第73話 フジ川の合戦④
来てくれてありがとぉ~♪
ゆっくりしていってね♪
時はアドリエルが召喚される9日前の夏。場所は猫の国。クジャク16歳の物語。
『【オダの都】が落ちた!!』
【猫の国】最大の軍事拠点の陥落。その知らせは【人間の国】が進軍してきたことを知らしめるものとなりました。と言うのも、これまで【猫の国】は大きな戦争も無く一様長閑で平和な国でした。国家転覆の危機など一度たりとも経験したことがありません。
では説明しよう!
本当に【猫の国】は我々人類からは考えられない程、平和だったということを。
この物語の舞台となっている【惑星メルクリウス】に生活している獣人達は基本的に略奪するといった自己中心的な概念を持ち合わせていません。
もっと踏み込んで説明すると、獣人達は天使に創造された際、自らが持つ野生本能的な部分での自己抑制が強く設定されており皆が善良で戦いを好みません。
ちなみに【猫の国】と【狐の国】の抗争は以上の理由とは全くの別件です。と言うのも抗争の理由が自分達の信仰の象徴である、天使がいるとされている【神殿】を巡っての争いだからです。間違っても町や村を焼き払うなどの暴挙に出ることは決してありますん。
以上。説明終わり!
うぅ~ん、そう考えると、この突然の事変に猫ちゃん達が驚愕するのもうなずけます。うなずいちゃいます。だってぇ~クジャク達もド・ビックリでしたよねぇ~。
あっそう言えば!?
我らが主人公の(第2章の)クジャクてどうなったの?
はい♪クジャクは、この知らせを聞くやいなや悲報を携えて来た家臣に報告を促します。今は一刻を争う緊急事態です。よって状況の把握に努めます。
『はっ!報告します。
昨日の昼頃、【オダの都】のムサシ様、【人間の国】と交戦。
敵に遠距離攻撃を受けあえなくも敗れ。ムサシ様、討死されました。
【オダの都】にも火が放たれ・・・もう廃墟だと・・・無念です』
クジャク:「あのムサシ様が・・・そんな・・・」
【猫の国】一の剣豪であり武将であるムサシの討死。
それはあってはならないことでした。
最強の猫武者と最強の要塞。
【猫の国】の防衛の要である【オダの都】のあまりにもあっけない敗北に、もう声も出ません。
クジャクの隣にいるチヅルちゃんも、戦争の悲報に身を震わせ、悲痛のあまりクジャクの胸に身を委ねます。
チヅル:「あぁー・・・兄上・・・」
クジャク:「大丈夫だよ・・・うん、大丈夫だから・・・」
そしてクジャクもまた、そんなチヅルちゃんを抱き締めてあげることしかできません。
何処までも青く突き抜けるような夏の青空の下、二人の幸せな日々が踏みにじられた瞬間です。
※※※
伝令を聞いたクジャクは、チヅルちゃんを残しお城の大広間へと急ぎます。
そしてクジャクが大広間に到着すると、もう既にそこには対策本部が設置され、情報の精査が行われていました。
『うぅ~ん、分からん!?【オダの都】の魔法シールドをどのような手段で破壊したのか?まったく分からん!?狐の戦略魔法の攻撃にも十二分に耐えうる強度なんだぞ!?なぜ人間ごときに破壊できたんだ!?』
『強力な兵器を使ったのではないかとの情報がありますぞ。なんでも雷のような大きな爆音が2度鳴り響いたとか・・・?これは無視できない情報ですぞ。きっとなにかしらの因果関係があるはずじゃ』
『【ミシマ村】から脱出して来た者達の証言によると、人間は強力な飛道具を持っているようじゃのう。殺傷性が極めて高く弓より射程距離が長いようじゃ。他にもワシらが知らぬ飛道具を持っているのではないのか?』
『にしてもだ!魔法シールドを破壊できる程の飛道具とはいったい・・・!!??あぁ~分からん!?』
『人間の兵士が突然海から現れたとの情報もあります。分からない事だらけですよ』
『分かっていることと言えば、人間の軍隊が【ミシマ村】を拠点とし、【オダの都】を攻略したぐらいじゃのう』
『軍隊の規模はそれほど大きくないようですね。数百人規模との情報もあります・・・しかし、まだまだ未知数と考えたほうがよいでしょうな?』
『現在、【ミシマ村】をはじめ東沿岸部の村々から難民が続々と【イズの都】へと避難しています』
『その難民なのですが数万人規模に膨れ上がりそうです。困ったものですな』
それにしても、大変な事になりましたね。やはり【人間の国】が使用した近代兵器は猫種の想像を絶するものだと言うことですね。この戦争、【猫の国】にとって厳しい戦いになりそうです。
※注記:『第11話 Angel SOS(義彦編)④』をご参照ください。
そんな不穏な空気の中、クジャクは家臣達の間をすり抜け、急ぎ【猫の国】の君主である父の下へと駆け付けるのでした。
ケンビシ:「おぉー来たか」
クジャク:「【人の国】が動いたのですか?」
ケンビシ:「どうもそのようじゃな。
そして、この度の戦いでムサシがいってしもぉ~た・・・はぁーー」
スーと一滴の涙がケンビシのほほを流れ落ちます。
はい、親友を亡くしてしまった悲しみの表われです。
そうなんです。ムサシは、ケンビシ達と一緒に【猫の国】をより良い国へと立て直す為、共に頑張って来たかけがえのない仲間です。そのムサシとの永久の別れです。当然、辛いものがあります。
クジャク:「父上・・・!お気をしっかりお持ちください・・・!」
ケンビシ:「うむ・・・!分かっておる。分かっておるとも・・・!
ここでワシがグジグジしてはおれん・・・!
皆に示しがつかんからのう・・・!
ただ・・・な・・・ふぅーー・・・。
ときにクジャクよ?」
ケンビシは思いを整えるとクジャクに語り掛けます。
クジャク:「はい」
ケンビシ:「お前は跡取りじゃ!皆に示しをつける為、働いてもらうぞ!よいな!」
クジャク:「はい!」
ケンビシ:「うむ、良い返事じゃ!何、無理はさせん心配するな!おぬしは大切な跡取りじゃからな!
ところでのうクジャク、ワシは若かりし頃、人間と剣を交えた事があってな。少し気掛かりな事があるのじゃよ」
クジャク:「と申されますと?」
ケンビシ:「うむ、あれはワシが武者修行で各地を旅していたころじゃ。
その時ワシは【人間の国】でザミエルというとても背の高い人間の男に会った。
今思い出しても感じの悪い奴でのう・・・いや!危ない奴と言った方がよいかもしれん・・・うぅ~ん、とにかく危険な男じゃ」
あぁ~やっぱりケンビシはザミエルと一度会っていたんですね。
でもザミエルのことを人間の男と言っているところをみると、どうもケンビシはザミエルが堕天使だって知らないようですね?
うぅ~ん、もう少し二人の会話を見てみましょうか。
どれどれ・・・。
クジャク:「それは剣の達人だからですか?
それとも他に何か理由があるのですか?」
ケンビシ:「両方じゃな。剣の腕も相当立つのじゃが、強いて言うならばあの目じゃな・・・!」
クジャク:「目でございますか?」
ケンビシ:「そうじゃ!目じゃ!目が赤いのじゃ!伝説の悪魔のようにな!」
クジャク:「それはまた不気味な男ですね。伝説の悪魔ですか・・・!?」
クジャクは思い出すのです。チヅルちゃんが小さかった頃、悪魔の伝承に怯え、巫女になることを嫌がったことを。
※注記:『第33話 悪魔の伝承②』をご参照ください。
クジャクの中に存在する【天使の加護】が作りだした、マルチタスクを構成する無意識なクジャク達の思考が活発に活動し始めます。
そしてクジャクが持つ【天使の加護】のプログラムが戦闘態勢へとシフトアップするのです。
堕天使の侵略から【猫の国】を守れと、クジャクをしきりに促し始めます。
クジャク自身にはまったく自覚はありませんが、【天使の加護】はこの有事に対して、その活動を開始したのです。
※注記:『第35話 悪魔の伝承④』をご参照ください。
さぁークジャク、【猫の国】を守る為、その力を遺憾なく発揮してくれ。
まずはとりあえず、父との会話の続きから見てみることにしましょう。
どれどれ・・・。
ケンビシ:「あぁー不気味な男じゃ・・・!
正直、底が知れない何かがある・・・!
そうじゃのう例えば、剣を交えた際、完全に見切られていた・・・!
人間にじゃぞ!?
今思い出しても訳が分からん・・・!」
クジャク:「父上の太刀筋を見切ったと・・・??
しかも人間が・・・??
確かに何者なのでしょうね、そのザミエルとかいう人間は・・・??」
※注記:クジャクは別に人間のことを馬鹿にしているわけではありません。人間と獣人の運動能力はそれほど違うという意味です。堕天使と人間の混血児であるネフィリムでさえ獣人が持つ運動能力にはかないません。『Angel SOS』の設定上人間は一番天使寄りに創造されているので、学問や芸術といった崇光な目的に特化した種族となっています。
ケンビシ:「うぅ~ん、おそらく今後とても大切なことになってくるじゃろう?
のぉ~クジャクよ、おぬしにだけは話しておこうかのぉ~?
よいか?
見切られたと言ってもな・・・完全に見切られたのじゃよ。
そう完膚なきまでにな・・・!
あれはのう伝説の悪魔なのかもしれんぞ・・・!?」
クジャク:「悪魔ですか?
悪の化身にて災厄の元凶たる存在。
そして、この度の【人間の国】の進軍ですか。
確かに不可解ではありますが、きっと父上が考えておられるとおり何かしらの関係があるのでしょうね?
きっと!?」
ケンビシ:「これを見てみい。今朝方、【人間の国】の奴らから届いたものじゃ」
ケンビシはそう言うと書簡をクジャクに手渡します。
それは堕天使達が【猫の国】へ全面降伏を要求するものだった。
クジャク:「うぅ~ん、何々・・・。
これは酷い!僕達の事を何だと思っているんでしょうか!?
これって要は僕達が自由に楽しく生活する権利を放棄しなさいてことですよね?」
ケンビシ:「ほうそうなのか?
もっと分かりやすく言ってくれぬか?」
実は、ケンビシ達には書面に書かれていることを勿論読むことはできるのですが、内容については難し過ぎて半分も理解できていませんでした。
これには獣人達が人間のような自己中心的な考え方をしないといった理由があげられます。
一方のクジャクは、【天使の加護】の力により書面を正しく精査することができます。
クジャク:「はい、これは要求事項ですね。
一つ、もう好きな所に住めませんよ。良い場所に住んでいる方は移動してもらいます。
二つ、もう好きな物を食べられませんよ。人間の為、食料を納めてもらいます。
三つ、もう好きな着物を着れませんよ。贅沢は一切禁止です。慎ましく生活してください。
四つ、もう好きな所へ行けませんよ。あてがわれた場所からの移動を禁止します。
五つ、もう好きな子と結婚できませんよ。女の子は皆没収です。
て事が書かれています」
ケンビシ:「なんじゃそれはぁー!!ふざけるのも大概にせい!!」
クジャク:「全くもってそのとおりですよ父上!
こういった輩の言うことを聞いてはなりません!
断固戦いましょう!」
キャー♪クジャク最高ーー!!カッコイイ♪
クジャクは全く迷うことなく徹底抗戦を進言します。
【猫の国】のため、しいては正義のため、戦ちゃいますよぉ~♪
エイエイオー!
やっぱり主人公てこうありたいですよね?ねぇ?ねぇ~!?
ケンビシ:「うむ!流石はワシの息子じゃ!わはははは!
この度の戦、敵を徹底的に滅ぼし尽くすぞ!
北の地にある【人間の国】まで行く事となろう!」
出来る男ケンビシの決断は素早く的確だった!
なぜならば、悪の化身である堕天使を容認することなどどうしてできようか?
悪を決して許してはならないのだ。根絶あるのみ!
さぁーケンビシ、ガツンといちゃいましょう!ガツンと!
そうするとケンビシはおもむろに立ち上がると、大広間にいる家臣達に宣言します!はい!宣言しちゃいます!
ケンビシ:「聞いてくれ!!
友が倒された!!
民が生活の場を追われた!!
何故だッ!!??
人間どもの仕業だッ!!
よって人間どもを血祭りに上げる!!
皆の者、戦の支度せい!!」
『おぉーーッ!!』という歓声が大広間に鳴り響き渡ります。
皆の士気が一気に爆上がりだぁーー!!
皆の目に闘志の炎がメラメラと燃え上ります。燃え上がちゃいます。
そう、猫の為に闘う。それこそが猫武者の務めなのですから。今や大広間は大いなる熱狂に包まれるのでした。ファイヤー!!
大切なお知らせがあります。
連載を一時お休み致します。
再開は2023年2月1日を予定しております。
どうぞよろしくお願い致します。
追記
ちょっと愚痴らせてください。お耳汚しになりますがお付き合い頂ければ幸いです。
『Angel SOS』の連載をしてみて、正直私の見解が甘いのでしょうけど、ここまで評価を頂けないなんて思ってもいませんでした。これが現実てやつなんでしょうかね?
正直精神的なダメージが半端ないです。結構いじけています。
それりゃアマチュアの道楽で書いた小説ですからね、完成度は低いでしょう。でもねここまで誰も評価してくれないものなのでしょうか?
そう考えるとブックマークを登録してくださったお二人様には本当に感謝しております。この場をお借りしまして感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
駄文失礼致しました。皆様よいお年を。ではさようなら。