第79話 フジ川の合戦⑩
来てくれてありがとぉ~♪
ゆっくりしていってね♪
時はアドリエルが召喚される7日前の夏。場所は猫の国。クジャク16歳の物語。
ただ呆然と自分達が居たであろう場所を見詰める二人。
でもいつまでもそうしてるわけにもいきません。
クジャクは号令用のラッパを手に取ると、チヅルちゃんのお手てを取り促します。
クジャク:「このままここに居てはダメだ!
森へと避難しよう。
付いて来て!」
そうだそうだ♪
避難しなくちゃね♪
今、クジャク達が居るのは大河であるフジ川の下流に広がる草原です。
森の端までとなると?
まあ10kmは離れているかな。
身体強化魔法を使っても一時間以上は掛かるんじゃないかなぁ~?
まぁ~とにもかくにも今はさ、走るしかないよね?
GOGO♪
『ブーーン!!』
退却を知らせるラッパを天高く鳴り響かせるクジャク。
でもチヅルちゃんしか聞いてくれる者はいません。
それでもクジャクは、ぐっと悲しみを飲み込み、退却のラッパを鳴り響かせます。
さぁ~走るんだ二人共!
そうして、クジャク達が走り出して数分が経った頃。
【猫の国】の本陣があったであろう地点に通り掛ります。
まあ・・・おそらく・・・ですけどね・・・?
そこは、きっと何度も爆撃を受けたからでしょう。
地面はえぐれ窪地となっていました。
クジャク:「あれは・・・?」
ふと目を窪地に向けてみると何かが転がっていますよ?
あれて何だろぉ~?
クジャクはすぐさま駆け寄り手に取ってみます。
クジャク:「この兜・・・?」
そう、クジャクが見つけたのは父ケンビシの鉄兜だったものです。
今は大きく破損し、もう見る影もありませんが、それは確かにケンビシの鉄兜でした。
衝撃的な事実がクジャクとチヅルちゃんを飲み込みます。
そして二人はこの時、父がもうこの世に居ないことを悟るのでした。
クジャク:「そんな・・・父上が・・・」
チヅル:「うっ・・・うぅーー」
偉大でおおらかな父の突然の死に衝撃を受ける二人。
もうただただ涙を流し泣くことしかできません。
だって、そうですよね?
余りにも突然過ぎる父の死をどうして受け入れることなどできるでしょうか?
クジャク:「行こう・・・!」
父の死に打ちのめされているチヅルちゃんのお手てを取り、再び走り出すクジャク。
生き残るため足を止めるわけにはいかないのです。
クジャクが目を空に向ければ立て続けに飛来してくる戦闘機が見えます。
そして周囲からは爆発音がこだましてきます。
二人に、恐怖が、死が、隣り合わせで迫って来るのです。
『ブーーン!!』
クジャクは再び退却を促すラッパを鳴り響かせます。
森を目指し一心不乱に駆ける為、チヅルちゃんと共に生き抜く為、天高くラッパを鳴り響かせるのです。
あぁ~戦地てどうしてこうも残酷なんでしょうね?
※※※
激しい爆発音の中、どれぐらいの時間が過ぎたのでしょうか?
実はまだ走り出してから10分も経っていません。
と言うのも、戦場に広がる殺戮の炎が二人を虜にし、永遠とも思える時の中に閉じ込めてしまったからです。
そんな中でも、必死に生き抜こうとするクジャクとチヅルちゃん。
生存者を見つけては回復させながらの退却です。
気を緩める暇など一瞬たりともありません。
チヅル:「さぁ~もう大丈夫ですよ。少し足を前後に動かせてみてください」
クジャク:「危ない!!」
クジャクはチヅルちゃんを抱き抱え地面に伏せます。
『ドッカン!!』
チヅル:「キャァーーッ!!」
クジャク達のわりかし近くで爆弾が破裂したのです。
凄まじい爆風が押し寄せて来ます。
間一髪のところでクジャクがシールド魔法で防御してくれました。
でも、チヅルちゃんが治療していた猫武者が見当たりません。
吹き飛ばされてしまったようです。
チヅル:「あぁーー・・・」
戦場の残酷さに打ちのめされるチヅルちゃん。
クジャクもやるせなさに身を震わせます。
クジャク:「チヅル・・・行こう・・・?
もう行かなくちゃ・・・ね・・・?」
クジャクは泣きじゃくるチヅルちゃんのお手てを取り再び走り出します。
今は死線をくぐれるかどうかの瀬戸際です。
とにかく逃げなくちゃ!
※※※
この日、【人の国】は、延べ54機にものぼるファイター05マスタングを投入し【猫の国】の本陣を攻撃しました。
この攻撃により【猫の国】の本陣は壊滅。
一万五千もいた猫武者もほぼ全滅となりました。
実に【猫の国】に居る猫武者の半数近くが、このたった一戦だけで失われてしまったのです。
余りにも・・・そう・・・余りにも甚大な被害です。
又、その悲劇の中には【猫の国】の君主であるケンビシの討死も含まれています。
でも、ほんのわずかとはいえ生還者もいます。
百人にも満たない91人のみですが、その中にはクジャクとチヅルちゃんも含まれています。
それにしても帰還率が0.6%です。
【猫の国】始まって以来の大敗北です。
というより、【惑星メルクリウス】において最大の殺戮劇となってしまいました。
この悲報はすぐさま【猫の国】と、その友好国である【牛の国】にへと伝えられます。
そして皆が恐怖しおののくのです。
恐ろしい事が起きてしまったと。
この結果、危機管理能力が本能的に高い獣人である猫種は、一斉に疎開することとなります。
海岸線沿いに広がる肥沃な大地を後にし、皆森へと逃れたのです。
でもそれも、もっともなことでしょう。
【人の国】が誇る戦闘機はどこからともなく飛来し、全てのものを瞬く間に破壊してしまうのですから、恐れを抱くのも無理もないことです。
※注記:『第11話 Angel SOS(義彦編)④』をご参照ください。
もうクジャク達は戦火から逃れることはできないのでしょうか?
最近PCの調子が悪く最悪です。バックアップ取っておこうと・・・いやマジで・・・はい。