嵐の中の静けさと、恵みの大嵐
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
「ツクツクツク。」
大きな雷の音を聞く度に、ドンソンは、
不機嫌になっていく。
時刻は、8時過ぎ。
僕達の馬車は、広場になっている場所の端に止めている。
馬車の屋根にも、専用のテントを張り、
1F・2Fに別れてはいるが、皆で固まる事にした。
因みに、御者台の屋根からも、馬車の屋根に行ける梯子が有る為、1F・2Fの移動は濡れずに済む。
6台のアーティフィシャル シー フォースは、
燃料補給の為に、草を食んでいる。
但し、馬車に繋いでる、アーティフィシャル シー フォースは、何時でも馬車を動かせるように、繋いでる為、
カップ麺の容器も食べさせた。
カップ麺の容器のプラスチックは、元々、石油で出来てる。
アーティフィシャル シー フォースは、
プラスチックの資材を石油に分解する能力が有る為、
燃料として利用する事が出来るのだ。
「ニャレス。
アルゾウとナイコ用の餌と、
魔術式の温冷水のハーネスと、
魔術式の温冷水の毛布と、
肩掛けタイプの小動物用のキャリーバッグを、
ハケオさんに渡して来てくれない。」
「お駄賃として、
チ○ールをくれるにゃら、直ぐにやるにゃ。」
「お駄賃は、後払いで用意しよう。」
「行ってくるにゃ。」
ニャレスと嫁の悪い取り引きが成立して、
ニャレスが、1F(通常の荷台)に向かう。
因みに、
【高次元の施設のセキュリティ キー】を付与された、アラートジリスがアルゾウで、
【高次元の施設のセキュリティ キー】が付与されていない、アラートジリスがナイコだ。
ニギリステは、
アルゾウを盗んだ事がバレそうになった時に、ナイコを見せる事で、
【高次元の施設のセキュリティ キー】を付与された、アラートジリスを盗んだ者を捜査する捜査員の目を誤魔化すつもりだったらしい。
バカは、バカなりに……一生懸命、考えてたようだな。
◇◇◇
「ほれ。」
【シャク・シャク・シャク・シャク】
【シャク・シャク・シャク・シャク】
魔術式の温冷水の毛布に、顔だけ出して、潜り込んでいる、
ドンソンとコイリド、嫁が小松菜を差し入れする。
コイリドは、警戒音こそ出さないが……
テントに当たる、風の音が怖いらしく、
ガタガタと震えている。
「ただいまにゃ。
アルゾウと、ナイコも、
魔術式の温冷水の毛布に、顔だけ出して、
餌を頬張ってたにゃ。」
ニャレスが、そう言いながら、
2F(屋根の上のテント)に戻って来た。
「有り難う。」
嫁が、そう言いながら、
チ○ールをニャレスに渡す。
「じゃあ……
レサの分身に見張りを任せて、暫く寝よか。」
「この騒々しい中、寝られれば……寝るよ。」
ゼロイチ君の指示に、
嫁が、苦笑いしながら返答を返す。
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
またしても、大きな音が鳴る。
「ツクツクツク」・「ピッー・ピッー」
雷が苦手なドンソンが、更に、不機嫌になっていく。
◇◇◇
「時間です!
貰って行きます!」
【ビク!】
レサさんの分身の大きな声で目を覚めた。
レサさんの分身は、
1F(通常の荷台)のメンバー用に用意してあった、
サンドイッチとおにぎりの入った袋を持って、下に降りたらしく、既に姿はなかった。
「ファァ~。
ドンソンとコイリドにも、餌をやるか。」
「妾が先にゃ。」
「ヘイヘイ。」
欠伸をしながら、呟く嫁に、
ニャレスが、ご飯の催促をする。
「異世界に転移しても……
何時ものカリカリの残量を気にせずに食えるのは、有難いのう。」
ヴォルが、目を細めながら、僕の方を見る。
「さてと。飯を食ったら出掛けやんとな。
それと……
簡易トイレとは言え、立派なトイレ。
恥ずかしがってたら、偉い目に合うから気いつけてや。」
「それは……食べてから言って。」
ゼロイチ君のデリカシーの無い発言に、
レサさんが、苦笑いしながら、苦言を呈していた。
◇◇◇
「ほな。出して。」
「了解。」
レサさんが、ゼロイチ君の指示に短い返答を返した後、
アーティフィシャル シー フォースを走らせる。
嵐の勢いは収まる気配が無いので、
皆で馬車に乗っての移動だ。
御者台には、
2台のアーティフィシャル シー フォースの手綱を握る、レサさんが真ん中に座り、
前方の索敵担当のニャレスが左側に、
レサさんの補佐として、テショミさんが、右側に座る。
その後ろは、
ベンチシート型の椅子に、
左手の進行方向から、ハケオさん。僕。嫁の順番で座り、
右手の進行方向から、ゼロイチ君。トバチリちゃん。クイメガ君の順番で座る。
最後尾は、後ろ向きに横3列に並ぶ。
左手から、テバコちゃん。ヴォル。キンノウ君の順番だ。
武器は、ナイフのような、携帯しやすい物と、
ビニール袋に入れた、飲み物と、お菓子を除いて、
人外地の標準装備の中に入れて、
馬車の天井部に作られている、電車の網棚のような場所に置いている。
それとは別に、
嫁とハケオさんの膝の上には、
ドンソン達が入った、肩掛けタイプの小動物用のキャリーバッグが入ってる。
因みに、ハケオさんの持っている、肩掛けタイプの小動物用のキャリーバッグは、僕が無限増殖で増やした、お揃いの物だ。
ニギリステは、アルゾウとナイコを、
使い捨てにしようと考えていたらしく……
ペット キャリーを買う以前に、ハーネスすら用意せずに、
ハケオさんのポケットにでも入れておけばオッケー!なんて……
無茶苦茶な事を言っていたらしい。
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
【ピカッ】・【ゴロゴロ】・【ドォォオーン】
「ツクツクツク。」
ドンソンが警戒音を発っし、
コイリドが、魔術式の温冷水の毛布に潜り込む。
「落ち着け。」
嫁がそう言いながら、
左右の手を使って、ドンソンとコイリドの頭を撫でる。
「このまま、モンスターや、獣や、鳥。巨大な昆虫達が……
息を潜めて、雨宿りをしてくれていたら良いのにね。」
嫁が、後方を睨みながら、ボソッと呟いた。
「嵐の中の静けさだね。」
僕は、嫁に短い、相槌を打つ。
馬車の前後の空間は、結界魔法が張られている為、
雨が降りこんで来ない。
なので、馬車の中に居る事を限定に考えた場合、この大嵐は……
僕達にとって、恵みの大嵐だと言えるな。
ーーーーーーー
「斥候部隊。問題ないか?」
カルオモ王国の殿下の護衛兵長のナヤキン殿が、確認を取る。
『はい。
この大嵐でモンスター達が動く気配がないです。
そのお陰で、逆に……
動きやすいぐらいですね。』
「了解。」
ナヤキン殿が、ホッとした顔をしながら、
斥候部隊に返答を返す。
「先導部隊も同じ認識か?」
『はい。』
「よし。なんか有れば、直ぐに、報告をくれ。」
『了解。』×
先導部隊の方も問題が無いらしい。
ちょっと、降りすぎな気もするが……
我々に取って、間違いなく、恵みの雨だ。
「殿部隊。問題は出てないか?」
今度は、皇女様の副警備隊長のコジヨシ殿が、
確認を取り始めた。
『はぐれた者や、行軍に遅れた者の報告も受けてませんし……
我々が目視でも確認しておりますが……
今のところ、問題無いかと思われます。』
「ご苦労。
家畜・使役動物の方はどうだ?
逃げられたりしてないか?」
『こちらは、家禽・念話烏の運搬チーム。
家禽は、人語もある程度話せる、魔猫の監視の元、
ロバの牽く馬車の中で大人しく過ごして貰っています。
念話烏は交代で、
斥候部隊や、先導部隊。それに……殿部隊の手伝いまでしてくれています。
特にトラブル等は出てません。』
『こちら、山羊・羊・馬・ロバ・牛の運搬チーム。
馬・ロバ・牛の中で、
戦闘員が騎乗したり、荷馬車等の運搬に使われている物についての報告は、各々のチームからの情報となります。
それ以外の物については、
魔犬をリーダーとした、牧羊犬達が、
群れからはぐれないように統率してくれてます。』
「了解。
引き続き、家畜も込みで、
皆で、ソカカ村に辿り着けるよう、踏ん張ってくれよ。」
『了解。』
コジヨシ殿の檄を受け、
殿部隊が気合いを入れ直したようだ。
「皆様、ご苦労様です。」
先代の村長で有る、親父が、
俺の仕事を取ってしまった。
親父に悪気が無い事は分かっているが……
そろそろ、隠居生活に慣れて欲しい。
◇◇◇
「皆には、頭の下がる思いだな。」
「あぁ。そうだな。」
親父の呟きに、俺は短い返答を返す。
斥候部隊と先導部隊の指揮の元、
先ずは、人間と、鼠等を追っ払う猫の一団が進む。
猫は、幌馬車等の屋根の上で寝ている。
馬車や牛車。ロバの牽く馬車に乗る人間は、
俺達のような、指揮を取る者と、
子供と老人。非戦闘員の女の中から特に非力な者。そして……
怪我人や病人だけだ。
その他の者は、
戦闘員として、馬に騎乗する者を除き、
この大嵐の中、徒歩で移動して貰っている。
夜でも、移動が必要ならば、
カンテラや、松明の灯りを頼りに歩いて貰う、劣悪な環境だ。
それに、夜営時も……
交代で火の番や、見張りに立つ。
誰も文句も言わずに、黙々と行動してくれるのが……逆に辛い。
そして、
人間と猫の一団の後を、
家禽・念話烏の運搬チーム、山羊・羊・馬・ロバ・牛の運搬チームの順番で進む。
家禽・念話烏の運搬チーム、山羊・羊・馬・ロバ・牛の運搬チームには、家畜の他に、
騎乗して、家畜をガードする警備兵と、
家畜の監視や世話をする畜産家。それと……
畜産家の手伝いをする、魔猫・魔犬・牧羊犬・念話烏が居る。
親父と俺は、この2つのチームのメンバーには、
襲って来たモンスターのレベルによっては、
家畜を差し出しても良いから、自分達の身の安全を確保して欲しい!と、事前に頭を下げている。
そんな事態にならない事を祈ってはいるが……
起こり得る可能性が高い内容については、事前に決め事をしておく方が、
全員で、生き残れる可能性を高められるからな。
「嵐が止んだ後、
腹を空かせた、モンスターや、獣の群れに要注意ですな。」
「本当ですな。
嵐の前ではなく……
嵐の中の静けさですな。」
「そうですな。
幸い、嵐は暫く、収まる気配が無い。
その隙に……
この辺りまで進みたいですな。」
「ですな。
森の端まで行けば……
大型のモンスターは、格段に減りますからな。」
コジヨシ殿とナヤキン殿が……
ヒソヒソ声で、話してる。
コジヨシ殿とナヤキン殿も、俺と同じ懸念を抱き、
この大嵐を、恵みの大嵐と捉えてるようだ。
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