1 神に知恵を授けられた魔王
魔王城玉座の間で英雄者一行と魔王モレクの一方的な戦いが繰り広げられていた。
魔王は魔法を使い英雄者達を一双していた。
ある者は抵抗をし魔王の拳での攻撃で命を落とし、ある者は魔王を魔法戦に持ち込み自分の最大の魔法を打ち込むがそれを跳ね返され灰も残さず消えた。
そして今、魔王と英雄者達の戦いが終わった。
「今までで一番よかったな、この人間達」
英雄者達の死体しかない玉座の間で1人そう呟く。
「うむむ…暇になってしまった…あ、そうだ!人間の国に行ってみるか!」
魔王は上機嫌になり変装をした。
その姿は人間に近い亜人と呼ばれるものに変装した。銀色の髪に紫と赤い瞳。頭には角が2本生えており男とは思えないほどの美しさだ。
「よし、これで良さそうだな!」
腰に手を当て鏡の前でそう言い放つ。
「あ、そうそう人間の硬貨も持って行かないとな」
金庫に行き金貨8枚銀貨150枚銅貨220枚を巾着袋に詰め込む。
キョロキョロと辺りを見回し誰もいないことを確認し金庫を後にする。
魔王城を出て『ゲート』を開くと『神秘の森』という場所に出る。そこは草木が生い茂りその奥には湖があり謎の模様が刻まれた壁画が湖を覆うようにして東西南北で1つ置かれている。
「どこに開いたんだ?」
ここ8000年生きた魔王ですらここは知らない場所である。
森の奥にある湖に近づく。
魔王が湖を見ていると突然ドラゴンとおぼしき存在が姿を現し魔王を見つめる。
「おー、これは珍しいランスシードラゴンか」
ランスシードラゴン、別名一角水竜。湖の奥深くに生息しているとされ100年に1度顔を現す伝説のドラゴン。
「うむむ…武器がない…これを使うか…」
魔王は石を手に取りそう呟く。そして魔王は投げる構えをし、腕に魔力と体重を移動させる。魔王の石を握っている手から紫と黒の靄が出てくる。そして魔王は石を投げた。
「ありゃ…掠っちゃった…」
その石はランスシードラゴンの頭を横切った。
ランスシードラゴンは怒るわけでもなくただただ怖気づいていた。そして頭を下げ降参を示す。
「お?降参か?」
魔王はそう尋ねると一匹の竜は口を開いた。
『はい降参です…しかしこのような辺境の地になぜ魔王がいらっしゃるのですか?』
「なんというのだろうな…旅行?ってやつか?」
『旅行…ですか…ここ2000年間ここにいますが旅行という言葉を聞いたことがありません…人間や亜人たちが使うような言葉ではないのでしょうか?」
「我もしらんぞ?我が手下たちの言っていたことなどな」
なぜか自慢げにそう言い放つ魔王。
「そうだ…ここら辺に人の住む町はあるか?」
『ここにはエルフの里ぐらいしかありませんね…』
「そうか…我は人間がなにしてるか知りたくてな」
『ほう…ではエルフの里で聞いてみるというのはいかがかな?』
「ふむ…悪くはないが…我が行ったら大変なことになったりしそうで怖いのだが…」
『そこは多分大丈夫かと思います…多分』
「そ、そうかでは行ってみるよ」
魔王はドラゴンに手を振り湖を後にした。
森のさらに奥に行き、微かな精霊の魔力を頼りに奥へと進む。
「しかし…妙に静かだな」
辺りを見回すと奥に白く光る謎の祠がある。それに近づき手をかざすと青いローブに身を包んだ男が姿を現す。
『久しいな、魔王モレク』
「なんだここお前の土地か」
そう親し気に魔王が話している相手はポセイドンという名の知れた神だった。魔王はポセイドンに恩があり、海の知識を授けた者だからだ。
「あんたから知識を得てもう5000年か…」
『そうじゃな。てかお主転生って興味ある?』
「転生か…うむ…してみたいが我は今旅行?とやらをしているのだ」
『旅行とな…まあそんなことはよい主が良ければすぐさま転生させてやるがどうする?』
「うむむ…まぁ退屈な日々を送るより新たな生を歩む方が面白そうだな…」
『決まりじゃ。少し待っとれ』
そう言った数分後に目の前が白くなりやがて意識が薄れる。
そして真っ暗な視界に光が入る。
「目を覚ましたぞ!」
「よかった!本当に…」
(な、なんだこれは!?)
驚く魔王に反して周りの人々が涙を流している。
困惑と驚きが入り混り現状を理解できずにいると白衣を着た初老の男がこちらに寄って来る。
「なんと?!先程まで動いていなかった心臓と魔力が活動している!?」
「よかった!本当に」
男が自分の涙をぬぐう。
『転生が完了したみたいだな』
『ゼウス!?久しぶりだな!』
『久しいなって今はそんなことはいいんだ今、お前は人間の赤子に転生している。これから好きに人生を謳歌するがいいじゃあ儂は色々とやらなければならぬ故失礼するぞ』
ゼウスの声が聞こえなくなると同時に涙をぬぐっていた男が口を開く。
「わかるか?父さんだぞ!」
魔王は笑って見せた。すると男も笑顔になり少しだけ魔王の気分がよくなった。
(人間は美しいな…欠点もあるがそこを数と絆で補う…かかつて我に挑んだ者たちもこのような家庭があったのかもしれぬな…)
魔王は少しだけ罪悪感を感じ、己を少しだけ悔いた。
―6年後―
転生してから6年が経過した。この世界は魔王がいる世界と同じではないということがわかった。そして魔王の名はモレク=マンユからシン・タハホーラーに変わった。
「魔王城は今どうなっているのだ?我が急にいなくなっているのだから騒いでおるのは目に見えるが…部下たちが何をしでかすかわからんのぉ…そのうちそこらへんにある人間の村を破壊するかもしれぬな…」
「何をしゃべっているの?」
「こっ、これは母上…何もしゃべってなどおりませんよ」
「そう?」
不思議そうにシンを見つめる。
ドアがガチャリと開いた。ドアの向こうにはシンの父親がおり、真面目な顔をしてシンに歩み寄った。
「シン、稽古の時間だ」
「わかりました父上」
そう言うとシンは父親の後ろをついていく。
シンの父親は剣士であり剣士の最高級者でもある。剣士にはランク付けがされておりカッパー級の剣士からタンザナイト級の剣士まであるなお冒険者も同様である。タンザナイト級の剣士はこの世界では僅か10人程しかいないがそれでも十分すぎるほどの人数だ。そしてタンザナイト級の剣士は大きな国に1人は必ずいなければいけないのだ。
地下を通り奥に進む。
「ここが稽古場だ」
「なんと…」
そこはとても広く、昔見た古代の城というところがすっぽりと入ってしまうほどだった。
「まずは精霊の型だ手本を見せてあげよう」
剣を右手で持ち上に上げ右回転させもう一度上に戻り剣を振り下ろす。
「やってみろ」
「わかりました」
父親がやったことと同じことをすると剣を振り下ろした瞬間黒い靄が剣から溢れた。
「な、なんだこれは…?」
「おっと…まずいまずい」
出てくる靄を止めるシン。
「今のは…」
「あ、えぇっと…」
「すごいじゃないかシン!」
「へ?」
感動した父はシンの手を握り目を輝かせた。
「こんなの俺が教えてきた者達よりもすごかったぞ!」
「は、はぁ…」
父についていけず少し顔が引きつる。
こんなにも褒められ喜ばれるのは従者以外で初めてなため少し慣れない感じがする。
「シン、今日はこれで終わりでいいぞ」
「は、はい父上」
剣をしまうと父が手を胸の前にやり詠唱をする。
「――水の根源たる精霊の力…我に力を授けたまえ…水撃――」
胸の前にやった手から魔法陣が現れその中心からとてつもない勢いで水流が発生する。
(中位の魔法か…前世より威力が低いな…空気中にある魔力を使っていないのか?)
シンは頭を捻る。
本来魔法というのは魔力+詠唱がもとになっており父はそれをしっかり出来てはいる…だが、これに空気中にある魔力を足すことによって普通の魔法の約5倍の威力を出すことができる。
父の息遣いが荒くなる。
「こんなものか…魔法はやはり難しいな…」
「父上」
「どうした?」
「詠唱する際手の力を入れてみてくださいそれとこれを」
シンは父に黒い腕輪のようなものを渡す。
「腕に着けるのか?」
「そうですいい感じです。それで魔法を放ってみてください」
「あ、あぁ――水の根源たる精霊の力…我に力を授けた前…水撃」
先程よりも威力が跳ね上がり、壁にひびが入った。
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烏山一太




