第90話 Angel SOS(クジャク編)⑤
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アドリエルが召喚される1日前、8月の夏。場所は猫の国。クジャク16歳の物語。
なんということでしょう。
くれない色の真赤な血しぶきが、チヅルちゃんの首すじから吹き上がったッ!!
何ぃーーッ!!??
その光景は山火事の炎により、より鮮明に照らし出され、センセーショナルに脳裏に飛び込んで来ます。
余りにも突然過ぎる、その衝撃的な光景は、その場に居る全ての者を凍り付かせます。
クジャク:「チ・ヅ・ル・・・!!??
(僕の中からチヅルが消えて行く・・・??)」
【天使の加護】の力で、どうにか精神の安定を保っていたクジャクの顔が、みるみるうちに青ざめて行きます。
そうなんです。たった今、ずっとたゆまず繋がっていた、シンクロによる同期が途絶えました。
今迄ずっと感じていたものが感じられなくなってしまったのです。
今思えばチヅルちゃんが生まれたあの日から、クジャクとチヅルちゃん、二人のオッドアイの瞳は見つめ合い共鳴を始めました。
※注記:詳細は『第23話 クジャクの母③』をご参照ください。
そのパートナーであるチヅルちゃんがいなくなってしまったのです。
この14年間一度も経験したことがない大きな喪失感です。
いやクジャクにとっては耐え難い程の喪失感でしょう。
あるべきものが無くなってしまったのですから・・・
クジャクは自分の心が奈落の底へと崩れ落ちて行くのを感じますが、最愛の人を亡くした今のクジャクにそれを止める気力はどこにも残されていません。
クジャクの心は消滅してしまうのでしょうか?
あぁー クジャク・・・
その時です、クジャクが言う処の【欠けた心の欠片】、そうです人格を持たないクジャク達がクジャク本人を飲み込んで行きます。
えぇーッ!! 侵食されちゃうの?
なんということでしょう。クジャクは感情を失ってしまうのです。
そして【天使の加護】の最終リミテッドがここに発動されます。
そう優しいクジャクの心を守る為、最愛の人を亡くした悲しみに押し潰されないようにする為、【猫の国】を守り抜く為、クジャクは感情を隠蔽されてしまいました。
そんな中、チヅルちゃんはヨロヨロと倒れ込み、ピクリとも動かなくなります。
ザミエル:「やられたぁー!! まさか自決するとはよぉー 油断しちまったぜ。ちくしょぉー!!」
全く予期していなかったこととはゆえ、ザミエルでさえ悲痛な叫びを上げてしまいます。
あぁ~ どうして・・・どうしてこんな事になってしまったの??
チヅルちゃん??
どうしてなの!!??
そう・・・それはね、チヅルちゃんが独断専行してしまったから。
だって、チヅルちゃんにとってクジャクは・・・そうクジャクはね、自分の命よりも、ずっぅ~と・ずっぅ~と大切なかけがえのない存在だから。
※注記:詳細は『第80話 「ねえねえ兄上、チヅルのお願いを聞いてください」』をご参照ください。
だから失う訳にはいかなかったんだよね?
そうなんだよね?
チヅルちゃん?
そうなんです。チヅルちゃんは、いち早く悪魔(堕天使)の正体に気付くと伝説について思い巡らせます。
そう勇者と悪魔との数々の戦いの記録です。
そして、兄クジャクの強さの秘密が勇者(天使の加護を持つ者)であること、勇者と悪魔の戦いに必ず関係してくる天使がいまだ登場していないこと、などを手短に考察します。
そこから導き出された結論が自決な訳ですね。
それにしてもチヅルちゃん、少し早まり過ぎじゃありませんか?
どうしてそこまでする必要があったの?
ねぇー チヅルちゃん?
それは、いまだ勇者の前に天使が表れていないからです。
勇者だけでは悪魔に決して勝つことはできません。
どうしても天使の力添えが必要なのです。
とどのつまり、この戦いは霊者どおしのものということですね。
物質宇宙の住人にはどうすることもできません。
えぇーッ!? ということは、この度の戦いクジャクはどうあがいても勝てないの?
てっことはどうなちゃうの?
いずれにしろ、チヅルちゃんはクジャクが生きながらえる確率が少しでも高くなる選択をしました。
クジャク:「はっ!」
感情を失ってしまったクジャクが先手を取った!
クジャクの鋭い突きがレリエルに迫る。
レリエル:(何ッ! メチャクチャ速い。こんなに速いと、僕でも避けるだけで手一杯だよ。
困ったなぁ~ この物質の体では、もう歯が立たないかも。
霊体になったら後々面倒だし、ああ、どうしようかな?)
何とかかわすレリエル。完全に押されています。
う~ん、クジャクの覚醒、結構凄いかも?
では説明しよう!
今のクジャクは、もうクジャクであってクジャクではありません。
先にも述べたように、補い手であるチヅルちゃんを失ったクジャクは、失意のどん底でも戦い抜けるよう【天使の加護】のプログラムにより、最終形態へと覚醒しました。
そうなんです。なにがなんでも【猫の国】を死守するため盛り込まれた奥の手なんですよね。
この事によりクジャクは近接戦闘超特化型へと進化しました。
物質の体を持つ戦士では最強クラスの強さになります。
そして恐ろしいことに今のクジャクにはもう感情がありません。
悲しみも、苦しみも、怒りも、もう持っていません。
なんと驚くことにチヅルちゃんを失った喪失感さえ無いのです。
それもこれも全て【猫の国】を守ることを最優先にするためです。
以上。説明終わり!
クジャク:(・・・)
無表情でレリエルを追い詰めるクジャク。
その時、ザミエルの剣先がクジャクの死角を突いた。
ザミエル:「はぁー よけただと!!」
クジャクの検知魔法は360度全方向性でmm単位で動作しています。
アサルトライフルの集中砲火でさえ、当てるのは至難の業でしょう。
まあ、当てたとしても、シールド魔法で防御されますけどね。
そうなんです。ですから、音速を超えるザミエルの剣さばきでさえかすりもしません。
だがしかぁーーしッ!!
堕天使を同時に二人も相手にするのです。
状況は決して良いとは到底言えません。
はい、モチのロンで、猫武者の加勢だぁー!!
猫武者達が怒涛の如く流れ込んで来たぁー!!
『うっおーーッ!!』と雄叫びを上げ・・・突進だぁーー!! ゴーゴー♪
位置的に猫武者達と一番近いのは人間の兵士達ですね。
倒れているチヅルちゃんを囲むように展開しています。
イアン:「はい・はい・はい・はい!! 降参します!! 降参します!!
捕虜の人権とか配慮してくれるのかな・・・?
あぁ~ こんなはずじゃなかったのに・・・死にたくない、死にたくない・・・死にたくないよぉ~
俺はまだこれっぽっちもいい思いをていないんだぞ!」
はい・はい、死にたくないと言われましても、圧倒的な戦力差です。
2+6 対 1+約200 ですからね。
ですから、人間の兵士達はアサルトライフルを一斉に地面へと投げ捨てると、両手を上げて降伏します。
まぁ~ 懸命と言えば懸命な判断ですけど。
そういう条約が交わされていれば、ということになります。
はい、モチのロンで交わされていませぇ~ん。トホホォ~イ♪
だぁ~かぁ~らぁ~ 怒り狂った猫武者が切り掛かってきた!
イアン:「えっ、えぇーーッ!! 噓・噓・噓・噓・うそぉーー!! うげぇ・・・」
この青年兵、イアンといいますけど。
彼の人生はこれでお終いです。
ほんと、こんなはずじゃなかったんですよね。
出世していい暮らしがしたかったんですよね。
でもそれは猫ちゃん達を犠牲にしてまでも掴みたかった幸せです。
やってはいけない事です。
だから因果応報ということで、さようならぁー
いみじくも堕天使が突撃命令を下してから、まだ5分も経過していません。
イアンの予感は的中しましたね。
そして猫武者はというと、人間の兵士を殲滅すると、クジャクのもとへとなだれ込んで行きます。
マサムネ:「若ッ!!」
クジャクのピンチに猫武者の参戦だぁー!!
その時、天から光の矢のようなものが地を打ちます。
何ぃーーッ!!
ザミエル:(空からの攻撃だと)
レリエル:(ロンギヌスの槍、天使か?)
光の矢の爆風は凄まじく、堕天使達を弾き飛ばします。
そして次の瞬間、堕天使達の目の前に立ちはだかるのは?
天使だぁー!!
遅くなり申し訳ございません。続きも出来上がり次第アップしますね。そして次回で第二章は完結です。今後の予定については次回お伝えしたいと思います。