サークルの可愛い後輩からプロポーズされました。下着姿で
「先輩。私たち、結婚とかしてみません?」
「…………」
たっぷり10秒は経ってから――、
「は……?」
そんな間抜けな声が自分の口から漏れた。
それはそうだろう。いきなりサークルの後輩から結婚しませんか、と言われたのだ。
まともに頭を働かせられる方がおかしいだろう。
ちょっと落ち着くためにも今の状況を整理させて欲しい。
まず、僕の目の前には文芸サークルの後輩である小鳥遊芽衣がいた。
ちなみに小鳥遊は高校の時からの後輩である。
二人だけで文芸部の活動をしていたのは楽しかったし、当時は(今もだけど……)陰キャぼっちだった僕にとって、ちょっと小馬鹿にしながらも話しかけてくれる小鳥遊の存在はありがたかった。
だから、卒業後に小鳥遊と疎遠になった時は少し寂しかった。
「文芸部の活動はどうだ?」などと何度か連絡を試みたのだが「ちょっと今は勉強で忙しいから今度にしてください」という小鳥遊らしからぬ雰囲気で連絡が返ってくることが多くなったのだ。
彼氏でも出来たのかもしれないなと、それなら男の僕が連絡を取るのはあまり良くないかもしれないと、僕は少しばかりの哀愁を胸に抱き、次第に連絡を取る頻度自体も減っていった。
だから、驚いた。
僕がそこそこの難関であるH大学に進学し、まもなく一年を迎えようとしていた頃。
『せんぱーい。私もH大、受かりましたー』
そんなユルさ全開のメッセージが通知画面に表示され、僕のスマホが鳴ったのだ。
そうして、H大のキャンパスで再会を果たした時。
小鳥遊は悪戯っぽい笑みを浮かべて一枚の紙を差し出してきた。
それはどこで調べたのか……。
僕が所属しているサークルへの加入を希望する申請書だった。
「なんッスか先輩。その呆けた顔は」
目の前で囁かれた小鳥遊の言葉で、僕は現実へと引き戻される。
「私とじゃ、結婚するのイヤ、ですか?」
小鳥遊は目を潤ませて上目遣いに問いかけてくる。
やめてくれ。それは反則だ。
「えっと、そうじゃなくて……」
「ほう? イヤじゃないとな?」
「ち、ちょっと待て! とにかく、待てったら待て……!」
「私、犬じゃないんですが……」
僕が手で制すると小鳥遊はむくれ面になりながらも大人しくパイプ椅子に腰掛ける。
僕は一つ溜息をついて、先ほど小鳥遊から放たれた言葉の意味を考えていた。
――いや、どう考えてもプロポーズじゃねえか!?
最初は、大学で仲良くなった子同士の罰ゲームか何かだと思った。
しかし、それは絶対に有り得ない
「ほ、ほらほら、せんぱーい。こっち見てくださいよぅ」
「……」
小鳥遊は……、僕の後輩は、こともあろうか下着姿だったのだ!
これが罰ゲームであるはずがない。
罰ゲームごときで下着姿を晒す女子がどこにいる?
小鳥遊はツインテールに結んだ髪の端をくるくると触って余裕な感じだが、僕はそれどころじゃない。
――けっこう胸、あるんだな。……って、そうじゃない!
僕は煩悩を追い払うかのように、頭をやたらめったら振り回す。
「お前、いいから服着てくれ」
「えー? もっと見ておかなくていいんッスかぁ? 女の子の下着姿なんて、先輩じゃこれから見る機会無いかもしれないッスよぉ? ほら、このリボンとか、可愛くないッスか?」
僕はからかってくる後輩に自分の着ていた上着を掴んで投げる。
「ぶーぶー。もっと優しく扱ってくれないと、私泣いちゃいます」
そんなことを言う小鳥遊には取り合わず、僕はまたも大きく息をついた。
「あのなぁ、小鳥遊。何でお前そんな格好で迫ってきたんだよ。そ、それにけ、け……結婚とか……」
「えー? だって先輩、こうでもしなきゃ分かってくれないじゃないッスかぁ」
「……分かってくれないって。何を……?」
「私が本気だってことをッス」
「……は?」
また呆けた声が出た。
「良いッスか、先輩。私はこれまでに何度もアタックしてるんッス。ニブチンの先輩は今までなーんにも気付いちゃいなかったようですけど……」
「……」
「そもそも、私があんなに勉強してたのも先輩をちゃんと捕まえるためなんですよ? 先輩、私が同じサークルに入ったことの意味、分かってます? 分かってませんよね? だから、最終手段に出たわけッス」
ち、ちょっと待て……。
小鳥遊の言うことに頭が追いついてくれない。
じゃあ何か?
勉強で忙しかったのも、僕のいるH大に受かるためだったと……?
それに、さっきのその……、プロポーズも、本気だってことか?
まだ付き合ってすらいないのに……?
いや、まだっていうのもおかしいか?
僕と小鳥遊はそういう関係じゃ……。って、どういう関係だ?
ああもう、わけが分からん。
「まったく……。私だって、恥ずかしいんッスよ。でも、ニブチンの先輩はどうせ押しに弱いでしょうから、こうするしかないと思って――」
小鳥遊が何か言っているが、僕にその言葉の意味を考える余裕は無かった。
僕の頭がよく分からない思考を処理しようとフル回転する中、小鳥遊は溜息をつきながら告げる。
「もう、仕方ないッスねぇ。今日はこれで勘弁してあげるッス」
「な、何でお前、近づいて……」
「今度はもう、逃さないッスよ。先輩♪」
「ち、ちょっと待――」
そうして、僕は小鳥遊にその言葉の続きを封じられたのだった。
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