仕事の依頼(後編)
「貴女のお名前は?
それと……
アタシ達が異世界人だと言う根拠は?」
レサさんが、淡々とした口調で、
女の人に質問をする。
レサさんの能面のような表情からは、
相手は、何も読み取れないだろうな。
「ワルウン王国、第3皇女。トバチリ。
貴女を異世界人だと認定したのは……
私達に歩みよろうともせず……
然りとて、我が国を乗っ取った、キュドンに、
私達を売ろうと言う下心も感じとれないからです。
修復師や、修復屋は、
お得意様である、
管理人、管理者。そして……王族と言った、
商売相手に媚びへつらうのが常識です。
ですから……
常識的な行動を取らない、貴女達を見て、
異世界人だと思い、カマをかけてみたのです。」
トバチリと名乗る女の人が、
にこやかな笑みを浮かべながら、レサさんの質問に答える。
「嘘をついて無いみたいね……
てか……貴女も、他人の感情が、読めるみたいね。
もしかして、貴女も……
浄冥眼を持っているの?」
「えぇ。受けてるジョブは祈祷師です。」
トバチリが、にこやかな笑みを浮かべながら、
嫁の質問に答える。
「でっ、主達が居れば、足手まとい。
この意味は?」
ヴォルが、会話に加わってきた。
「私の受けてるジョブもですが……
武聖のジョブ補正を受けてるキンノウとテバコ。
賢者のジョブ補正を受けてるクイメガ。
数%しか受けられない、
Sクラスのジョブ補正を受けてる者達が、複数で、
少数の民を率いて、森を彷徨っていれば……流石に目立ちます。
そして、幸いな事に、
コマレ村は、平和な辺境の村。
私とテバコ以外に、有名人など居ません。
しかも、
私の警備兵はも、キンノウの護衛兵も、
ワルウン王国と、カルオモ王国の精鋭。
更に、我々の兵は、
歴戦の勇士達ではありますが……
A・Bクラスの戦士や狩人。冒険者のジョブ補正を受けている者です。
ですから……
キュドンの追っ手を交わしながら、
山賊やモンスターから、コマレの村の村人達を守ってくれると信じてます。
それに……
山の民は、戦士や狩人のジョブ補正を受けている者が率いる、遊牧の戦闘民族と言うイメージを持ちがちですが、実際は……
武器や馬車を、作ったり、直したりする職人のジョブを受けている者や、
家畜を扱う農夫のジョブ補正を受けている者。それに……
獲物を売り、穀物や資材を調達する商人のジョブ補正を受けている者の方が多いと言われています。
ですから、私達が居ない方が、
コマレの村の村人達は、安全に、カルオモ王国に亡命する事が出来るのです。」
ヴォルの質問に、トバチリが、
ゆっくりとした口調で、順を追って丁寧に答えている。
「ついて来るんは、勝手にしたら良えけど……
ついて来られへんかったら、置いてくで。」
ゼロイチ君が、淡々とした口調で、
トバチリの依頼を受けるつもりは無いと、遠回しに伝える。
「有り難うございます。
我々は、2頭程ですが……
アーティフィシャル シー フォースを所持しております。
ですから、皆様の足手まといには、ならないつもりです。」
トバチリは、そう言うと、
深々と、僕達に頭を下げた。
◇◇◇
「我々を、貴女達の馬車に迎えて頂き有り難うございます。」
トバチリちゃんが、そう言いながら、
嫁に深々と頭を下げた。
トバチリちゃんとキンノウ君は、各々、
平民の馬車に見えるように改造を施した、
自分達の乗っていた馬車をコマレ村の村人に譲ったのだ。
それだけじゃない。
僕達と共に、カルオモ王国に向かう為に必要な、最低限の携行食と水以外も、コマレ村の村人達に譲っていた。
彼女達は、各々、
アーティフィシャル シー フォースに2人乗りをして、
僕達について来るつもりだったらしい。
その姿を見て、感動した嫁が、
僕達の馬車にトバチリちゃん達を招待しようと言い、
ゼロイチ君が、トバチリちゃん達に、
僕達と行動して見聞きした事は他言無用と言う約束をした上で、嫁の提案を了承したのだ。
因みに、馬車に乗ったのは、
戦闘が苦手なトバチリちゃんとクイメガ君のみだった。
キンノウ君とテバコちゃんは、
僕達を含めて、護衛すると言い、
土砂降りの雨の中、
アーティフィシャル シー フォースに騎乗して、
僕達の馬車の前を並走して走っている。
元々、トバチリちゃんの護衛をしているテバコちゃんの、この行動は、まだ、分かるが……
キンノウ君は、第3王子とは言え……
ほぼ、皇位継承権はない、軍人だから、当然の行いだ。なんて言って言ってだけど……
一国の王子様である、キンノウ君が、僕達の護衛を勝手出た事に、トバチリちゃん達も驚いていたので、
この世界でも、王族が護衛される事はあっても、
王族に護衛される事は、基本、無い事なのだろうな。
◇◇◇
「夜は長い。
無理せずに走ってや。」
トバチリちゃん達にも、
任意で、僕の無敵タイムが発動するようにしてはいるが……
正直、彼女達以外には、知られたくない能力だ。
因みに、彼女達に教えたのは……
カルオモ王国の最西端に有る、ロテク辺境伯の領土に有る、
古い置時計の調子が悪いらしく、
僕とゼロイチ君が、協力して、
その古い置時計を直す事で、僕達の修復屋としてのキャリアを作る協力をして貰う為だ。
因みに、
この提案をしてきたのは、クイメガ君だ。
でっ、その提案に、当初、難色を示したのが、
キンノウ君とテバコちゃんだった。
理由は、ロテク辺境伯の領土が、
キュドンが乗っ取った、ワルウン王国との国境の境目で、
ワルウン王国が、カルオモ王国に侵攻して来た際に、狙われる恐れがあると言う事と、
ここから、ワルウン王国の領内に入らずに、
ロテク辺境伯領の領土に行くには、
ロテクの悪魔の森と呼ばれる、危険な森を抜けなければいけないかららしい。
そこで、僕達は、
僕の異能の無敵タイムのみを教えた上で、
クイメガ君の提案に乗る事にした。
後の異能も、
必要に応じて教えないといけなくなるかもしれないが……
隠せる物は、隠しておきたい。
『了解です。
随時、ルートの指示を、お願いします。』
テバコちゃんの声が、
インカムから聞こえて来る。
僕達は、馬にとってはジョギング程度のスピードの、
時速約13~15kmの速さが出る速歩と呼ばれる速さで動いている。
生き物で有る馬が、速歩を継続できるのはおおよそ1時間程。
1日に数回このペースで走れ、
距離にして30~45kmほど進むことが出来る。
因みに、
回復魔法が使える、モンスターのシー ホースは、
5時間程度、速歩で走り続けられるらしい。
「了解。
取り敢えず、3時間程度、このスピードで進み、
後は、朝まで、常歩で移動して下さい。
朝になって、休める所を見つけたら……
7・8時間、休憩して、次の移動に備えましょう。」
レサさんが、
淡々とした口調で指示を出す。
『後学の為に……
常に、速歩で無い理由と、
敢えて、夜に移動する理由を、
ご教示、願えませんか?』
テバコちゃんが、恐る恐るって言う感じで、
レサさんに質問をする。
「常に速歩ならば、
アタシ達の馬が、アーティフィシャル シー フォースだと言う事が、相手にバレる。
相手に、こちらの馬が、
シー フォースだと誤認させていた方が、逃げやすい。
でっ、夜に移動する理由は、3つ。
1つは、夜行性のモンスターの方が、
人を狩るのが上手いからよ。
アケモン君の無敵タイムが有るので、
貴女達まで、恐れる必要は無いけれど……
もしも、追っ手が居た場合……
その追っ手が、モンスターに、勝手に食われて居なくなってくれたら、ラッキーでしょ?
それに……
悪霊に取り憑かれて、他者を巻き込んで、自滅してくれる人も出て来る筈。
つまり……
アタシ達が直接、手を下さなくても、
勝手に追っ手が消えてくれる状況を、生み出せるの。
素敵な話でしょ。」
レサさんが、
ここで、一旦、話を区切る。
◇◇◇
「でっ。2つ目の理由。
それは……
アタシ達の異能を推測されずに、貴女達の追っ手を狩るとすれば、
夜の方が、殺りやすい!って事ね。
そして、3つ目の理由は、
武聖のジョブ補正を受けてる影響で、
人類の目の最高到達点の【至極眼】を持つ、テバコちゃんとキンノウ君が居て、
魔法や魔術の類いの罠ならば、暗くても見破れる、【魔法術眼】を持つ、
賢者のジョブ補正を受けている、クイメガ君が居て、
悪霊を祓える力も持つ、【浄冥眼】を持つ、
祈祷師のジョブ補正を受けてる、トバチリちゃんが居る事ね。
まぁ……
数の不利を、時間の利で補うって事ね。」
レサさんが、淡々とした口調で、
テバコちゃんの質問に答える。
◇◇◇
「さて。わたしは……
どの目を使って、どんな仕事をすれば良いのかな?」
嫁が、真剣な顔で、
レサさんに質問している。
「そうね……
【至極眼】を使って、
ヴォルの手伝い(後方確認)をして欲しいかな。
後、必要に応じて、
【浄冥眼】と【魔法術眼】を使って貰うと思うけど……
今回は、ヴォルの指示に従って作業をしてね。」
嫁の質問にレサさんが、笑顔で返答を返す。
「了解。」
嫁が真剣な顔をしながら、馬車の後方に移動する。
「さてと。俺は……
ワルウン王国の情報をハッキングでもしながら、
情報収集と洒落こもか。
トバチリちゃん。情報提供宜しく。
アケモン君。
気になる事や、思い付いた事が有れば……
どんどん、意見を頂戴。」
ゼロイチ君が、
僕とトバチリちゃんを、ニヤリと笑いながら見る。
「クイメガ君は、ここ。
アタシ達のサポートを頼むわ。」
レサさんが、そう言いながら、
御者台の自分の横を、トントンと指を座す。
「どれ。妾は……
ニャルソックの仕事に、
ドンソンとコイリドの世話を追加してやるかにゃ。」
「あんたは、引き続き、
アタシの横で、ニャルソックよ。」
馬車の中に移動しようとニャレスの首の後ろを、
レサさんが、無表情でツマんでいる。
「じゃあ……
僕が、ドンソンとコイリドリの世話をしながら、
ゼロイチ君と、トバチリちゃんの話し相手でもしとくよ。」
「雑談やないよ。情報収集や。」
ゼロイチ君が、
ジト目で、僕に苦言を呈してくる。
「了解。
気になる点がないか、一生懸命、話しを聞くよ。」
「素直で宜しい。」
ドンソンと、コイリドリに餌をやりながら、返答を返す僕に、
ゼロイチ君が、苦笑いしながら、返答を返す。
【シャク・シャク・シャク・シャク】
【シャク・シャク・シャク・シャク】
【ポリ・ポリ・ポリ・ポリ】
【ポリ・ポリ・ポリ・ポリ】
ドンソンと、コイリドは、
余程、お腹を空かせていたのだろう……
手で千切ったレタスと、牧草のペレットを、
一心不乱に食べている。
「なんや……
悪いことしたみたいやなぁ……」
「うん。怒りもせずに、
一心不乱に食べられると……
罪悪感に押し潰されそう。」
「ホンマやな。
てか……給水器の中、空やで。」
「おわ。
直ぐに、水、入れるよ。」
「頼むわ。」
ゼロイチ君と、僕は、
一心不乱に食べている、ドンソンとコイリドを眺めながら、
罪悪感に打ちのめされている。
そのお陰か、
ゼロイチ君との間に出来そうだった亀裂は……綺麗に修復されていた。
「あの~。
改めて、宜しくお願いします。」
そんな僕と、ゼロイチ君を見かねて、
トバチリちゃんが、モジモジしながら、話かけてくる。
「了解。仕事の時間や。」
【バシッ】
ゼロイチ君が、
僕の背中を照れ隠しなのか、叩いてくる。
「うん。」
僕は、静かに頷いた。
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