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第一話 巡礼の聖女 『闇』の精霊に祝福される



『 トロザ伯の系譜


 現在『オクタ』と呼ばれる地域は、王国南部内海に接する沿岸域とその後背地である地域を含んでいる「ルドック」とよばれる文化圏の一部である。ルドックは西大山脈を挟んだ地域まで広がるルドック語を話す民族が住む広範な地域であり、王国内に限っても、オクタとボルデュを含むガスコン地方にまで広がる。


 今では王国の一部となって久しいものの、この地域でルドック語を話す者は約半数を占めており、王国の中であったとしても異国要素を多分に含んだ地域であると言える。


 オクタはギュイエ公・アラゴ王・トロザ伯の勢力が君主として鎬を削る地域であったが、中小の貴族領・教会領・自由都市と複雑な関係の封建体制を持っていた。また、トロザ伯は聖征において一大勢力の盟主であり、その勢力はカナンにレヴァント伯国を建国するほどであった。


 しかしながら、オクタの地域には教皇庁から異端であるとみなされた『タカリ派』の教えを信ずる信徒が多く、聖征の続く時代の中で討伐を受けることになる。二十年に渡る討伐を受け、帝国・王国・連合王国・教皇庁の間で駆け引きが行われた。オクタの地は諸勢力により分割統治されるようになったものの、トロザ伯は連合王国に亡命。各勢力、特に王国の支配に抵抗する勢力が反乱を起こした。


 密かにトロザ伯は帰還し反抗の盟主として返り咲いたものの、教皇庁から破門宣告を受け、求心力を失う。トロザ伯の娘と王国王弟との婚姻、及び王国への帰属・王国の一部となることで、オクタへの聖征は集結を迎えた。


      王国通史 ――― オクタニアの変遷より抜粋 』




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 トロザの街に到着したクリス達一行。その中に、サラマンドラの『ヴァイス』の姿は見えなかった。いや、正確には羅馬のクリッパの背に乗っている。隠れていると言ってもいい。


 残念ながら、鍾乳洞に潜む白ナマコを討伐できなかった結果、ヴァイスは鍾乳洞に戻ることができなかった。今まで通り隠れ住むこともできないではないが、『精霊』として生き残るには、その場所にヴァイスの存在を感じる者のいない環境が続けば、存在が希薄化し消滅するか、あるいは悪霊の影響を受け魔物化する可能性があるのだという。


『巫女様の故郷の川か泉にでも潜んで、周りの者に多少知ってもらえれば良いのです。あのような外道鬼畜の住む村の住人では、この先良い事もありますまい』


 人間の恨みつらみが『悪霊』となる要因であるとすれば、騙し討ちにあった旅人の無念さから『悪霊』が発することもおかしくはない。ヴァイスは影響を受けなかったが、無念を残した冒険者たちの死体を口にした白ナマコなら、『悪霊』と結びつきより強力な魔物へと進化したのかもしれない。


 いまさらなのだが。


 ちなみに……


「ペトロの街に向かう途中の村、壊滅したらしいな」「ああ。山ん中だから、がけ崩れだか山津波だかで住人諸共グチャグチャに

土砂が流れ込んで建物ごと飲み込まれたとか。そんなはなしだろ?」


 白ナマコが暴れ回った結果、石造の礼拝堂の一部だけが破壊されずに済み、村の家屋や家畜などすべて白ナマコに破壊され食されてしまった。家畜以外に、村人にも少なくない犠牲者が出たらしい。


 また、ヴァイスはクリスに『加護』ではなく『祝福』を与えることになった。魔力の譲渡や威力の強化であれば祝福で十分であり、加護より影響が弱いと判断したからだ。修道女見習が『闇』の精霊の『加護』をもつというのは、外聞が良いものとも思えないからだ。


『やりすぎんなよぉ』

『承知しておりますぞ、師匠殿』

「……あたしの頭越しに話を勧めないでよね」


『魔剣』ジルバの推測であるが、クリスの魔力の伸びが思わしくない理由の一つとして、『火』の精霊の加護があるのではないかと考えられるという。加護がある事で、自身の魔力をさほど消耗せずに効果を発揮する『火』の精霊魔術を主にしていることで、魔力を高めることができていないのだろうというのだ。


『加護に加護を重ねるってのは、あんまりよくねぇよな』

「あたしは、魔術師なんてならなくていいのよ。今時、魔術師で稼げるわけないんだから。サーカスで見世物になるくらいしかないじゃない。この科学万能の時代にね」

『えー 魔力が多い方が良いじゃんね!』


 クラーラはさらに魔力を高め、人魚の体に戻りながらも魔力で『人化』できるようになりたいと考えているようだ。ハンス王子が結婚すると、翌朝泡になるっての、どう考えているんだ!!


『人魚の嬢ちゃんみたいにポジティブすぎるのも問題だがよ、魔力が多けりゃ、ポーションだって作れるようになるだろ?』

「……魔女がいるのが当たり前の時代じゃないのよ今は。病院行って、お薬貰うのが普通。魔女のポーションなんて、偽薬扱いされるに決まってるでしょ!」


 オリヴィは元薬師でありながら、薬剤師の資格を取り直しているというのもその辺りがあるのではないだろうか。チビ将軍の時代、医者もそれまでの経験や徒弟制による育成から、医学校・薬学校に既定の年数通い、尚且つ、相応の実務期間を経て免許を与えるやり方に変わっている。


『世知辛れぇ世の中になっちまったな……』

「だから、アブサンが流行るのよ。痛み止め代わりに飲み続け中毒になる。飲まなきゃ痛みでままならないし、飲めば遠くない将来死に至るけど、でも、どっちかしかないわけじゃない」

『今も昔も、医者ってのは金持ちしか見ねぇからな。ポーション作って配るような奇特な奴はかえっておかしい奴扱いだろうな』

『でもさ、自分で使う分とか、身内で使う分はあってもいいじゃない? なんなら、人魚の国なら高く買ってくれるかもよ?』

『対価が真珠などであれば最高ですね』

『沈没船からお宝って手もあるだろ?』


 人間に売れないなら人魚に売ればいいじゃない? それは名案かもしれないとクリスは心を揺さぶられる。


『とにかく、ヴァイスは魔力をクリスに与えるのは、戦闘時だけに制限することだな』

『我、役に立つぞ!』

『へー 例えばどんなふうに?』


 ヴァイスは、『闇』の精霊の魔術に関して話始める。


 例えば、簡単な所では陰に隠して見えなくするような事であるという。それは、人間の体だけではなく、対象物を限定して隠してしまうのだという。


「例えばどんなものを?」

『ふむ、その銃の火薬の炎とかだな』

『「……え……」』


 銃口から噴き出す火薬の炎は、昼間はともかく夜間なら絶好の目印となりかねない。勿論、音でバレるわけだが、炎の輝きがなければより効果的になるだろう。


『洞窟や建物の中で、光が当たらない場所にいるなら、ほぼ完全に姿を闇に同化させ消す事も出来よう』

『できれば、音も消せると良いな』


 銃の発射音だけでなく、扉の開閉音、馬の嘶き、呼吸音、足音……消せるならなんでも消せるほうが良い。


『闇』の精霊魔術について話をしながら、クリスはますます修道女から遠ざかり、冒険者どころか密偵・暗殺者に近づいていくような気がしているのであるが、稼げるなら何でもいいなと考えているのである。






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