〟と呼ばれる井戸の前に、一人の男の子が立っていることに気づいた。


 コンクリは井戸に近づいていく。


「誰だ」


 と声をかけると、


「トマス・・・」


 男の子はそう答えた。


 トマスの目は虚ろで、その表情に意志は感じられない。


 夢遊病だろうか。


 コンクリは静かにトマスを見つめる。


 そして、トマスの前に立つと、握った右手を差し出した。


 トマスは虚ろな表情のままコンクリの右手を見つめる。


「これをお前にやろう」


 コンクリがそう言ってトマスの前で握った手を開くと、手のひらの上には植物の種がひとつ載っていた。


「これ、なーに?」


 トマスは無表情に尋ね、


「これは大樹の種だ」


 コンクリは優しく答える。


「大樹?」


 トマスの目は虚ろなままだ。


「千年は生きるという大樹の種だ」


 コンクリがそう説明すると、


「千年?」


 トマスは感情のこもらない声でそう呟いて、ほんの微かに首を傾ける。


「そうだ。それだけ長い時間、この世界を見続けることができる木だ。生きとし生けるものは、生まれては死んでゆく。すべてのものは現れては消えてゆくのだ。この儚い世界の有り様を、お前は見届けたいとは思わないか」


 コンクリの穏やかな声は夜明け前の静謐な空気の中で、トマスを優しく包むように響いていた。


「見届けたい」


 トマスはそう答え、無表情を変えずにコンクリを見上げた。


「トマス、この種をいつか、お前の手で芽吹かせるがいい」


 そう言うと、コンクリはトマスの手を取りその種を握らせた。


「うん。わかった」


 トマスは微かな笑みを浮かべ頷いた。


 コンクリは聖なる井戸で水を汲み、それをトマスの頭にふりかけてから、神殿の中へ戻っていった。


 トマスが目を覚ましたのは寮のベッドの上だった。


 その手にはしっかりと大樹の種が握られていた。


 トマスはじっとそれを見つめていたが、特にそれを不思議とも思わずにベッドの下に隠すのだった。


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