2 魔王の感情
「この世界で最も固い鉱石を使って作られた壁がいともたやすく…」
ふむ…まだ威力はそれほどないな。
シンは心の中でそう呟く。
シンがいた世界では魔法の威力が種族ごとで分かれている。
人間の最大でBぐらいだ。基準とするならば成人の男性でD。魔法の中でのDは厚さ20cmほどの鉄板に傷を一つ負わす程度。人間の最大Bは厚さ20cmほどの鉄板を壊すほどの威力である。そして魔法が最も優れている種族が魔族である。その魔法特性はS。小さい街一つを滅ぼせる威力だ。そして元魔王であるシンの種族は今では人間だが前世では魔族である。種族ごとに魔法の限界というのもある。
そして何かをひらめいたように父に聞く。
「父上。この国で魔法は基本的に使われておりますか?」
「いいや。使われていないぞ?」
顎に手をやり確信する。
やはりそうか…この時代は魔法が廃れているのやもしれないと思っていたがそうだった。魔法を扱うのはそう簡単ではないが数年の修行を積めば誰でも…いや魔力がない者には使えないが常人なら使うことができるだろう。魔法には属性があり火、水、氷、岩、土、自然、風、光、闇などがある。ほかにも属性×属性=新属性をすることもできる。
父が不思議そうにこちらを見つめて言い放つ。
「シン…どうかしたか?」
「い、いえなにも」
少し焦り気味でそういう。
「それよりシン」
「はい?」
「髪…長くないのか?」
「あ、はい長いですが、こちらのほうが落ち着くんです」
「そうかお前は昔から男とは思えないほどの美しさだったな。さすが俺と母さんの子だ!」
「は、はあ」
少し追いついていけなくなる。
元々姿自体は前世と何ら変わりないのである。
性格はすこし変わっている。
―夜―タハホーラー書庫―
机の上に1枚の紙が置かれている。
紙を手に取り書かれていることを読む。
「1つ太陽がなくなった。闇に飲まれた世界だ。天井には月という希望がある。1つ月がなくなった。希望の光が満ち満ちている。大地に光が注がれる。また1つ太陽がなくなった。また闇が世界を覆う。月がない。明かりという希望が無くなった。太陽が顔を出した。天井はいつもの色ではなく赤く染まっている。目の前には18と刻まれた板がある。これ以上は破れていて読めないな…これは何の文章なんだ?」
紙を机に置き部屋から出る。
―9年後―
この世界に転生してきて15年の月日が流れた。シンは身長こそ伸びたものの女性のような顔立ちをしている。
そして9年経った今もあの紙のことはわからない。そして今現在魔法の適正や召喚獣、あらゆる魔法を教会で試験している。これは、成人の戯とも呼ばれており15になると誰しもが行うことである。学園の入学などにも影響されるためしっかりとやっておかなければ損なのである。
自分の番号を呼ばれ試験管の近くに歩いて向かう。
「これから魔法の適正などを測る。列に並び水晶に魔力を込めよ」
シンの前の者が手を水晶に手をかざすと赤色と茶色の点が浮かぶ。
「君は炎と土だね」
眼鏡を掛けた女性に紙を渡される男。
どうやらあの紙に魔法適性などが書かれているようだ。
シンの番になる。シンは水晶に魔力を込める。すると水晶が一瞬にして割れ、破片が飛び散り割れた水晶の破片から黒い靄が出てくる。
「な、なにこれ…?」
そこにいる者達のあいた口が塞がらなくなる。
「水晶が悪かったのかもしれませんね…もう一回やりましょう」
「わかりました」
奥の部屋から同じような水晶を男が持ってくる。
「手をかざしてください」
シンが手をかざすと黒と白の点が浮かび上がる。
「これは闇と光属性ですね…やはりさっきのは不具合だったのでしょうね。それでは紙をお渡しさせていただきます」
紙を受け取り3と扉に文字が書かれた部屋へと入る。
そこは先程とは一風変わっていて訓練場のようだった。
訓練官とおぼしき者が口を開く。
「ここでは魔法測定をする。各々番号が書かれた場所に行き火から順に水、土、風、自然の魔法を放つように。なお闇魔法、光魔法もあとに放て。」
受験者たちが自分の番号が書かれた場所に行く。
「それでは今から20分間魔法を放ち続けてもらう。」
「おい、嘘だろ!?」
「こんなの魔導士しかできねえって」
「嘘ではない。魔導士は最長2時間魔法を放ち続けることができる。いいか?魔導士からしたら貴様らはスライムだ。しっかりとやり続けることが一番いいことなのだ。」
訓練官がそう言うと受験者たちは少し嫌な顔をする。
無理もないであろう。通常魔法は2から3分が限界であり魔力を継続して消費し続けることは無茶でしかないのだ。そして魔法は継続して使うと魔力の消費量がその都度倍に上がっていくのだ。
訓練官が腕を組み足を肩幅ほどに開いて口を開く。
「5秒後に魔法を使ってもらう。それでは5、4、3、2、1、0、開始」
訓練官の声と同時に魔法が一斉に放たれる。
―20分後―
受験者たちが仰向けになり息を荒くする。
その中、シンはずっと平気なままだ。
「訓練官、これで終わりですか?」
「ほう、貴様は骨があるようだな。いいだろう合格だ」
(なぜこんなにも態度がでかいのだろう?一回わからせてやろうか?)
心の中でそう呟く。
明らかに訓練官の方が弱いが、決して手を出そうとは思わなかった。いや、心の中では少し思ったが自分に害がない者にはさほど殺意もわかないため殺そうとはしなかった。
そして訓練官がシンに向けえこう言い放つ。
「これで終わりだ。何か質問はあるか?」
「いえ、ありません」
「お前は骨があるやつだから俺の知らないことを聞いてくると思ったが聞きに来ないのだな」
「はい、本当に話すことがないので」
「そうか」
少し残念そうな顔をする。
シンの背筋に何がが通った感覚がした。
・
魔法を放ち続けて平然としている男の背中を見送る。
(シン・タハホーラー、奴はとんでもない存在かもしれるな。魔導士でも20分間魔法を放ち続けていたら顔色は悪くなる。しかし奴はどうであろう?20分間魔法を放ち続けて顔色一つ変えないのだ。明らかにとんでもないことがわかる)
訓練官は少し恐怖を覚えた。
・
自分の家に行く途中家の方角からけたたましいうなり声と炎が上がっているのが見えた。どうやら家は魔物によって破壊されているらしい。少しシンは焦る。だが少し焦った後落ち着きを戻す。
全力で屋敷へと向かう。
――――――
どうやら家は全焼しており外の扉辺りには母親と父親らしき人物の焦げた遺体があった。急いで息を確認しに行くとどうやらもう死んでいるようだった。
「死んだのか…やはり人間という種族は儚いな」
どことなく寂しいような悲しいような気持ちがこみ上げる。
だが、涙は出なかった。やはり魔族としての一部もまだあり、少しだけどうでもいいと感じてしまう。
そして目の前には巨大なファイヤードラゴンが立ちふさがっている。少しの間そのドラゴンの目を見てこう言い放つ。
「うむ…やはりどうでもいいという感情だけが最後には残ってしまう…だけど仇は仇だよな…?取った方がいいか?とったほうがいいよ…な?」
少しの間困惑しているとドラゴンが火をシンに向けて放つ。
シンは動かずに魔法も使わずにその場に立ち続けている。
「まだ魔王としての感情があるのか…無駄とは思わないがこう…なんだろう…?少し自分にムカつくというかなんというか。」
結んだ髪をほどき頭に手をやる。
「まぁ、どっちにしろお前は倒さなくてはならないしここで倒した方が後々楽になるよな」
ドラゴンに近づいていき目の前に手をかざす。
すると魔法陣が目の前に現れ黒い靄が辺り一面を覆いつくす。ドラゴンはその圧に押されたのか、少しのけぞる。
そして心の中で放てと言い魔法を放つ。
シンのはなった魔法はドラゴンの顔に命中し跡形もなく塵になり顔の部分だけなくなっていた。
シンは何とも言えない感情に少し困惑した。
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次話をお楽しみに。
烏山




