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ラビッツ  作者: 無傷な鏡
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〇一〇 悪魔の子

 

 施設の北にある神殿の横、西側に兎神官たちが執務を行う建物がある。

 

 執務棟と呼ばれる建物は一階建てで、その一番奥の部屋がコンクリの執務室になっている。

 

 そこにドリルは呼ばれていた。

 

「アクの様子はどうだ」

 

 コンクリは真顔でドリルに(たず)ねる。

 

 コンクリの執務室は部屋の奥に祭壇があって、その祭壇の前に装飾の施された金色の肘掛け椅子が置かれている。

 

 それだけの部屋だった。

 

 純白の神官服に身を包むコンクリは背後に二人の従者を立たせて肘掛け椅子に座り、黄色の神官服を(まと)ったドリルはコンクリを前にして畏まっていた。

 

 アクというのはつい数日前、ゴーゴイ山脈の向こう側にある都市イスタルから戻ってきた武術の教官の名だ。

 

「相変わらず乱暴者ではありますが、イスタルで色々学んで来たのでしょう。以前よりも落ち着きがあるように思いますし、爬神教の教えをしっかりと守り、身につけております」

 

 ドリルは神妙な面持ちで報告する。

 

「どんなに乱暴だろうが、力がすべてを正当化する。爬神教の教えの真髄は、力による支配だ。力こそ万物を支配する根源なのだ。アクはそれを体現している。だからこそ、アクには使命があり、我々にもたらす果実があるのだ」

 

 コンクリはそう言ってアクという男を評価した。

 

「間違いなく、アクはいずれ護衛隊の長につく男だと思います」

 

 ドリルがそう意見を述べると、

 

「そうなるであろう」

 

 コンクリはそれに同意した。

 

 それからドリルは施設内の気になる出来事について報告し、コンクリから指示や判断を(あお)ぐその中で、長らく気になっていることについて、コンクリの考えを訊いてみることにした。

 

「コンクリ様、あの罪人の子らをどうするおつもりでしょうか」

 

 ドリルは恐る恐る訊いてみる。

 

 ドリルが言う罪人の子というのは、ラドリアの惨劇を起こしたナイとハウルの息子たち、つまりタヌとラウルのことだ。

 

 敬虔な爬神教の信者であるドリルにとって、神民である神兵(しんぺい)を何十人も斬り殺した二人は憎むべき悪魔の使いであって、その息子たちは悪魔の子でしかなかった。

 

 だから、どんなことをしてでも、悪魔の子は葬らなければならないと考えている。

 

 コンクリは怪訝(けげん)な表情を浮かべ、

 

「どう言う意味だ?」

 

 と聞き返す。

 

 コンクリのその鋭い眼差しに、ドリルはたじろいでしまう。

 

 それでも、ドリルはしっかりとコンクリの目を見て自らの考えを伝えた。

 

「あ、あの罪人の子らは、先日も報告した通り、勝手に施設を抜け出して外で夜明かしをするなど、遵法精神に問題があります。やはり、罪人の子は罪人であって、秩序を大切にする我が養成所に置いておくのはどうかと思われます。私としましては、監視団に引き渡して処分するのが妥当だと考えます」

 

 ドリルは顔を強張らせながらも、タヌとラウルの二人を〝監視団に引き渡す〟ことを訴えた。つまりそれは、〝二人を殺してください〟と訴えていることに他ならない。

 

 そもそも二年前、ラドリアの惨劇の首謀者である二人の子供たちが精鋭養成所への入所を許されたと聞いたときから、ドリルにとってタヌとラウルは憎しみの対象でしかなかった。

 

 タヌとラウルへの憎しみに燃えるドリルの目を真っ直ぐに見つめ、

 

「子供に罪はない」

 

 コンクリはそうきっぱりと言い切った。

 

「しかし、実際に・・・」

 

 ドリルが二人の悪行を言い連ねようとするのを、

 

「もういい。その話はやめだ」

 

 コンクリはそう言って(さえぎ)った。

 

 コンクリは鋭くドリルを睨み、二人に対するそれ以上の発言を許さなかった。

 

「わかりました」

 

 ドリルはそう言って深々と頭を下げると、納得できない気持ちのまま、コンクリの執務室を後にした。

 

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