煙ありきの町
その町は霧のように煙が立ち込めていた。
私が咳込んでいるとぼーっとしていた中年の門番が心配そうにのぞき込んできた。
「大丈夫かい?」
「ゴホッ・・・大丈夫です。随分煙の濃い町ですね」
「この町は工業で成り立っている町だからなぁ」と門番は町のあちこちから飛び出しているパイプやむき出しの歯車を指さして言った。
「この煙、換気は出来ないんですか?」
「ここの煙は空気よりも重い上に壁が町全体を囲んでいるから中々外には出て行かないんだよ。とはいえここに住んでる奴らはそんなこと気にしちゃいなさそうだがなぁ。まぁ『住めば都』っちゅうかその内慣れるよ」
門番はにかっと笑うと私の背中をさすってくれた。
布を口元に巻き、簡易マスクのようにすると私は町を歩きだした。こうすると咳も多少楽にはなった。
呼吸こそしづらい町だが人々は皆、とろけるような笑顔で多幸感に満ちているようだった。たまにふらふらと歩く奴に方はぶつけられるが不快感もそれほど湧き起らなかった。
煙の不快感もいつの間にかなくなり、心地くなっていた。裏路地で野垂れ死んでいる廃人の山なんて気にも留めない程。
煙が隠してくれているおかげでここの住民も目をそらせるのだろう。
そんな気味の悪さと嫌悪感もいつしかどうでもよくなり「この町を出てもいつかまた戻って来たいな」と不覚にもそう思わせられる町だった。
私も既にこの町に依存しているのかもしれない。