当ての無い旅の始まり / 仕事の依頼(前編)
「取り敢えず、コロチン先輩が渡してくれはった、
馬車モードでも、バイクモードでも、違和感なく牽ける、トレーラーを出そか。」
ゼロイチ君が、淡々とした口調で、
提案をする。
「そうね。
それは、そうと、ドンソンは兎も角、
何故、コイリドは、他のアラートジリスと違って、
脱走を図らなかったんだろう……」
レサさんが、不思議そうな顔をしながら、
嫁の乗っていあアーティフィシャル シー フォースを見る。
「アケモン君の無敵タイムの影響。若しくは……
セプモちゃんへの信頼。
その2つが要因じゃないかにゃ。」
「じゃろうな。
アケモン君の無敵タイムの任意設定を受けてるのは、
儂達でも有り難いからのう。」
「確かに。
どんな場所でも、安心して寝られるのは……
有り難い事にゃからにゃ。」
ニャレスとヴォルが、淡々とした口調で、
レサさんの疑問点に、自分達なりの考察を披露する。
「でっ、どうやって調査する?」
レサさんが、ゼロイチ君を見ながら、
質問をする。
「取り敢えず、ギルドに、
アケモン君の修復屋のライセンスを含めて登録して貰ったら、
世界中を、自然な形で飛び回る事が出来るやろ。」
「確かに。
修復師の仕事は、定住するよりも、
世界中を飛び回って、仕事をした方が稼げる職業だもんね。」
「せやせや。」
ゼロイチ君の答えに、レサさんも異論が無いらしい。
「プププ。」
「セプモちゃん。どうしたの?」
「パパが、この異能を選んだのが……
自宅警備員になる為なの。
それなのに……プププ。」
「プププ。それは残念ね。」
嫁の話を聞いた、レサさんが吹き出す。
そして……
それを合図に、ゼロイチ君、ヴォル、ニャレスが、
一斉に、大笑いし始めた。
◇◇◇
【カッポ・カッポ・カッポ】
僕達は、
アーティフィシャル シー フォースに積んでいた荷物を全部、馬車の中に移動させ、
アーティフィシャル シー フォースを、
シー ホースモードにして移動している。
馬車を牽いている2台のアーティフィシャル シー フォースは、
僕達が支給された、アーティフィシャル シー フォースではなく、僕が無限増殖で増やした物だ。
僕達が支給された、アーティフィシャル シー フォースは、
僕達のマジックボックス化した腰袋の右側に入れてある。
何かあった時は、
馬車を捨てて、何時でも逃げられる準備ってやつだ。
「キャハハハハ。」・「フフフフ。」
御者台からは、
嫁とレサさんと笑い声が、
ひっきりなしに聞こえて来る。
御者台は、一見、剥き出しだが、
結界魔法で覆われている為、虫等も入って来ないので、
安心して、嫁も居れるようだ。
馬車は、四方に有る支柱と、屋根。そして……
それ以外の部分を幌で覆ったの簡素な作りだ。
後方の幌は、
乗り降りや、荷物の積み込みが出来るよう、
巻き上げられる仕様となっている。
ヴォルは、後方をボーと確認している。
ニャレスは、嫁とレサさんの間に寝そべりながら、
警戒を、しているとの事だ。
ドンソンは、ペットキャリーの中で、
ヘソ天で、お昼寝中。
そして、コイリドは……
何時も使っている、毛布に隠れながら、
顔だけだして、レタスを食べている。
「他所の調査団のアラート ジリスは……
元々の匹数の1/3が亡くなりはったり、行方不明として処理されはったりしてはるしいわ。
まぁ……
どの調査団も、アラート ジリスを二匹以上、連れて調査に出てはったらしくて……
アラート ジリスが、
全滅しはった調査団がなかったんが、不幸中の幸いって感じらしいわ。」
ゼロイチ君が、タメ息をつきながら、
僕に情報を共有してくれる。
「諸事情ねぇ……
具体的に、どんな死に方だったの?」
「走行中のアーティフィシャル シー フォースから、飛び降りようとして……そのまま……とか……
運良く、脱走を、しはったものの……その後……
他の動物や、モンスターに食われはったりしたらしい。
因みに、行方不明ちゅうのは、
アラート ジリスに仕込んではる、マイクロチップの電波を辿られへんようになった奴達や。
水の嫌いなアラート ジリスが……
何らかの事情で、川や湖に飛び込んで、マイクロチップが水没しただけなんか……マイクロチップごと、食われはったんか……
兎に角、マイクロチップで行方を追えん奴を探すんは、
殆んど、不可能や。
せやから、
行方不明として処理して、
人の居る、町や村に向かえ!って言う指示が出はったらしいわ。」
「酷い話だね。」
「せやな。
せやけど……
人や特別な獣、使役モンスターを含めて、
皆、同じ感じの扱いや。
酷い言い方かもしやんけど……
一番、避けるべきは、全滅やからな。」
ゼロイチ君が、そう言いながら、
少し、寂しそうな顔をしていた。
◇◇◇
「のう……
儂達の世界のダンジョンの暴走が止まった!と言ってたが……
何が原因で、今回の騒動が起こったのか……
非公式でも、情報は降りて来ぬのか?」
ヴォルが、興味津々な顔で、ゼロイチ君に質問をする。
「公式には、まだ、何も来てへんよ。
非公式やと……カベショウさんから、
ホンマは、ダンジョンは暴走してはらへんかった。
他の何かが原因で、
ダンジョン管理局のサーバーが、
ダンジョンが暴走してはるって誤認しはっただけ。
そんな説まで、出てはるらって言う情報が下りて来たわ。」
「なんじゃそりゃ。」
ゼロイチ君の返答に、ヴォルが苦笑いしている。
「まぁ……
そんだけ、よ~分からん事が起こってはるんやろ。」
ゼロイチ君が、苦笑いしながら、
ヴォルに返答を返している。
「他の部隊との連携は取れそう?」
「直近では厳しいやろな。
場所が……
離れすぎてる。
それに……
状況が分からへん状況で、
固まって動くんは、愚の骨頂やろ。」
レサさんの質問に、
ゼロイチ君が、返答を返す。
「それもそうね。」
レサさんが、タメ息をつきながら、
ゼロイチ君に返答を返す。
「ところで……
街道とやらは、まだかにゃ?
ガタガタの獣道は……
仮眠がとりにくいにゃ。」
ニャレスが、不機嫌そうな顔をしながら、
大きな欠伸をする。
「幸か不幸か、この獣道、
この道は……数十年前に、裏街道に格下げされた、
元街道らしいわよ。」
「マジにゃか。」
レサさんの返答に、ニャレスがタメ息をついている。
「裏街道?
何か……
ヤバそうな響きね。」
「大丈夫。危険だけど……近道。
それが、裏街道。
基本、この世界の運送屋は、
期日に到着するよりも、
期日に遅れても、安全第一で荷を確実に届ける!ってのが一般的なの。
だから……
皆、遠回りにしてでも、比較的、安全な街道を使うから、
人の気配が無いだけ。
その内……
誰かに会うと思うわよ。」
嫁の呟きに、
レサさんが反応する。
「その誰かが……
盗賊や、悪霊。若しくは……
人を餌として見ている、獣やモンスターじゃにゃい事を祈るにゃ。」
「なきにしもあらずだけど……
今、言う?」
ニャレスの呟きに、
レサさんが、苦笑いしながら、嗜めている。
「怖!アカデミーで、サバイバルだけでなく……
戦闘も習ってて良かったわ。」
嫁が、苦笑いしながら、タメ息をつく。
「それよりも……雨が心配じゃ。
まぁ……この淀んだ空気の場所で、水が増えたら……
悪霊達が、湧き出て来るやもしれんが……
それよりも、
土砂崩れや、川の増水の方が、現実的な脅威になるやもしれんな。」
「困った事、バッカじゃん。」
嫁が不機嫌な顔で、行く手を見ている。
時刻は、14時を回ったところだ。
まだ、薄暗くて、淀んだ空気を放つ森の中とは言え……
日が高いので、まだ、恐怖心が抑えられているが……
出来れば、夜になる前に、
せめて、この薄気味悪い、森の中から出たいものだ。
◇◇◇
「一応……生きてる人達よ。」
嫁がボソッと呟いた。
100台ぐらいの馬車と、牛車。それに……
沢山のテントや、羊や山羊にのような似たような動物が、
大きな広場を覆い尽くしている。
土砂降りの雨の中に、謎の一団は正直、怖い。
「所属と名を名乗れ!」
僕達がスルーして、雨の中、先を急ごうとしたら、
僕達の馬車が数十人の槍を持った兵士らしき人に取り囲まれた。
歴史の授業で習うような、鎧を着た騎士でも、
武士のような甲冑を着た武士でも無い。
外套の中に革の鎧を着込んだ、
ファンタジーの世界に出て来る、冒険者とか呼ばれている人達のような格好をした人達だ。
「所属と言われてもなぁ……
これから、ギルドに登録して、修復屋を始めようと考えてる……
ただの、しがない旅人や。」
ゼロイチ君が、御者台に移動すると、
大きな声で返答を返す。
「嘘をつくなら、もっと、まっしな嘘をつけ!」
大柄の男が、大きな声で、怒鳴り返してくる。
よく見ると……
彼は、小刻みに震えている。
「嘘は言っていないようですが……
何者なのですか?」
僕達を包囲していた一団の後ろから、
若い女の人が出て来た。
「あんた達こそ、何者や。」
「この国の……
元皇女ですけど?
っても……
皇位継承権も無く、辺境の小さな村をあてがわれた、
妾腹の子供ですけどね。」
ゼロイチ君の質問に、
女の人が、自嘲気味な自己紹介をしてくる。
「さよか。
まぁ……よう分からへんけど……頑張りなはれ。
ほな、さいなら。」
ゼロイチ君が、
苦笑いしながら、女の人に別れを告げる。
「待て。
俺達を連れて行け。」
「何処に?」
大柄な男の良く分からない言葉に、
ゼロイチ君が、困惑した顔をしながら、質問をする。
「俺の国、カルオモ王国だ。」
「ごめん。訳わからわん。」
震えながら、よく分からない事を言う、大柄な男に、
嫁が、苦笑いしながら、ツッコミを入れる。
「ですよね……
この人は、カルオモ王国の王子、キンノウ。
私が、政略結婚で嫁ぐ予定だった殿方。
でっ、彼は……
一足早く、お忍びで、私を見に来たのが運の尽きだった。
何故ならば……
この国は、管理人のキュドンに乗っ取られた。
そして、キュドンは、
この国の全ての王族を処刑すると、御触れを出し、
私の領地のコマレ村にも、役人を寄越したの。
私は、彼達に連れられて、処刑されるつもりだった。
だけど……
キンノウは、役人を殺し、
彼の側仕えのクイメガは、コマレ村の村人達を、
山の民に偽装させて、カルオモ王国に亡命させると言い出したの。
でっ、私達は、それを受け入れて、
今に至ると言う訳です。」
女の人が、淡々とした口調で話す。
「でっ、何で、俺達が……
あんた達を率いて、カルオモ王国に行く!ちゅう話になんねん。」
ゼロイチ君が、困惑した顔をしている。
「カルオモ王国まで、お供をさせて頂きたいのは……
私とキンノウ。それと……
私の護衛頭のテバコと、キンノウの側仕えのクイメガ。
それだけです。」
「でっ、コマレ村の村人達は、どうなるの?」
嫁がジト目で、女の子に質問をする。
「キンノウの護衛兵と、私の警備兵が、
間違いなく、カルオモ王国に連れて行ってくれます。
ですが……その為には……
目立つ、我々が邪魔なのです。
ですから……
私達を異世界人の皆様に、ご一緒させて下さい。」
女の人が、そう言うと、深々と頭を下げてくる。
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