第三話 巡礼の聖女 『トロザ』の大聖堂に向かう
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第三話 巡礼の聖女 『トロザ』の大聖堂に向かう
ルード村への『泉の女神』もとい、『聖母様の泉』巡礼者一行は、ルードに多くの宿泊施設が無いことから、このトロザの幾つかの元修道院である巡礼宿に滞在し、間隔をあけて宿が混雑しないように団体馬車で移動するのである。
馬車に乗るのは有料だが、馬車の移動に同行する分には無料である。王国内とは言え、神国に近い僻地へと向かうことから、団体で行動する方が安全であることは間違いない。
クリスとクラーラは、この団体に同行する『護衛』の依頼を受け、ルード迄向かうのだが、二人の同行する馬車は次の次であり、二週間ほど先のことになるのだという。
巡礼者もトロザに数日留まる場合が多く、巡礼宿は二食付きでも安価なことから、トロザでの観光がてらこの地の聖堂や古い修道院などを訪れ、様々な祈願をすることで過ごしているのだという。
クリスの巡礼もそうであるが、何か祈願すべき事があり、その願いをかなえる為に巡礼を行っているのだ。目的地についたから旅が終わるというわけではない。勿論、真剣な願いばかりではないであろう。物見遊山に「巡礼」というそれらしい理由を付けた旅が大半なのだろうが。
『物見遊山、いいじゃねぇか』
「王国が平和で豊かになったってことだから?」
『海底にはない文化! でも、沈没船の人間のお宝発見探検は割と人気だよ』
人間が我が物顔で海上を行き来している下で、人魚がそんなことをして楽しんでいるのか。たまに、沈んだ船の人間を助けて惚れちゃうクラーラみたいなのもいるみたいだが。
トロザの市内は王都に並んだ再開発が為されつつある。古い木造の住宅を撤去し、街の大通りを16mまで広げ、縦横に街路を整備しつつある。王都の24m道路(そのうち、歩道が左右各2mとされる)よりは狭いものの、今までの馬車も入れない狭い街路が多かった市街が大きく変わろうとしているのである。
旧街壁は二十年ほど前に撤去され、街をグルリと回る外周道路となっている。この手の改造は王国の多くの歴史ある都市で為されている。街は、壁の外へと大きく広がるようになっているとも言える。
「景気良さそうな街ね」
『仕事を求めて集まって来るんだろうな。王国のこの辺じゃ、大きな都市はここくらいだからな』
王都は世界的に見ても巨大な都市であるが、王国内の都市は多くは北部に纏まっており、南部は『南都』と内海沿いの港町で、南都とは上流下流の関係で川でつながる『マッシリ』くらいであり、王都に次ぐ大都市は南都・マッシリ・トロザとなっているのも王国の南部に際立つ大都市が無いということと、王国南部は独自の歴史を持つという意味でもあるだろ。
街には建物を立てたり、道路を新たに敷設する工事の音があちらこちらから聞こえている。新しい時代と、古い時代が交差する時期なのかもしれない。
トロザの大聖堂は『司教座』のある『聖エステヴァン大聖堂』と、この地の聖人であるトロザの初代司教・聖セルナをその名とする大聖堂『聖セルナ大聖堂』が存在する。
歴史的に旧く、司教のいるのは前者だが、『未完の大聖堂』の綽名を持つ大聖堂であり、長い時代の中でさまざまな意匠をつぎはぎしたかのような印象を受ける不思議な大聖堂である。
王都の大聖堂にもある『薔薇の窓』と呼ばれるデザインを後付けで加えた為に、古い時代の鐘楼・礼拝堂に無理やり加えたような印象がぬぐえない。
『おもしろーい形の建物だよ!』
「最初からこの形にしようと思ったら無理な建物ね」
『不安を感じる形をしておりますな、巫女様』
高い鐘楼を持ち、街の象徴というべき建物で、東岸の旧市街の中心に建っている。古帝国があった時代から続く教会である。が、そのデザインはヴァイスの言う通りだとクリスも同意する。
トロザの街の中心にある二つの大聖堂。
聖地への巡礼に関わるのは、『聖セルナ』の大聖堂の方である。
元々は、この地の聖人である『聖セルナ』を巡礼する者が古の帝国時代から少なくなかったと言われる。聖セルナは、先住民の祭祀において、牛に引き摺られ殉教したとされているのである。
『上半身と下半身が泣き別れになったんだって』
「何それ怖い」
『けどよ、それで聖人に列せられて、その遺体を収めた墓地の周りに信者が埋葬されたがったからできたのが、あの大聖堂なんだぜ』
元は、聖人の墓地。聖セルナ大聖堂の地下には墳墓があり、聖セルナの遺骸が安置され、その周囲には信徒の遺骸が多く収められているのである。この遺骸が『聖遺物』であり、巡礼する目的でもある。
その為、聖地への巡礼の重要な経路とみる者が多く、聖セルナの周りには巡礼者を対象とする巡礼宿や施療院が配置されている。
とはいえ、この地には多くの『聖堂騎士団』に連なる修道院が存在した。聖征の時代から続く『巡礼街道』の拠点として、「貧しい巡礼者と旅人」をもてなす施療院や巡礼宿が多く存在する。これは、聖地への巡礼者のみならず、トロザにある数々の聖蹟を訪れる巡礼者を含めて受け入れる施設とされる。
最大のものは、西岸にある『聖ヤコブ病院』であり、今日においては、トロザの施療院・巡礼宿は聖ヤコブ病院の管理下に収められている。
その他にも、トロザ大学付属病院や聖王国病院なども西岸に建設されている。クリス達の滞在する巡礼宿もその一つであり、奉仕活動も同じ系列の施療院で行っている。依頼された馬車の出発までの数日をそこで過ごすつもりなのだが、先ずは、トロザの観光……巡礼先を周る事を優先している。
聖セルナ大聖堂には、多くのこの地域の聖人の『聖遺物』が収められており、信仰の対象となっている。
「驚いたわね」
『けっこう、びっくりした』
聖遺物を収めた櫃の上には、聖人を模したかなりリアルな『胸像』が生きた人間のような彩色を施されて置かれていた。偶像崇拝じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!! と言外にアピールしているようであるが、全く効果がない。
信仰の為には多少の方便も認めるのが御神子教であり、偶像を崇拝することをかたくなに否定し、自分たちの信仰は聖典のみによるという原理原則に忠実なものは『原神子信徒』と言われる宗派となる。
当然、原神子信徒は巡礼のような行為は行わない。その昔は、修道院の彫刻や壁画、タペストリーなどを破壊するために暴動を起こしたりしたこともある。人の財産を破壊するのは、犯罪行為だと思うのだが、そんなのかんけーねーというのだろう。
おかげで、同じ街の中、国の中で宗派同士が対立し、聖征の時代さながらの内戦に発展したこともあったという。
「たしか、修道女とかも全否定なのよねあいつ等」
『孤児院とかどうなってるんだろうね?』
教会や修道院は確かに、金儲けをするため宗教家らしからぬことをした者もいるだろう。しかしながら、信徒の為に体を張った人たちも沢山いたわけであり、自分たちが恵まれており、教会の救済を必要としないからと言って、その存在を否定するのは如何なものかと思うのである。
富裕な者が多い都市や国には原神子信徒が多く、貧しい村や国には御神子教徒が多いというのは、その辺りもあるのではないだろうか。
御神子教は弱者救済を是とする教えであり、弱者を切り捨てるのは異端ではないのだろうかとクリスは思うのである。
因みに、原神子派である連合王国において『救貧院』と呼ばれる施設は、不潔で極安い給料でキツイ労働を課す場所であり、「入るくらいなら死んだ方がマシ」と言われるほどであるという。快適にすると棲みつく輩が出るので、できるだけ不快な場所にしたとか……頭がおかしいとしか言いようがない。
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