寸法臣一族のニギリステと、ツキの無い人達
「この役立たずども。
【高次元の施設のセキュリティ キー】が付与された、アラート ジリスだけでも探し出せよ!
それが無理ならば……
生意気なガキ(アケモン)が飼っている、
【高次元の施設のセキュリティ キー】が付与された、アラート ジリスを盗み出してこい!」
バカ様が吠えている。
◇◇◇
寸法臣一族の末っ子の若君様でなければ……
言う事なんて聞かずに無視してるところだ。
てか……
アケモンとか言う、小僧の異能……
自宅警備員専用の異能とは……よく言った物だ。
確かに、自宅警備員にも、向いているだろう。だけど……
決して、主役にはなれないが、
色々な才能を引き立てる名脇役としては、とてつもない可能性を秘めた能力だ。
なのに、このバカ様は……
何も気がつかずに突っ掛かって行った。
まぁ……気持ちは分からんでもない。
寸法臣一族と、長きに渡って、
ライバル関係にある、土狛一族の方は……
次代の当主のゼロイチは、
準特異点で尚且つ、その才を遺憾なく発揮する為の才能に溢れ、
アカデミーの卒業と同時に、管理者見習いになった逸材だ。
更に、レサ・ヴォル・ニャレスと言った、大物達が、
彼の教育係と言う呈で、進んで、彼の下についたのだ。
それに比べて、バカ様は……
【武聖】のジョブ補正を受けてる特殊点。
部下の自分が言うのもなんだが……
レサ・ヴォル・ニャレスには、到底及ばない格下だ。
そんな中、
バカ様が欲して止まない、準特異点だけが得られる特別な異能を……
よりにもよって、自宅警備員になる前提で、得ようとしているアホ(アケモン)が居たのだ。
そりゃ……
虐めたくもなるわ。
だけど……
それで、バカ様の気は晴れなかった。
アケモンの異能は、何を壊しても、元通りに出来る。
それに……
無限増殖で増やす事も可能だ。
だから、いくらバカ様が、
昭和のガキ大将のように、必要な物を隠したり……
PCにウイルスを仕掛けて、レポートを破壊しても意味はなかった。
バカ様が【武聖】のジョブ補正を受けてる故に、
バカ様を物理的にノックアウトこそ出来なかったが……
誰が、どう見ても……
アケモンの完勝だった。
表では、皆、見てみぬフリをしていたが……
裏では、バカ様を嘲笑っている事を、
アケモン以外は、気がついてなかった。
それも……
バカ様が意固地になる原因であったのだ。
それで、終われば良かった。良かったのに……
ゼロイチの手解きを受けた、アケモンが、魔術を使って、
物理的にも、バカ様に勝ってしまった。
それが原因で、バカ様は……
いたたまれなくなり、アカデミーを休学すると言う、
愚行に出てしまい、更に嘲笑の的となってしまったのだ。
更に……
どうやら、バカ様は、アケモンの嫁のセプモに、
密かに恋をしているらしい。
でっ、今回……
ゼロイチ達と一緒に、アケモンが請け負った仕事を邪魔しつつ、
修復師である、俺の仕事を成功させるように導けば……
自分の格を落とす原因となった、
アケモンとゼロイチの鼻をあかすとともに、
セプモを振り向かせる、チャンスだと踏んだらしい。
俺は、このバカ様の企みを、寸法臣一族の長に話した。
そしたら……
彼から、直々に、バカ様の監視役を命じられてしまったのだ。
他の3人のメンバーの内……
テショミは、俺の巻き込まれ事故で、俺の補佐になってしまった。
後の2人は……
バカ様のご立派な、ご実家に夢中のアバズレ達。
早く……
この苦行から解放されたいものだ。
◇◇◇
【ブッ・ブッ・ブッ】
『ニギリステ様は、一週間後、
寸法臣一族の長様から、直々に勘当を言い渡される事になった。
ニギリステ様が盗み出した、アラート ジリスの件は、
こちらで何とかする。
本日をもって、お前は解雇。
今日までの給料は、
何時もの口座に振り込んでおく。
今まで、ご苦労であった。』
寸法臣一族の担当官からの定期連絡は……
馬鹿にしているとしか言い様の無い内容だ。
そっちの世界の銀行に振り込まれた金なんて……
使いようがねぇじゃないか。
こっちの世界が閉じたとは言え……
通信は出来るんだろう?
寸法臣一族の権力を使って、
こっちの世界での、俺達の生活を保障するように動けよ!
なんて、言ったところで……無駄だろうな……
どうやら、俺は、
バカ様ごと、切り捨てられたらしい。
「畏まりました。
テショミと共に、もう少し、この辺を探します故、
殿下は、お嬢様達と共に、ここで休んで居て下さい。」
「当然だ。
ただし……一応、テショミも、寸法臣一族の所有物だ。
つまみ食いは許すが……本気にはなるなよ。」
バカ様は、そう言いながら、ふんぞり返ると、
アバズレ達を引き連れて、夜営用のテントの中に引っ込んだ。
◇◇◇
「ハケオ。あんたも……
寸法臣一族からのクビを宣告されたのかい?
それとも……
アタシをクビにした言い訳をするつもりかい?」
バカ様達が居なくなり、
テショミが、ジッと見つめて来る。
「俺もクビだよ。
アラート ジリスの件は、こちらで処理する。
今日までの給料は、元の世界の銀行口座に振り込んどく。だってさ。
それと……バカ様は……
一週間後に、寸法臣一族の長様から、勘当を言い渡されるらしいぞ。」
「フン。アタシよりも……最悪じゃん。」
テショミが憐れみの表情を浮かべながら、
俺を見つめてくる。
「お前の方は?」
「アタシの属するショボい一族への……
借金を、全てチャラにするから……騒ぐなとさ。
アタシの属するショボい一族の長にも、
連名で連絡が来てたから……マジで、借金が棒引きされるらしいわ。
これで、晴れて自由の身って訳さ。
そんでもって、
アタシのプライベートには、感知しないと来た。
まぁ……
バカ様との腐れ縁を、どう終わらせるかについては……感知しないって事みたいだわ。」
「でっ。どうするつもりだよ。」
「取り敢えず……
バカ様とは、お別れを、するつもり。貴方は?」
テショミが、ジッと俺を見つめる。
◇◇◇
「『封印解除。』これ、な~んだ?」
「アラート ジリス。まさか……」
「そのまさかだよ。
【高次元の施設のセキュリティ キー】が付与された、アラート ジリスさ。
事が、事だけに……
お前との2人の時間を作る為に、小細工をした。
まさか……
バカ様が勘当されるとは思ってもみなかったが……
バカ様が、真のバカで助かったわ。
『封印。』」
俺は、再び、アラート ジリスを封印する。
こいつ達との信頼関係が無い、今、
この場で自由にさせるのは……色々とマズイからな。
「でっ、どうするつもり?」
「バカ様のアバズレ1号が、こいつに餌をやろうとして、噛まれた時に、
バカ様は、アバズレ2号に、口輪を作らせた。
そんでもって、バカ様は……
表上は、俺と同じ【修復師】のジョブ補正を受けてる、アバズレ2号に手柄を立てさせようとして……
アケモンよりも、アバズレ2号の方が、【修復師】として優秀だ!と喧伝した上で、
富士樹海のダンジョンの暴走の調査に、
アケモンではなく、アバズレ2号を連れて行くべきだと、吹聴していた。
そして……
寸法臣一族がどんな手を使うのかは知らんが……
俺達の世界で、アラート ジリスが1匹、行方不明と言う事実は変わらん。
今は、取り立てて騒ぐつもりは無いが……
こいつは……イザと言う時に、使えるネタになるかもしれん大事なネタだ。
だから……
このアラート ジリスと共に、
このまま、姿を消す事にするよ。」
「そう。ついて行っても良いかしら。
対価はそうね……
貴方の護衛と……望むなら……下の処理もしてあげる。」
テショミが、妖艶な笑みを浮かべながら、俺を見る。
テショミは、本気を出せば、
バカ様をフルボッコに出来る程、【武聖】のジョブ補正を操る達人だ。
本来ならば……
そんな化物と、男女の中になるのは避けたいところだ。
だが……
その理性が……何時まで持つか、不安になる程、
テショミは、魅力的な体をしている。
「安心しな。
処理するのに使うのは……手と口だよ。
まぁ……それ以上は……お互いの気持ちがガッチした時に!って事にしとこうか。」
テショミが、意味あり気な表情で、俺を見る。
「だな。
だけど……今は逃げる事に専念しよう。
アバズレ2号は【治癒師】。
流石に……バカ様とアバズレ2号のコラボは……貴女でもキツイだろう?」
「言えてる。」
テショミが、コクリと頷きながら、俺を見る。
ーーーーーーー
「遅い!」
バカ様が、不機嫌な顔をする。
アタシとサセヨとのお楽しみを終えても……
ハケオとテショミかが、帰って来ないからだ。
「『回復。』もう一戦、お願い出来ないですか?」
「フフン。変態だな。
まぁ……良い。可愛がってやろう。」
バカ様が、サセヨの誘いに満足そうな顔をしている。
サセヨは、別に変態などでは無い。
基本、奉仕を望むバカ様営み中は……
営み中の時だけは、静かなのだ。
アタシ達が、バカ様に奉仕をするのは……
寸法臣一族の庇護下にいたからだ。
そして……
アタシとサセヨが、
アバズレのように、バカ様を求め、奉仕を続けるのは……
正妻に相応しくない女と思われるつつも、離したくない妾。そう思わせるためなのだ。
◇◇◇
「出ろ!」
外から大きな声が聞こえる。
「あぁ!」
バカ様が、イラついた顔をしながら、テントから出る。
慌てて、アタシとサセヨも、バカ様を追う。
テショミが居ないのが不安だが……
バカ様も【武聖】のジョブ補正を受けている化物。
こんな時のみ、役に立つ、暴君様だからな。
「お前達。
オリジナルのダンジョンの暴走を収めようとして……このバックアップ ワールドに転移してきた者だよな?」
「あぁ。
てか……
ジョブ補正を受けられず、
使える魔法はアンチ サイだけの無職者が……
何、上から目線で話してるんだよ!」
バカ様が、いきなり、戦闘モードだ。
無職は、自宅警備員。そして……上から目線は……
はぁ……
この人達……地雷を踏んじまってるな。
「キュドン様が、
お前達の持っている、【高次元の施設のセキュリティ キー】が付与された、アラート ジリスを所望されている。
渡せ。」
「嫌だね。」
バカ様が、無職の方を睨みつけながら、返答を返す。
渡そうにも……
逃がしちゃったんですけど!てか……
勝手に、ダンジョンの正規の調査団の人みたいになってるし…
…
「『アンチ サイ』」
【ドコ・バコ・ドス】
「ギャァァァァー。」
無職の方のかけた、アンチ サイのマナの量が、
バカ様の体内マナを空にしたようだ。
バカ様は、【武聖】のジョブ補正にかまけて、鍛えてなんていない。
そんでもって、
ジョブ補正と言うシステムがなければ……
アタシや、サセヨにすらボゴられる。
ただ、イキがっているだけの、お雑魚様だ。
「出せ!」
「アラート ジリスは逃げた!
欲しければ、探せよ!」
無職の人に腕を締め上げられながら、バカ様は……
尊大な物言いではあるが、素直に白状している。
「お前達の世界に放っている間者の話では……
お前達の部隊は、2匹のアラート ジリスを確保したままだと聞いてるぞ?」
「そいつ達は、そいつ達。
俺達は、俺達だ!」
無職の人の詰問に、バカ様が、怒鳴り散らす。
「はぁ?
部隊は1つと聞いてるがな。」
「世の中には……
表と裏があるんだよ!」
バカ様が、無職の人に怒鳴り散らす。
表と裏ねぇ……
本物と偽物の違いが正解だろう……
「嘘はついて無さそうよ。」
浄冥眼でも持ってるのであろう。
無職の人に、綺麗な女の人が報告を入れている。
「そうか。
取り敢えず、こいつ達を、
キュドン様の所に連れていこう。
こいつ達が、何者なのか……じっくりと調べないといけないからな。」
無職の人が、氷のような冷たい目で、アタシ達を見る。
連れて行くのならば……
バカ様だけにして欲しい。
てか……
ハケオと、テショミは、運が良すぎだろう。
いや……アタシとサセヨの運が悪すぎなのだろうか……
それとも……
バカ様を上手く煽てながら、やりたい放題して来た事への報いなんだろうか……
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