第四話 巡礼の聖女 巡礼者が少なく驚く
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快適とまでは言えないが、時に病み、時に傷ついた人を癒すための施療院がある王国は、御神子教徒の国で良かったと思わざるを得ない。ファンブルは原神子信徒が多い街であり、大聖堂も原神子派になりそうであるとも聞く。そうすると、大司教は廃され、ただの教会となるのだろうか。
「ファンブルの孤児院って大聖堂が無くなったらどうなるんだろう」
『そりゃ、市議会の管轄になるんだろ? 最近は学校とか増えてるから、同じような感じにするんだろうぜ』
ジルバの言う事も一理あるのだが、一般家庭の子供と孤児が机を並べて勉強するとは思えない。身につけているもの、勉強道具、様々なことが異なる。おそらくは、学校教育同等のことを孤児院の中で教えるようになるのかもしれない。誰が教えるのだろうか?
「とにもかくにも、必要なのはお金ね」
『世知辛ぇが、その通りだ』
『おかねだいじに!!』
人魚にも学校があるのだろうかと、クリスは疑問に思ったが、クラーラの雰囲気からして……ないような気がする。自分が人魚の教師なら、「人間の船に近づいてはいけません!!」と真っ先に教えるだろう。
病人や怪我人の着替えや食事を手伝い、時には話し相手となる。洗濯や清掃も行う。流石に、料理は専属の修道士がおこなうのだが、雑用は山のようにあるのだ。
美少女二人の修道女見習がいるお陰で、随分と施療院の雰囲気は明るくなった。とは言え、クラーラは一言もしゃべらず、笑顔と会釈だけで対応している。
「大変だねぇ。シスター・クラーラは無言行なんだってねぇ」
「はい。厳しいですが、それだけ真剣に願掛しているようですわね」
ファンブルから来た二人の巡礼修道女ということで、セットでみられるクリスは、クラーラについて色々聞かれたりする。姉妹設定なら個人的な「姉」の事情を根掘り葉掘り聞かれそうなのだが、あくまでも同僚ということなので、あまり深く聞かれる事もない。聞かれたとしても、所詮同僚なので「知らない」「聞いてない」でつっぱねることができるので問題ない。
「神国は前の戦争の影響もあって、悪い感情を持っているものもまだいるようだから、気を付けるんだよ」
「はい。ですが、神様がお守りくださるはずですので、大丈夫ですわ」
必ずしも巡礼中の者ばかりでなく、この地に住む地元民も入院していることもある。そうした者からは、神国に向かうクリス達を心配する声が聞こえてくる。
曰く、国境沿いの街には武装した兵士だけでなく、銃で武装した山賊も潜んでいて、王国から来る旅人を襲う。
曰く、神国から独立することを目指す先住民の子孫がおり、西の大山脈周辺で武装して半ば独立した『村』を建設している。
曰く、狼の群れを率いた少女の姿をした魔物が神国にはいるという。
曰く、巡礼街道のそばのとある山には、ドレイクと呼ばれる火竜の巣があり、近隣に現れては牛や羊を襲い連れ去るという。
まとめるなら、神国は危険が一杯という噂だ。
「大丈夫ですよ。それに、先々で巡礼者の方達のお仲間になって行きますから」
「……無理よ」
「へ?」
とある老婆がクリスに反論する。
「チビ将軍の戦争からこっち、巡礼街道を通過する巡礼者は年間二百人ほどしかいないってさ」
「年間……二百人……」
「そう。勿論、記録に残らない巡礼者もいるだろうから、実際はもう少しいるんだろうけれど、今はそんなもの。聖征の時代とは違うのさ」
その昔、王国から神国に向かう巡礼者は、毎年五千とも一万とも言われた。減ったとはいえ千人くらいいると考えていたのだが、国境を越えて神国迄巡礼する者は日に数人というところなのだろう。
今ここに居る巡礼者も、トロザが目的地か、ルードに向かうものがせいぜいであり、西の大山脈を越え聖地迄向かう者はほとんどいないということだろう。誤算といえば誤算だが、だからといって向かわないわけにはいかない。
現実の世界で、満たされるものが多くなる科学万能の現代において、わざわざ千キロの彼方まで巡礼する者は大いに減っているのだろう。
『神様に願わない者が増えているとすればよ、お前たちの声が通じやすくなっていると思えば悪くねぇだろ』
「それもそうね。ここまで来たら、先に進むだけよ」
『がんばろー おー!!』
シュワルツは先行して街道沿いの安全確認を行って貰っており、ヴァイスは宿の部屋でお昼寝中である。明るいところは苦手なのだ。
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巡礼宿に戻ってきたシュワルツの話を聞き、クリスとクラーラは少々深刻な表情となった。
「それは本当なの?」
『はい。間違いないかと思われます』
今回、クリス達が同行する巡礼馬車はルード城塞にある刑務所への移送馬車に追従して向かう事になっているのだという。これは、移送馬車には武装した憲兵が複数就く事から、無料の護衛を得ることになるのと同じであるから理解できる。
それが、十人も付くというのでシュワルツは少々詳しく探ったのだという。普通はニ三人がいいところだ。駅馬車は憲兵が一人しかつかないことを考えれば、かなり厳重であると言えるだろう。
『移送する対象に、武装勢力の幹部がいるそうです』
『なんですとぉ!!……武装勢力って?』
勢いで驚いたクラーラだが、元人魚のボキャブラでは少々難しかったようだ。シュワルツが詳しく説明する。
『神国と王国の間に西の大山脈があるわけですが、この大山脈の両側には先住民であるビスケ人が住んでいます。ビスケ人は神国内において半独立の地域として長く認められておりました』
ビスケ人は『ナバロン王国』という国を築き、神国内の諸王国と婚姻を結びながら独自の存在として永らえてきた。とはいえ、盟主であるカステラ王国の系統が神国国王となり周囲を従えた時に、臣従したのだがそれでも政府や議会・徴税権や自衛権などは独立して有していた。
ところが、神国の近代化を進めるに当たり、『大陸戦争』の後、神国中央政府は今まで有していた『地方特権』とでもいうべきものを奪う事になった。それぞれが財布を有していては、国策としての産業政策が難しいということがひとつだが、ビスケ人の住む『ビスケ州』『ナバロン州』の持つ経済的資本を必要としていたという面もある。
外海の貿易港としてビスケ州にはいくつかの大都市が存在し、造船・鉄鋼・武器の生産などで神国の中心となっていたということもある。神国は連合王国との貿易に利を見出しており、自国内の遅れた工業を取捨選択し、自由な貿易の利を得ようと考えているようである。
「それを勝手に取り上げられたらたまらないわね」
『はい。地方の産業はダメージを受けますし、資本も収奪されてしまいます。そしてなにより……』
ビスケ人は神国と王国の間で『密貿易』等を行い、関税の差額でそれなりに利益を得ていたのだという。その利益を潰された『組織』が表立って活動し始めたのが『武装勢力』なのだ。
『トロザに商談で訪れた際に捕まった幹部の奪還を目論んでいるようです』
武装勢力に襲われる危険性があるから、護衛を増やしているということだと理解し、クリスはどうするか迷い始めていた。
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