各々の思惑(前編)
『よしよし。
今回の大嵐の影響で、
カルオモ王国の領土の中で、ロテク辺境伯領が孤立した形になってるな。
この大嵐は、
1ヶ月近く続く、恵みの大嵐だ。
なのに……
実質、ワルウン王国を仕切ってた、8人の諸侯どもは……
どいつも、こいつも、兵を出し渋って来ている。
だから、コマレの村の連中を追うのを止めて、
ロテク辺境伯領を目指して欲しい。
俺達が本当に欲しい、
ロテク辺境伯領を予定通り落とす為には、
お前達の助けが。必要だ。』
「了解。」
キュドン様の指示に、
ジョブロさんが、短い返答を返す。
何故、キュドン様が、
この大嵐が、1ヶ月近くも続くなんて思っているのかは分からないが……そこは、敢えて、誰も触れない。
世の中、知らない方が良い事もあるって事を、
皆、知っているからだ。
『それと……
ラネトの言っていた、ロテク辺境伯領に向かっている、謎の馬車。
関係各所に連絡したが、所属不明だ。
至急、そいつ達に追い付いて、ブチ殺してくれ。』
「了解。それは、それは。楽しみだなぁ。」
キュドン様の指示に、
ジョブロさんと、ウゴメスさんが、嬉しそうな顔をする。
「謎の馬車には、キュドン四天王で当たるっす。
他の者達には、ロテク辺境伯領へ、最短ルートで、向かって貰うっす。」
『了承する。』
ウゴメスさんの提案を、キュドン様が許可してしまった。
全く……面倒臭い事、この上ない。
そもそも、何で、戦闘狂の連中のお付き合いをしないといけないんだ。
オフメさんも同じ気持ちみたいだが……
敢えて、何も言わないようだ。
「行くぞ。ついて来い!」
ジョブロさんが、そう言うと、
アーティフィシャル シー フォースを全速力で走らせ始めた。
「はっ。」
俺は、ジョブロさんに、置いてかれないように、
アーティフィシャル シー フォースに鞭を打った。
ーーーーーーー
「なんや知らんけど……
物凄い勢いで、俺達の方に向かって来てはるが居はるわ。」
ゼロイチ君が、不思議そうな顔をしながら、
僕達に【空の目のナビ】を見せてくる。
「その旗は、キュドン四天王の旗です。
多分……
テショミさんと、ハケオさんの元仲間の方達を始末されたのも、キュドン四天王かと思います。
申し訳ないのですが……
近くに、彼等の部下も居る筈ですので、
何処に向かってるか、調べて貰えませんか?」
クイメガ君が、
ゼロイチ君から見せられた、【空の目のナビ】を睨みながら呟く。
「キュドン四天王?
キュドンってのは、確か……管理人で、
ワルウン王国を乗っ取ったり、
ニギリステを殺したりした奴やな?」
「ニギリステさんってのが、
テショミさんと、ハケオさんの元仲間の方達ならば、
その通りです。」
クイメガ君が、真剣な顔で頷く。
「『さん』付けはイラン。」
「だな。寧ろ……
バカ様で良いと思うぞ。」
「これ。話を脱線させない。」
ゼロイチ君と、ハケオさんの、クイメガ君への返答を聞いた嫁が……
余計な事は言うな!と嗜めている。
「悪い。悪い。
まだ、何とも言われへんけど……
進行方向的には、ロテク辺境伯領の方に向かってる気がするわ。
キュドン四天王って奴等以外は……
普通の馬か、シー ホース(モンスター)か何かやろな。
せやから、
明らかに、アーティフィシャル シー フォースに乗ってはる、キュドン四天王だけが……
一足先に、俺達に接近して来てはるんやろな。」
「だろうな。
アバズレ2号の話だと、キュドン四天王?って奴等は……
俺達の世界の、暴走したダンジョンの調査団の情報を、探っていたらしいからな。」
ハケオさんが、淡々とした口調で、
ゼロイチ君の、色々、スッ飛ばした上での結論を補足する。
「ねぇ……
ロテクの悪魔の森を通らなくても、
ワルウン王国からなら、ロテク辺境伯領に行けるんだよね?
その道の状況を、【空の目のナビ】で見たいんだけど……」
「別に良えけど……
何か、思い付いた場合、結論を言う前に、
先に理由を言ってくれたら有難い。」
ゼロイチ君が、
苦笑いしながら、僕を見る。
「やっと……アタシ達の、あんたへの苦言を理解した?」
レサさんが、大笑いしながら、会話に加わって来る。
「うっさいわ。」
ゼロイチ君が、恥ずかしそうな顔をしながら、
レサさんに悪態をつく。
「プププ。
アタシが……恥ずかしさを隠す為に逆ギレしている事も看過する事が出来る……
【浄冥眼】を持ってて良かったわね。」
レサさんが、
そんなゼロイチ君を、更に追い込む。
「ごめん。負けました。」
「宜しい。」
ゼロイチ君が、
何時も通り、レサさんに、完全敗北を喫していた。
◇◇◇
「結構な数の兵士っぽい人達が野営してはる。
アケモン君は、これを……予想しはったんか?」
ゼロイチ君が、興味津々な顔で、僕を見る。
「少し、引いて、雲の流れを見れば予想がつくよ。」
「大嵐の影響で、
カルオモ王国の領土の中で、ロテク辺境伯領が孤立した形になってはるな……
って……成る程。
この隙に、ロテク辺境伯領を狙う算段ッか!って……
流石に、色々と、無理がありすぎやろ!」
ゼロイチ君は、表情をコロコロと変えながら、
ノリ ツッコミをしてくる。
「人工衛星的な装置【空の目】。
気象を操れる【気候変動装置】。
パラレル ワールドを繋ぐ【次元転移装置】。
【ダンジョンの制御室】。
キュドンが管理人ならば……
4大発明が保管している、高次元の施設の場所を知ってるんじゃない? 」
「4大発明を、私用で使うんは、禁止されてはる。
せやのに、キュドンは、
【気候変動装置】を、私利私欲の為に使うてはる。
せやから、キュドンは、
自分の罪が露見しない為に、
【高次元の施設のセキュリティ キー】を付与されれたアラートジリスを探し出して、殺すつもりやった。
そう言いたいんか?」
ゼロイチ君が、真剣な顔で、僕に質問をしてくる。
「うん。
新参者の管理人見習いが、こんな事を言うと、
ゼロイチ君達からすれば、面白くないかもだけど……
絶対に、あり得ない!とは……言いきれないと思うよ。」
「分かってる。
てか……怒ってへん。
もし、この世界が開いてはったら、
親父に報告すれば、然るべき処置をしてくれはるやろ。
せやけど……
この世界は閉じてはる。
アケモン君の読みが当たった場合……
管理者見習いとしては、見て見ぬふりは出来へん。
とは言え……
俺達だけで、対応するんは、正直なところ……
かなり、面倒臭い事になる思うんや。」
ゼロイチ君が、タメ息をつきながら、僕を見る。
◇◇◇
「降りかかる火の粉は払う。
その一環として、
必要ならば、ロテク辺境伯領を守る手伝いはする。
だけど、キュドンが【気候変動装置】を私用で、使用している可能性については……敢えて、気がつかなかった事にする。
ってのは無理がある?」
「俺も、それが良えとは思うけど……
状況次第では無理やろな。」
ゼロイチ君が、苦笑いしながら、僕を見る。
「それよりも……
キュドン四天王の異能や、受けてるジョブ補正の情報を調べるのが先じゃない?
一応、ニギリステ達を瞬殺したんでしょ?
アケモン君の無敵タイムがあるからと言って、
キュドン四天王って人達を、雑魚だと決めつけて馬鹿にしてたら……
手痛い、しっぺ返しを受けるかもよ。」
レサさんが、淡々とした口調で話す。
「キュドンの事は分かりませんが……
キュドン四天王の事ならば分かります。
まず、ウゴメス。受けてるジョブ補正は【踏破者】。
スピードに特化した戦闘スタイルから、
スピード クイーンと言う、2つ名を持っています。
次にジョブロ。彼は……準変異点。
特異点様や、準特異点様。霊獣様にも、アンチ サイを決める程の圧倒的なマナの量を持っています。
また、魔法さえなければ……
熊や虎等の猛獣とも、剣を持てば殺り合える、猛者でもあります。
なので、
特異点様や、準特異点様。霊獣様でも怯まずに戦います。
そんな彼の生き様から、
神殺し言う、2つ名で呼ばれています。
次がオフメ。受けてるジョブ補正は【祈祷師】。
拷問や尋問の達人と言う噂です。
最後が準特異点のラネト。
【知識の泉へのアクセス】の異能を持ち、
【治癒師】のジョブ補正を受けてます。
それと……
オフメとラネトは、二人一組で、最恐の情報屋コンビ。
そんな2つ名を持っています。」
トバチリちゃんが、淡々とした口調で、
僕達の知りたい情報をくれる。
「カルオモ王国は……
ワルウン王国を併合する国力は有るの?
それと……
キュドンから、ワルウン王国を取り返そうとしている勢力はあるの?」
「ワルウン王国は、8つの自治区が集まった小国で、
カルオモ王国は、律令法に乗っ取った、
王族を頂点とした中央集権の大国だ。
ワルウン王国の民の心情を察すれば、併合は難しいだろう。
だけど、もし、
カルオモ王国内の自治区と言う立ち位置ならば、
ワルウン王国の民も納得した形で、併合する事は可能だとも思っている。」
キンノウ君が、僕の質問に答える。
それを聞いた、トバチリちゃんも、深く頷いていた。
◇◇◇
「ワルウン王国での王族の役割は、
実質、ワルウン王国を仕切っている、8人の諸侯達と調整を行い、国として機能させる事です。
でっ、その役割が、王族からキュドンに代わった。
8人の諸侯達に取っては、その程度の認識です。
そんでもって、
コマレ村のような、王族の直轄領は別として、
基本、ワルウン王国の民達にとっての支配者は、
8人の諸侯の誰か1人です。
ですから……
キュドンから、ワルウン王国を取り戻そう!なんて考える者は居ないと思います。
てっ、言うよりも多分……
キュドンを排除する事で、
8人の諸侯達が、ワルウン王国の新しい王族になろうとして、争い始める事を恐れていると思います。
そんでもって、8人の諸侯達も、
他の諸侯達と、権力争いをせざる得ない状況になる事を、好ましく思っていないかと思います。
ですから、私は……
民達の幸せを守る為に、
ワルウン王国をキュドンから取り戻す事を、諦める事にしたのです。」
トバチリちゃんが、
悔しそうな顔をしながら、僕達に補足情報を話してくれた。
「成る程ね。つまり……
ワルウン王国の8人の諸侯が、
自分達の調整役を担う者が、
キュドンよりも、カルオモ王国の王族の方が、相応しい。
そう思わせれば、自主的に、キュドン達に反乱を起こす。
そう言う事だよね?」
「えぇ。そうですが……
そんな事が、可能なのですか?」
トバチリちゃんが、興味津々な顔で質問をしてくる。
◇◇◇
「ロテク辺境伯領の食糧の備蓄量を、
僕の異能【原状回復】で、無限増殖しまくって増やしまくる。
そんでもって……
軍や、傭兵団が動けば、水や食糧の移動が起こる。
そして……
水や食糧の移動は、人力・馬車・ロバの馬車・牛車を問わず、人が関わらないといけない。
だから……
ロテク辺境伯領を攻める、ワルウン王国の前線基地となる、村や町に、運び屋として紛れ込み、
僕の異能【原状回復】を使って、
水や食糧が、倉庫に運び込まれる前の状態に戻したり……
水や食糧の入った樽や箱の中身を、
水や食糧を入れる前の状態に戻して、食糧不足を引き起こす。
その状況で、ロテク辺境伯が、
キュドンの指示に従って、攻めて来ている、ワルウン王国人を憐れみ、
キュドンとの縁を切る。つまり……キュドンの支配を拒めば、
カルオモ王国の自治区として迎え入れるように、
カルオモ王国の王族に働きかけるとともに、
その願いを、カルオモ王国の王族が聞き入れた暁には、
食糧の援助をする!と、大々的に宣言するんだ。
そして……
カルオモ王国の王族は、ロテク辺境伯の考えに賛同し、
ワルウン王国の8人の諸侯に対して、
キュドン達を追放する意志があるのであれば、
可能な限りの援助をすると発表する。
ここまでが……ライトな感じの話ね。」
「ごめん。パパ……
ちょっとした悪戯します!的な言い方だけど……
既に、結構な悪どい話になってると思うぞ。」
嫁が、そう言いながら、
ジト目で、僕を見てくる。
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