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第十話 巡礼の聖女 村へと戻り置き土産をする



「……絶縁体……」

『なんだそりゃ。まあ、意味は察したが』


 最近、発見された『ゴム』という素材が、電気を通さない性質を持つという話をクリスは知っていた。生ゴムは樹からとれる樹液なのだが、そのままでは耐久性に問題があるとか。硫黄を加えることで強度や耐久性が飛躍的に強化されるというのだ。馬車や自転車の車輪に使えば、揺れが少なくなるとかなんとか、そんな話であった気がする。


『巫女様の攻撃、ダメージを受けていなさそうですぞ』

『けど、敵意はマシマシになったよ!!』


 クラーラの得意とする『水』の魔術では、かえって元気やる気が出てしまう可能性が高い。魔力を帯びた水で、回復でもされたらかえって困るのだ。


『主、加速するようです。後退を』


 シュバルツが注意を促す。力を溜めるように縮んでいるように見えるのは気のせいではない。


『おい!』

『まっかせて!!』


 おりゃ、とばかりに鍾乳洞の回廊一杯に『魔力壁』を展開するクラーラ。展開直後、鈍い衝撃音と共に、魔力壁にしろナマコが激突しているのが目に入る。


「出口に向かいましょう。速やかにね」

『じゃあ、わたしが後ろね』


 背後を警戒しつつ、クリス達はもと来た道を戻っていく。しかし、ちらりと背後を見ると、焼け焦げたハピュイアの死体に白ナマコが喰らいついている。


『うえぇぇ……』

『……ハビュイアの丸焼きうめぇのか?』


 共生関係にあったとはいえ、どちらかといえば弱いハピュイアが白ナマコを利用していたようなもの。死んでしまえば、白ナマコ的には導かれた冒険者同様、餌に過ぎないのだろう。


「時間稼げてるみたい」

『魔力を追いかけてくるタイプだからな。このまま洞窟の外に逃げるまでは安心できねぇぞ』


 竪穴まで辿り着けば、その後は撤収して村に逃げ帰るまでである。その後ろを白キュウリが追いかけてくるかどうかまでは関知しない。


『出てくるのであれば夜であろう。我も奴も日の光は苦手であるからな』


 暗くなるまで、いや、日が落ちるまでは洞窟周辺で待機する必要があるかもしれない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




主よ(Erhalt)御言葉もて(uns, Herr,)我らを(bei deinem)

守り賜え( Wort)


 野営地を撤収し、鍾乳洞の竪穴を覗き込める位置から白ナマコの状況を確認する。どうやら、日暮れと共に『ヴァイス』とクリスの魔力を嗅ぎつけ追いかけて来る様子である。その体を芋虫のように動かしながら、竪穴の壁を上へ上へとよじ登っている。


『火』の精霊の加護を高める詠唱を行い、改めて、動きの鈍い白ナマコに『火球』で攻撃を加えることにする。


「火の精霊サラマンダーよ我が働きかけに応え、我敵を炎で焼き尽くせ……『火球(flaignis)』」


 今までの大人の頭サイズの火球が、一抱えもある大きさに変化している。


 GOOOOO!!


 まるで、鍛冶場の炉のような音を立て、火の球が壁をよじ登る白ナマコに向けフワッと飛翔していく。速度はさらに低下したが、壁をよじ登る芋虫の如き白ナマコには回避する術はない。


 JYAJHUJHUXHU!!!

 OOOOOO!!!!


 空気を振るわせる咆哮。そして、激しく湿った肉を焼き鏝を当てたような音を立てながらバシュバシュと水が沸騰するような音が繰り返される。


 竪穴を覗くと、背中に賽の目のような大きな黒丸が一つ、穿たれている。


『おー 痛そう』

『ありゃ、体の中まで焼けてんな』


 痛みをさほど感じる生物ではないだろうが、焼けた穴かあ、ブシュ、ブシュっと体液のようなものをほとばしらせながら、身もだえしつつ竪穴から落ちた穴の底で蠢いているのが見て取れる。


『少し小さくなりましたね』

『なるほど。体を修復するのに、魔力か体力かを消費した故でしょうな。巫女様、同じ攻撃を何度か繰り返せば、恐らくは小さくなるのではないでしょうかな』

「そこまであの村のためにやる気がしない」

『たしかに。ただ働きだしね……』


 今度は、穴の外に出てくるまで、攻撃をするのは止めようとクリスは思うのであった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 夜半近く、クリスとクラーラは月明かりの中、山から下りてきた。城塞のある都市であれば中に入る事は出来なかっただろうが、幸い、山の中の村には、そんな気の利いたものはない。


 OOOOOO!!!!


 ビリビリと家の扉を振るわせる咆哮。多くの村人は、その存在を察した。扉が勢いよく開き、なかから寝起きであろう村人が飛び出してくる。


「あ、お、お前ら」

「……なんで……」


 言葉を明確にすることはないが「お前らなんで生きているんだ」と言いたいのだろう。幾人かの村人がクリスの元に集まって来たので、よさそうなタイミングで帰還の報告をする。


「こんばんは、夜分遅く申し訳ありません」


 OOOOOO!!!!


 方向に顔を顰めるクリス。肩に手をかけられそうになり、慌てて飛び避ける。


「洞窟? 鍾乳洞に居た魔物は、大蝙蝠ではなくハピュイアでした。それは恐らくすべて討伐できていると思います」

「「「……え……」」」


 まさかの答えに、村人は硬直する。そして背後から現れる偽司祭。


「どういうことなんだ。いや、何をしたんだお前ら!!」

「鍾乳洞の奥には、白い大きなナマコのような魔物が潜んでいました」

「「「!!!」」」


 クリスの発言に「何故無事なんだ」とでも言いたげな村人たち。さらにクリスが言葉を続ける」


「討伐する事は出来なかったのですが、手傷を負わせることができたんです。それで……」


 背後から木々をへし折りながら現れる二回りほど小さくなったものの、まだ馬車程の大きさがある白ナマコが現れる。絶叫や悲鳴があちらこちらから聞こえてくる。


「追いかけて来ちゃったみたいなんで、皆さんに警告しようと」


 村の外周にある家の一棟が、白ナマコに押しつぶされ倒壊する。


「人が不幸になるような行為に手を染めると、自分に跳ね返って来るってお話ですわ」


 既に、話を聞く所でなくなった村人たちは、自分の家に向かって走り去っていった。白ナマコをみて固まっている司祭を横目に、クリス達は次の目的地であるトロザに向かう街道に向け村を後にしたのである。




【第九章 了】






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