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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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〇一六 巧妙な罠

 

 タヌとラウルが授業を受けられるようになったのは意識が回復してから数日後のことだった。

 

 数日間授業を受けなかった二人は、みんなが奉仕活動を行っている間に、なぜかドリルによる補習授業を受けることになった。

 

 その最初の授業が爬神教で語られる歴史だった。

 

 これにはタヌとラウルも嫌な予感がしたが、逃げるわけにもいかなかった。

 

〝 世界の始まり

 

 

 

 闇から光が現れた。

 

 光の中から神が現れ囁いた。

 

「お前に力を与えよう」

 

 その言葉により、爬神族の祖が生まれた。

 

 神は、自らの涙で水晶を作られた。

 

「祈りを捧げよ。さすれば、我は使者を(つか)わすであろう」

 

 そしてこうも言われた。

 

「力によって世界を支配するがいい」

 

 神は祖に水晶を与えると、光の中に消えていった。

 

 光は闇に消え、そこに祖だけが残された。

 

 これが、世界の始まりに起こったことである。

 

 

 

 爬神教経典〜『原初の紀』〜より〝

 

 ドリルはまずこの一節を読み上げ、それから、各人種族の成り立ちについて語った。

 

「霊兎族は神へその身を捧げる民として、ドラゴンの血から創られたと教典では教えている。我々霊兎の血が尊いとされるのは、ドラゴンと同じ血が流れているからである。我々霊兎族は、神の使いであるドラゴン、そして神民である爬神族へその身を捧げることで、その血は神の元へと帰ることができ、我々の魂は神と融合することで、天国へと招き入れられるのだ」

 

 ドリルは教壇にふんぞり返って立ち、タヌとラウルを苦々しく見下ろしながら、説明を続けた。

 

「それに比べ、蛮狼族はドラゴンの唾液から創られたとされ、それがゆえに、他の人種族に罰を与える役目を担っている。蛮狼族が地獄の番人として罪を犯した者を食すことが許されているのはそのためだ。蛮狼族は決して神と融合することはない。あくまで神民の下僕でしかないのだ」

 

 タヌとラウルは俯きながらドリルの話を聞いているのだが、信仰心に厚いラウルはその話をしっかりと聞き、爬神教に対して秘めたる反発心を抱いているタヌはドリルの話をただ聞き流していた。

 

「もうひとつの人種族である賢烏族は、ドラゴンの角の欠片から創られたとされている。彼らは神に奉仕する労働力として創られたのである。賢烏族は思考力に(すぐ)れ、複雑なものを生み出す力が与えられている。それゆえに、彼らは高い技術力を持ち、効率よく働くことができるのである」

 

 ドリルはそこまで説明すと、

 

 バンッ!

 

 教卓を強く叩いた。

 

 驚いたタヌとラウルは顔を上げてドリルを見る。

 

 ドリルは〝しっかりと話しを聞け!〟とばかりに目を見開き、二人を威嚇してから説明を続けた。

 

「大切な点は、神民である爬神族以外で、神と融合できる人種族は、我々霊兎族だけだということだ。わかるか?我々霊兎は蛮狼や賢烏と違い、神と融合することが許されている特別な存在だと言うことだ」

 

 ドリルは霊兎族の特別性を強調した上で、

 

「その特別な存在である霊兎が、神に背くことなどもっての外なのだ。神に背くものは等しく地獄の炎に焼かれるがいい」

 

 と、凄みを利かせた声で吐き捨てるのだった。

 

 この最後の言葉が、ドリルが二人に言いたいことだった。

 

 教室には三人の他にもうひとり、黒服の神官がいて教室の後ろで立ったままドリルの授業を聞いているのだった。通常の授業にもこれから教官になる若き神官が勉強のために教室の後ろで教え方を学んでいることはあるので、特に違和感はない。

 

「俺もそう思います」

 

 ラウルがそう応えると、

 

「そう思うか?」

 

 ドリルは少し驚いた顔をしてそう尋ね、

 

「はい!」

 

 ラウルが即答すると、

 

「お前はどうだ」

 

 と、タヌに目を向けた。

 

 タヌは一瞬躊躇するが、ここで揉めるのは得策ではないと考え、

 

「俺もそう思います」

 

 そう答え、ドリルの機嫌を損ねないようにした。

 

「それでいい」

 

 ドリルは授業を進め、そして、授業の終わりになると、

 

「なんだその全身の(あざ)は?」

 

 二人をまじまじと見て意味深な笑みを浮かべ、その理由を知っているにも拘わらず、あえてその理由を尋ねたのだった。

 

 理由を知らずに補習授業の教官を務めるわけがないのに、ドリルがあえてそれを尋ねたことに、タヌとラウルは身構えた。

 

 自分たちの行為に何の問題もなかったことをわかってもらわなければ、後でどんな言いがかりをつけられるかわからない。

 

「この痣はアクという奴に殴られた痕です」

 

 タヌがボソッと答える。

 

 口の中に痛みがあるため、まだハキハキとは答えられない。

 

「アク?」

 

 ドリルはそう聞き返し、右の眉毛を吊り上げた。

 

「はい。ひどい乱暴な奴で、スレイとトマスを殴り殺そうとしたため、それを止めようとしたら殴られました」

 

 ラウルはアクという男の理不尽をそんな風に説明し、

 

「あいつはまだ小さいトマスを殺そうとしたんです。六歳の子供をです。そんな卑劣なことを許すわけにはいきませんでした。それを止めるために俺たちは必死になってアクと戦いました」

 

 タヌは口の中の痛みも忘れ強くアクを非難した。

 

 ドリルは二人の説明を聞いてニヤリとする。

 

「なるほど。あの乱暴者で有名なアクと戦うとは無謀にもほどがある。だが、その気持ちはわからぬでもない」

 

 ドリルはそんな感想を口にし、後ろのいる神官にチラッと目を向ける。

 

「あいつに罰を与えるべきです」

 

 タヌはそう訴え、

 

「コンクリ様ならそうすると思います」

 

 ラウルはコンクリの名を持ち出しアクへの罰を求めた。

 

「なるほど」

 

 ドリルは二人の言い分に深く頷いてみせ、

 

「コンクリ様には私の方から伝えておこう」

 

 と約束した。

 

 まさかドリルが自分たちの側に立ってくれるとは思ってもみなかった。

 

「お願いします」

 

 タヌは頭を下げ、

 

「ありがとうございます」

 

 ラウルは感謝の言葉を口にした。

 

 このとき初めて、二人はドリルに好感を持った。

 

 もしかしたら、そんなに悪い人じゃないのかもしれないな。

 

 そんな風にも思った。

 

「よくぞ告白してくれた。補習は終わりだ」

 

 ドリルはそう告げると、ふんぞり返った歩き方で嬉々として教室を後にしたのだった。

 

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