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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
21/367

〇二〇 逃亡


 蛮兵(ばんぺい)は夜にやって来る。


 蛮狼族監視団が引き取りに来るまでの間、タヌとラウルの二人は教会の地下にある〈罪人の間〉に入れられた。


 二年前のラドリアの惨劇以来、ラドリアでは夜間外出禁止令が敷かれているため、日が暮れてしまうと、すべての兎人(とじん)が外出することを禁じられていた。


 護衛隊や教会の人間も例外ではなかった。


 ラドリアの夜は蛮兵たちに支配される。


 罪人の引き渡しは夜と決まっていたから、それがあるときは蛮兵が引き取りに来ることになっていた。


 罪人の間は奥の壁に小さな祭壇が置かれているだけの何もない部屋で、一度に十人ほどの罪人を収容できる広さがあった。


 罪を犯した者はここで懺悔することが許されていた。


 せめて最後に罪を悔い改めるチャンスを与えようということらしい。


 悔い改めたところで監視団に引き渡されることには変わりないし、天国に行けるというわけでもないのだろうが、それでも、人は最後に何かに縋りつきたくなるものだ。


 そのための祭壇だった。


 タヌは冷たい石床の上に大の字に横になって天井を見つめた。


 その横でラウルも同じような恰好で天井を見つめている。


「なんなんだろうなぁ」


 ラウルがボソッと呟いた。


「うん?」


 タヌはラウルに顔を向ける。


「何がなんだかわからなくなった。俺は俺なりの信仰心で神に身を捧げて生きてきたつもりなのにさ」


 ラウルはそう言って眉間(みけん)(しわ)を寄せる。


「わかってるよ」


 タヌは優しく相槌を打つ。


「コンクリ様への忠誠心は誰にも負けないつもりだ。この俺が神様に背くことなんてありえないだろ」


 ラウルはそう言いながら怒りが込み上げてきて、天井を見つめる顔も険しくなる。


 ラウルは言葉を続ける。


「すべてを見通すコンクリ様なら俺たちの心に罪がないことを、ちゃんとわかって下さるって信じていたんだ。それなのに俺たちは今、この罪人の間で蛮兵を待ってるんだぜ。どういうことだよ」


 ラウルはやるせない思いをタヌにぶつけた。


 ラウルはどうしてもこの状況に納得がいかなかった。


 それはタヌもわかっているし、納得がいかないのはタヌも同じだった。


「そうだな」


 タヌはラウルの気持ちを受け止め、そんな相槌を打つ。


「本当にコンクリ様の決定なのかな」


 ラウルは首を傾げる。


 今回の理不尽な決定はドリルが勝手に下したんじゃないか、そう思えてしょうがなかった。


 敬愛してやまないコンクリのことをラウルが信じたい気持ちはよくわかる。


 しかし、


「コンクリ様以外に審判を下せる人はいないって、お前もわかってるだろ」


 タヌはそう指摘してラウルの淡い期待を打ち砕くのだった。


「そうだよなぁ」


 ラウルは力なくそう応え、「はぁ」とため息をつく。


 タヌの言う通り、審判を下せるのはコンクリしかいない。


 高位兎神官(としんかん)のドリルとはいえ、養成所の生徒たちを裁くことは許されていないのだ。


 もしそんなことしたら、ドリルこそ罪人として蛮兵の餌にされてしまうだろう。


「教官に逆らったらどうなるか、俺たちはそのみせしめなんだと思う。コンクリ様だって言ってるだろ、『この世界は力によって支配されている。力がすべてなのだ。力が正義なのだ。弱き者の声は踏みにじられ、弱き者は力によって淘汰されなければならない。それが、神が創った自然の摂理なのだ』なんてさ。それが爬神(はじん)教の教えだから、その教えを生徒たちに示すいい機会だと思ったんじゃないのかな」


 タヌはコンクリを敬愛するラウルのために、それらしくコンクリの判断を解釈してみせ、


「正しいとか間違っているなんていうのは、力の前では意味をなさない・・・」


 ラウルはタヌの解釈にそう付け加える。


 それは兎神官たちが説教のときによく使う言葉だった。


「そう。だから強くなれ、力を手に入れろ。俺たちはそう教えられてきた」


 タヌはそう言って「ふんっ」とそれを鼻で笑う。


「あーあ、なんてこった」


 ラウルは嘆き、


「でも、タヌはまるで他人事だな。蛮兵の餌にされるのは俺たちなんだぜ」


 タヌの落ち着いた様子にラウルは半ば感心し、半ば呆れてしまう。


 ラウルにはタヌの緊張感のなさが信じられなかった。


 そんなラウルにタヌは片頬に笑みを浮かべ、


「ラウルはこのまま蛮兵の餌になるつもりなんだ」


 と問いかける。


「えっ」


 意表を突かれ驚くラウルに、


「俺は蛮兵の餌になるつもりはないよ」


 タヌは天井を向いたままさらりと大胆なことを言うのだった。


「は?」


 ラウルはタヌのその言葉に混乱した。


 神への信仰が染み付いているラウルはいくら理不尽とはいえ、コンクリの下した決定に逆らうなんてことは微塵も考えていなかったからだ。


「俺は自分の力を信じて戦おうと思う」


 タヌはそう言ってラウルを見る。


 タヌの目つきは鋭く、その目はタヌの覚悟を表していた。


「どうやって」


 ラウルは頭の整理がつかないまま無意識に尋ねていた。


 タヌは腕組みをし、


「うーん」


 と唸り、それから納得するようにうんと頷くと、


「まずは逃げる。逃げてから考える」


 そう告げ、ラウルにニッと笑ってみせるのだった。


 ラウルはキョトンとした顔でタヌを見つめる。


 なんか、脳天気なような気がしないでもないんだけど・・・


 ラウルはそう思いつつも、不思議とタヌの〝逃げる〟という言葉に希望のようなものを感じるのだった。


 しかし、ラウルはすぐには応えられなかった。


 コンクリの判断に逆らうことはラウルには難しいことだった。


 コンクリに逆らうことは神に逆らうこと。


 つまり、地獄に落ちるということだ。


 ラウルは黙って天井を見つめ、考え続けた。


 タヌは何も言わず、ラウルの答えを待つ。


 しばらくすると、ラウルは自分の中の何かをきっかけにタヌに話しかけた。


「タヌ、俺には心残りがあるんだ」


 ラウルの天井を見つめながらそう言い、


「うん」


 タヌが先を促すと、


「母さんからもらったハンカチーフをあの家に置いたままなんだ」


 そう言って照れくさそうに笑うのだった。


 そのハンカチーフは母ミーヤとの別れの日にもらったハンカチーフで、父ハウルが起こしたラドリアの惨劇の数日後、ラウルはそのハンカチーフを昔住んでいた家に置いたまま護衛隊に連行され、そのまま精鋭養成所に入れられたのだった。


 ラウルはタヌと一緒にそのハンカチーフを取り戻すため、昔暮らしていた家を探しにいったことがある。(ハンカチーフのことは恥ずかしくてタヌには言っていなかった)


 それは朝帰りになってドリルに鞭で打たれたときのことだ。


 そのときはまだ二年しか経っていないというのに、貧民街の景色が変わっていて、乱雑に立ち並ぶ掘っ立て小屋の中に懐かしい我が家を見つけることができなかった。


 母ミーヤの形見のハンカチーフ。


 それがラウルの心残りだった。


 タヌはなぜラウルが危険を犯してまで昔住んでいた家を探し出そうとしたのか、その理由がわかってスッキリした気持ちになる。


「そんな大切なもの、何としても取り戻さないと、死ぬに死ねないよな」


 タヌがそんな風にラウルの気持ちを代弁すると、


「そう。その通り」


 ラウルは力強くそれを認めた。


 明るさを取り戻したラウルの表情にタヌは嬉しくなる。


「ってことは?」


 タヌがラウルの意思を確認すると、


「もちろん逃げるさ」


 ラウルは真顔できっぱりとそう言い切ったのだった。


「よし、一緒に逃げよう!」


「うん。そうしよう」


 二人は逃げることを決めたのだが、


「でも、どうやって逃げるつもりなんだ?」


 ラウルがその方法について尋ねると、


「うーん。それが問題なのだ」


 タヌは(とぼ)けたことを言うのだった。


 キョトン。


 ラウルは固まってしまう。


 一瞬の間の後、


「おい、やっぱり考えてなかったのかよ」


 ラウルがそう言って苦笑いを浮かべると、


「考えようにも罪人の間に閉じ込められるのも初めてだし、監視団の用意する檻がどういうものかもわからないし、何もかもわからないんだから、しょうがないだろ。でも、きっとなんとかなるさ」


 タヌはそう応えて自信満々に笑うのだった。


「いい加減だな、タヌは」


 ラウルはただ呆れた。


 でも、なんだか笑える。


 そんな気持ちだった。


「逃げるチャンスは絶対にあると思うんだ。あらかじめ決めていない方が臨機応変に判断できていいと思う」


 タヌには根拠のない自信があった。


 だから気持ちに不安や迷いはない。


「タヌらしい言い訳だな」


 ラウルは苦笑いを浮かべたが、タヌのおかげでさっきまでの憂鬱な気持ちは消えてなくなっていた。


 逃げると決めたからには逃げてやる。


 そういう強い気持ちがラウルに力を与えていた。


「ラウルと一緒なら何でもできるって思ってるんだ」


 タヌは天井に向かってそう言い、


「俺も、お前となら何とかなるような気がする」


 ラウルも天井に向かってそう応える。


 そこにある強い信頼感。


 二人を結ぶ確かな絆。


 それから二人は穏やかにそのときを待った。


 どれだけの時間が経った頃だろうか。


 短いような長いような、でも深夜ではない。


 部屋の外から数人の足音が近づいてくるのがわかった。


 二人は体を起こして胡座(あぐら)をかいて座り直す。


「来たね」


 ラウルが言うと、


「来たね」


 タヌはそう応えて耳を澄ませた。


 ガチャガチャ・・・


 鍵を開ける音に続けて、


 バンッ!


 乱暴にドアが開けられた。


 二人が目を向けるとそこに教会の警備兵が一人と、その後ろに蛮兵が二人立っていた。


 蛮兵は大きく、威圧感が凄かった。


 霊兎(れいと)の警備兵と比べて一回り以上体格に優り、しかも鍛え上げられた筋肉を身にまとっている。


 蛮兵は二人だけじゃなく、その後ろにさらに数人いるようだ。


 逃げられるだろうか・・・


 ふと弱気な気持ちに襲われる。


 二人は目隠しをされ、体の後ろで両手をきつく縛られた。


 子供相手にやりすぎじゃないか。


 そう思ったが、それが罪人に対する扱いというものなのだろう。


 罪人の間から連れ出された二人は素直に蛮兵に従って歩き、裏口の通路を通って教会の外に出た。


 外には連行用の馬車が待っていた。


 二頭の馬が引くその馬車は〝檻車〟と呼ばれるもので、四方を先の尖った柵で囲まれていて屋根はついていない。


 目さえ見えれば、二人にとって蛮兵の隙を見つけるのは難しくはなかったが、目隠しをされた状態ではそれも難しく、両手が後ろ手に縛られているので、目隠しを外すこともできなかった。


 二人は檻車に乱暴に放り込まれた。


 最初がタヌだった。


「ほらよ」


 ドスンっと音がしてタヌは床に叩きつけられた。


「うっ」


 タヌが思わず声を出すと、


「いい気味だ」


 蛮兵はそれをせせら笑う。


「てめぇもだ」


 つづいてラウルが放り込まれる。


 ドスンッ!


 ラウルの身体はタヌにぶつけられ、


「うぐっ」


「いてっ」


 二人は同時に声を漏らす。


 目が見えない状態はそれだけで恐怖だ。


「ごめん」


 ラウルが謝ると、


「大丈夫」


 タヌはそう応え、


「声を出すな!」


 と蛮兵に怒鳴られてしまう。


 二人がどういう罪なのか当然蛮兵には伝えられていて、そしてこの二人が、二年前の惨劇のあの二人の子供たちだということも伝えられていた。


 それは蛮兵たちにとって屈辱的な出来事だった。


 たった二人の霊兎に屈強な蛮兵が何十人と斬り殺されたのだから、それはただ屈辱を感じた出来事ではなく、霊兎の持つ潜在能力に危機感を覚えた出来事でもあった。(その危機感はあくまで蛮兵たちが肌で感じた危機感であり、表立って表明されたものではない)


 それゆえ二人を連行する蛮兵たちも怒りを覚えるのと同時に、〝狂人の子供なら、何をしでかすかわからない〟という緊張感にピリピリしているのだった。


 二人を引き取りに来た蛮兵は六人だった。


 檻の中に四人の蛮兵が乗り込み、二人が御者台に座り、そのうちの一人が二頭いる馬の手綱を引いた。


「行け」


 御者台で手綱を握っていない方の蛮兵が指示を出し、檻車はガタガタと走り出す。


 蛮狼族監視団はラドリアの東門、西門、南門、三つの門の外に宿営施設を持っていた。古くは監視団も街の中に宿営施設を構えていたこともあったが、蛮兵たちの素行の悪さに住民の不満が募り、霊兎族各都市の教会からリザド・シ・リザドに対して嘆願書が出され、それが認められたことにより、街の外に移されたのだった。(その代わり、霊兎族の教会および護衛隊は罪を犯した兎人を速やかに監視団に引き渡すという取り決めがされ、それは霊兎族のすべての都市で実施された)


 その監視団の宿営施設に併設されているのが、罪を犯した兎人を収監する監獄だ。


 タヌとラウルの二人は今まさに、その監獄の一つに向けて運ばれているところだった。


 監獄に辿(たど)り着くまでに脱出しなければ、逃げるのは不可能といっていい。


 二人は手を縛る紐を蛮兵に気づかれないように解こうと試みるが、少しでも動くと「動くな!」と蛮兵に怒鳴られた。


 蛮兵はじっと二人の動きを監視していて、どうしようもなかった。


 檻車に乗せられてからというもの、蛮兵に隙は見当たらなかった。


 ラドリアの惨劇の気狂いの子供たちということで、蛮兵たちがいつも以上に用心しているのは明らかだった。


 どうにもならないか・・・


 タヌ、ラウル、それぞれが焦りを感じ始めたそのとき、檻車を引く馬が急に暴れだした。


 ヒヒィーン!


 ガタガタ・・・ガタガタ・・・


 檻は揺れ、蛮兵が慌て出す。


「おい、御者の二人がいないぞ」


 御者のいない馬車は暴れ馬に引っ張られて勢い良く走り出した。


 ゴォー、ゴォー、ガタガタ、ガタガタ・・・・


 馬車は揺れ、檻車の中でタヌとラウルの体は弾み、何度も蛮兵にぶつかり何度も檻車の床に叩きつけられた。


「動くな!」


 蛮兵にそう怒鳴られ、何度も思いっきり蹴られもした。


 しかし、目隠しをされているから何がなんだかわからない。


 恐怖を感じる余裕すらなかった。


 しばらくすると、


 ガーンッ!


 と大きな音がして檻車が宙に浮き、


 ドカンッ!バキバキッ!ダダダッ、ダンッ!


 馬と一緒に横倒しに倒れたのだった。


「うわーっ」


 タヌは檻から投げ出され、


 ダンッ!


「うぐっ!」


 地面に身体を強かぶつけたたが、運良く頭をぶつけることはなかった。


 目隠しをされた状態では周りの状況はまったくわからなかった。


「ラウル!」


 タヌは必死に上半身を起こし、ラウルの名を叫んだ。


 興奮状態にあるためか、身体に痛みは感じない。


「大丈夫だ!」


 少し離れたところからラウルの声が聞こえるとタヌは安心し、


「俺も大丈夫だ!」


 と返し、状況を把握するために意識を研ぎ澄ませた。


 そのときだった。


 ジャリ・・・


 背後に人の気配を感じた。


 誰だ・・・


 はっとして後ろに振り返ろうとした次の瞬間、


「逃げろ」


 タヌの耳元で声がし、さっと目隠しが外されたのだった。


 その声には聞き覚えがあった。


 タヌが振り返ると、そこに鋭い眼差しと、鼻から下を布で覆った顔があった。


「私が蛮兵たちの相手をしているあいだにラウルを連れて逃げろ」


 その男はそう言ってタヌを真っ直ぐに見つめた。


「ダレロ様・・・」


 タヌの胸に熱いものが込み上げてくる。


 その男は武術の教官、ダレロだった。


 ダレロはタヌの手を縛る紐を斬り、


「絶対、死ぬなよ」


 そう言うと、剣を握り締め、今にも起き上がろうとする蛮兵たちに向かっていった。


 タヌはラウルに駆け寄り、ラウルの目隠しを取る。


 ラウルは視界を取り戻すと咄嗟(とっさ)に辺りを見回した。


 そして、蛮兵たちにゆっくりと向かっていく黒装束の霊兎の姿を目にして驚いた。


「誰?」


 ラウルが訊くと、


「ダレロ様」


 タヌはそう答えながら、ラウルの両手を縛る紐を解いた。


「えっ」


 驚くラウルに、


「逃げるぞ」


 タヌはそう言いながら手を引いてラウルを立ち上がらせると、


「細かい話は後だ」


 間髪入れずに夜の街の中に飛び込んでいき、


「えっ、えっ?」


 ラウルは混乱したままタヌの後を追った。


 檻車から投げ出された蛮兵たちは起き上がるとすぐに罪人である二人を探したが、どこにもその姿を見つけることができず、


「いないぞ!」


 蛮兵の一人が慌てた声を上げた。


 すると、


「こっちにいるぜ」


 倒れた檻車の陰から声がして、蛮兵たちの前に顔の下半分を布で隠し、片手に剣を握った黒装束の霊兎が現れたのだった。


 その剣の刃が血で濡れていた。


「貴様、御者の二人を斬ったな!」


 蛮兵たちは怒鳴り、黒装束の霊兎に向かってさっと剣を抜く。


「ああ、斬ったさ。あと四人斬らせてもらうけどな」


 黒装束の霊兎はそう言い放ち、不敵な笑みを浮かべた。


 その舐めきった態度に、


「無礼な!」


「霊兎ごときが!」


 蛮兵たちは激昂した。


「こいつを殺せ!」


 蛮兵の一人がそう叫ぶと、蛮兵たちは一斉に黒装束の霊兎に襲いかかった。


「蛮狼ごときが・・・」


 黒装束の霊兎はそう呟き、ニヤリと笑う。


 そして、俊敏な動きで蛮兵たちとの間を詰めると、


 バサッ!バサッ!バサッ!


 流れるような動きで一人また一人と斬っていった。


 あっという間に三人の蛮兵を斬り、残るは一人となる。


 最後の一人は余裕の笑みを浮かべ、黒装束の霊兎の前に仁王立ちに立った。


「なかなかやるじゃないか」


 その蛮兵は他の蛮兵と比べて身体が大きく、筋肉の付き方からしても、よく鍛えられていることがわかる。


「お前は自分が何をしているのかわかっているのか」


 蛮兵はそう言って黒装束の霊兎を睨みつけ不敵な笑みを浮かべる。


「わかっているさ」


 黒装束の霊兎はそう答えるが早いか、すっと蛮兵との間合いを詰めてその懐に入ると、


 ブスッ!


 剣の切っ先をその喉元に突き刺したのだった。


「あぐぅ・・・」


 蛮兵は白目を()いて首から血を吹き出し、黒装束の霊兎が後ろに跳んで剣を抜くとガクッと膝から崩れ落ち、


 ドサッ!


 前のめりに倒れたのだった。


 あまりにもあっけない幕切れだった。


「霊兎を舐めんなよ」


 黒装束の霊兎、ダレロはそう言って片頬に笑みを浮かべる。


 それから辺りを見渡し、タヌとラウルの姿がないことを確認した。


 辺りは真っ暗で、物音のしない静けさで満たされていた。


「ふぅ」


 ダレロは安堵のため息を漏らすと、二人の姿を追うかのように、夜の闇をどことはなしに見つめた。


 そして、


 ピィーーーー!


 どこからか監視団の警笛が聞こえてくると、


「必ず、帰って来るんだぞ」


 ダレロはそう呟き、夜の闇に消えていくのだった。


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