各々の思惑(後編)
「でっ、重たい話は?」
ゼロイチ君が、真剣な顔で、質問をしてくる。
「キュドン四天王は、十中八九、僕達を殺しに来る筈だ。
だから……
取り敢えず、ウゴメスとジョブロは殺す。
でっ、オフメとラネトには、
【気候変動装置】を私用で使用しているか、否かの確認。
それと……
管理人である、キュドンが、何故、直接、民を率いる事にしたのか。
後、ワルウン王国の統治の原状と、カルオモ王国への侵攻の予定。
そうそう。
この世界が閉じた件や、
この世界のダンジョンが、僕達の世界に転移してきた件についても……
知っている事がないか、聞かないといけないね。」
「成る程。
重たいっての……直接、殺しをする!って意味か。」
ゼロイチ君が、ジッと、僕を見る。
「それもあるけど……
オフメとラネトから得られた情報次第では……」
「あぁ……そう言う事ね。
俺達の世界に何故、この世界の【ダンジョン】が、大量に転移して来たのかとか……
何故、俺達の世界に転移した【ダンジョン】が、暴走したのかとか……
この世界にある、パラレル ワールドを繋ぐ【次元転移装置】が暴走して、この世界が閉じた世界になったのかとかについて、
オフメとラネトが、想定以上に、核心に迫る返答をして来た場合……
俺達も、この騒動の中心人物の1人になってしまう可能性がある。
そう言いたいんやな?」
ゼロイチ君が、真剣な顔で質問をしてくる。
「うん。
正確に言えば、
カベショウさんや、コロチンさん。それと……
ゼロイチ君のお父さん達に報告をした後、どんな特命が下るのか……
そこが一番、重要なところだね。」
「成る程な。
確かに、色々、頼んできそうやな……
とは言え……
事前に共有しとかんと、それは、それで……
面倒臭い事になりかねん。
ホンマ……ドンドン、面倒臭い事になっていきそうやね……」
ゼロイチ君が、タメ息をつきながら呟く。
「だよね……
だけど……
こっちからも、色々と、お願いをしないといけなくなる可能性もあるもんね……
でっ、その場合、情報をギリギリまで寝かせておいた時に言われる言葉は……
何で、もっと、早く、情報を共有しなかったんだ!だもんね……」
「せやな。でっ、その場合……
こっちのお願いは、あんまし聞いて貰えんくて……
しかも、向こうからのお願い事は、たんまり来る。
そんな未来しか見えんわな。」
ゼロイチ君が、苦笑いしながら、タメ息をついている。
「やっぱり、そう思うよね……」
「おう。唯一の救いは……
俺のブレーンをしてくれてはる、アケモン君が、
出会った方々との縁は、大事にしつつも、
可能な限り、面倒事には関わらないで、元の世界に帰りたい。と言う……
俺のコンセプトを大事にしてくれてはる事やね。」
「君達には、向上心は無いのか!」
嫁が苦笑いしながら、
僕とゼロイチ君の会話に加わってくる。
「俺の親父で、土狛一族の長、シエジは……
男女の区別なく、適材適所だけを考えて仕事を振りよる。
てか……
俺達の中での格的な意味では、
特異点である、セプモちゃんが……一番、高いんや。
対岸の火やない。そこ……理解してはるか?」
ゼロイチ君が、ジト目で、嫁を見る。
「マジ!ヤッバ……
よくよく、考えたら……ゼロイチ先輩。
出会った方々との縁は、大事にしつつも、
可能な限り、面倒事には関わらないで、元の世界に帰りたいってのは……
なんて、素敵なコンセプトなんでしょう。
それとパパ。
詭弁でも、屁理屈でも、言い訳でも、何でも良いから……
ゼロイチ先輩の考えられた、素敵なコンセプトを守る為のアイデアを、ジャンジャン・バリバリ、出して下さいな。」
嫁が、慌てた顔をしながら、
先刻までとは、真逆の内容を言い出した。
ようやく、嫁は、
自分もガッツリ、巻き込まれるかもしれないと言う事に、気がついてくれたのだろう。
だからこそ、
ゼロイチ君のコンセプトが、どれ程、重要性な物かと言う事を、
しっかりと、理解してくれたのだろうな。
◇◇◇
「出来れば……キュドンも殺したいところよね。
てか……
アタシ達と敵対する者に対しては……
仲直りの見込みや、共闘が出来そうなネタが有る場合を除いて、
可能な限り抹殺する。このルールを守る必要もあると思うわよ。」
レサさんが、淡々とした口調で、会話に加わってくる。
「コワ!
せやけど……その覚悟は必要やな。
たとえ、殺し損ねても、
二度と敵対したくない。って思わせんへんかったら、
後々、面倒臭い事になりかねんもんな。」
レサさんの意見に、ゼロイチ君が賛成する。
「再開する手順とタイミングを、間違わなくて良かったわ。」
テショミさんが、苦笑いしながら、会話に加わってくる。
「本当、そう思う。
流石に……友達を殺すと……2・3日は、寝覚めが悪いからね。」
「せめて、4・5日は、喪に服せよ!」
レサさんの呟きに、
テショミさんが、大笑いしながら、ツッコミを入れている。
ーーーーーー
『キュドンって言う管理者の情報が手に入りましたわよ。』
通信機器から、コロチンの弾んだ声が聞こえてきた。
「ご苦労さん。でっ、何者なんや?」
旦那(土狛 シエジ)が、労いの言葉も、そこそこに、
淡々とした口調で、先を促す。
『大昔の、あの戦争の後始末の時に、
バックアップ ワールドに世界流しにされた、寸法臣一族の庶家の者です。
その後、キュドンは、
キュドン自身が、あの戦争に関わっていない事と、
寸法臣一族の先代の長のカマテの推薦があって、
バックアップ ワールドの管理人の1人になりました。
でっ、その縁から、キュドンとカマテは、今でも、
個人的な、やり取りを続けているみたいですね。』
コロチンが、何故か、ヒソヒソ声で、
旦那(土狛 シエジ)の質問に答える。
「あの戦争の後、急に家督を息子に譲った、寸法臣一族の元長のカマテと……
あの戦争で世界流しにあった者の関係者のキュドンねぇ……
なんや知らんけど……キナ臭い話やな。
もう少し、情報を集めれそうか?」
『相手は、寸法臣 カマテですよ?
流石に……直ぐには無理ですよ。』
「せやろな。
寸法臣一族の、今の長の、ヒトフと違うて、カマテは……
ボンクラやないもんな。
聞いてみただけや。忘れてくれて構わへんよ。」
コロチンの返答に、
旦那(土狛 シエジ)が苦笑いしながら答える。
『では、後は……
土狛一族が調べてくれるって事ですか?』
コロチンが、嬉しそうに、
旦那(土狛 シエジ)に質問をする。
「バカ息子に頼まれて、ラレサギ一族の後ろ楯になったからなぁ……
ヒトフだけやのうて、カマテにも警戒されてる筈や。
せやけど、まぁ……
やるだけ、やっては見るわ。
とは言え……あまり、期待されても、困るで。」
『了解です。』
コロチンのガッカリした声が、
通信機器から聞こえてくる。
ーーーーーー
『カマテ様。
キュドン様は、庶家とは言え……貴方様の一族の者ですよね?
本当に……消しても良いんですか?』
カマテ様の命令で、秩序の破壊者に潜り込んでいる、
ケシヨが最終確認をしてくる。
秩序の破壊者とは、
観察者の統治による秩序を壊したい勢力の事を言う。
彼等が、何故、そんな、大それた事を思い描くのかは分からないが……
カマテ様が、裏で繋がっていると言う事は、きっと……
大昔に起こった、核戦争にまで発展した、あの戦争に由来しているのだろう。
「あぁ。
土狛 シエジの息子、土狛 ゼロイチは、
やる気こそないが……その能力は折り紙付きだ。
それに、奴と共に、バックアップ ワールドに転移した仲間達も……
なんや、かんや言いながら、皆、能力的には、優秀な連中ばかりだ。
だから、キュドンには、
無駄に奴達に突っかかる、孫を始末させた上で、
奴達とは、関わるべきではない。と忠告したんだよ。
なのに、キュドンは……
今後、計画の邪魔になる可能性が有る者は、全て始末すると言う、秩序の破壊者の意向に忖度して、奴達を始末する!と言って聞かない。
それは……俺の意に反する行為だ。」
ケシヨの質問に、カマテ様が、
イライラした顔をしながらも、丁寧に返答を返す。
『了解です。
でっ、キュドン様の奥方様と、お子様達は……どのようにすれば、宜しいでしょうか?』
「秩序の破壊者への協力は、
あくまでも、寸法臣一族の不利益にならない範囲。それが……
秩序の破壊者と寸法臣一族との契約内容だ。
その契約内容を鑑みた上で、どうするべきか、
お前が判断すれば良い。」
『畏まりました。
キュドンは、ワルウン王国の支配者として君臨しています。
ですから……
彼を始末するタイミングを誤れば……民の生活に混乱が生まれます。
なので、キュドンを含めて、
殺るタイミングは、アタシが決めさせて頂きます。』
ケシヨは、カマテ様の丸投げの指示を逆手に取り、
恭しい態度を取りながらも、
自分の考えを通すと、カマテ様に宣言をした。
「それで良い。
ただし……民よりも、秩序の破壊者を中心に進められている計画を完遂される事の方が重要だ。
既に、バックアップ ワールドのダンジョンを、オリジナルの世界へ転送し、
バックアップ ワールドを封印してしまったんだ。
ここまでしておいて……流石に無かった事には出来ないからな。
そこは、よくよく、考えておくんだぞ。」
『大丈夫です。
キュドン様の手下として……この計画に加担した事実は消えませんからね……
アタシだって……アタシの身が、一番、可愛いですよ。』
ケシヨは、
カマテ様の遠間しの指示の意を汲んだ、返答を返す。
「宜しい。その気持ちを忘れるな。」
カマテ様は、ケシヨの返答に満足そうな顔をされている。
◇◇◇
「随分と慎重ですね。」
ケシヨとのやり取りを終えた、カマテ様に、
カマテ様の奥方様のカガミ様が声をかけられた。
「あぁ。
秩序の破壊者は、オリジナルの世界のダンジョン管理局員の取り込みが上手く行ってない中で、第二段階を強行した。
そのせいで……土狛 ゼロイチだけでなく……
アケモンと……その嫁のセプモと言う、イレギュラー達までもが、この騒動に加わる事になった。
第一段階と第二段階は、秩序の破壊者の完勝だったが……
不確定要素が加わった、第三段階以降の作戦の成否は、今まで以上に、流動的な物になった。
そう言わざる得ない状況だからな。」
カマテ様が、カガミ様の呟きに返答を返す。
「確かに。
あの戦争以降に管理人や、管理者に成った者達は、それすら、気がついていないみたいだけど……
過去の事象に干渉する異能や、
管理人見習い以上のパワー バランスを、著しく変える恐れがある異能を、ガイアが与える事は……原則、無い事です。
それに……いくら、特異点とは言え……
ガイアが、何の功績も無い、ポッと出の者に加護をを与えるなんて事は、アタシの知る限りでは、初めての事。
ガイアが、何故、あの2人を特別扱いするのかは、分からないけど……
決して、手を出してはいけない相手。
バカな孫を粛清する機会を与えてくれた、秩序の破壊者や、
バカな孫を粛清してくれた、キュドンには感謝していますが……
沈む可能性が有る船に、逃げる準備もせずに乗り続けるのは……愚の骨頂。
イライラすると、癇癪を起こして、周りが見えなくなる傾向が強い、貴方が……
まだ、冷静なようで、安心したわ。」
カガミ様が、ホッとした顔をしながら、
カマテ様を見る。
「あの戦争の後、お前の進めで、
家督をヒトフに譲ったり、
庶家の者達を、バックアップ ワールドに世界流しにする事で、難を逃れたが……
危ない橋を渡った自覚は有るつもりだ。
これでも……
同じ轍は踏まないように、細心の注意を払ってるつもりだよ。」
「宜しい。」
カマテ様の返答に、寸法臣一族の真の長、カガミ様が、
満足そうな顔をされている。
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