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第九話 巡礼の聖女 DONN!!と行け!!

第九話 巡礼の聖女 DONN!!と行け!!


 鍾乳洞の奥に進むと、その途中で白骨と襤褸布の塊がちらほら見て取れる。そして……


『あったよー』

『ランクは……薄黄か……駆け出し卒業したばっかの奴らだな』


 王国における冒険者は、七つの色、その濃淡で十四段階に分かれていたという。そのうち、二色四等級は冒険者見習であり、連邦で言うところの星無並であるという。薄黄は、その見習の一つ上のランクであり、魔物の討伐を許可される最初の等級である。


「連邦なら星一等級ね」

『無理するレベルじゃねぇんだけどな。薄黄じゃ大した装備も持っていないだろうから、盗むのが目的じゃねぇ……やはり愉快犯だ』


 駈出しに毛が生えた程度の冒険者が高価な武具や纏まった資金など持っているわけがない。たまたま村に立ち寄った討伐初心者を言葉巧みに送り込んだのだろうと推測される。


『こちらにもあります』

「……濃黄、薄赤……女の子もいるじゃない……」


 ピエール、アリス、ギョーム、ジョセフ……どれだけの冒険者がこの鍾乳洞で命を落としたのであろうか。薄汚れ、文字も薄く掠れた冒険者証を一つ、また一つと拾い上げるたびに、クリスの心の中に激しい怒りが沸き上がる。それは、感情に出るかどうかは別にして、クラーラやジルバたちも同様の感覚に至っていた。


『今生きてる村人だけじゃねぇんだぞ』

『そうだよね。何代も代を重ねてこの人数なんだもんね』

『しかし、全てではなくとも今を生きる村人に咎が無いわけではありますまい』


 なんらかの因果応報な結果を、あの村に与えたいという気持ちはある。まずは、オリヴィを通して警察局・憲兵に村で何が行われていたか、捜査してもらいたいものである。


 その後、どこからともなく現れた謎の生物が村を壊滅させてしまうという事件が発生するかもしれない。白っぽい巨大な蜥蜴のような生物であっても不思議ではない。


「先ずは、ヒュドラを仕留めましょう」

『随分ヤル気だな。『雷』魔術がどの程度効果あるか、試してみたいって気持ちはわかるな』

『巫女様、遠慮なく奴に正義の鉄槌をくだしてくだされ。不肖ヴァイス、魔力が尽きるまでお付き合い申し上げる所存ですぞ』

『魔力尽きるのは良くないよね!』


 ヴァイスの魔力と加護による威力増幅、クリスの『雷』がどの程度の効果を示すか、全員が強い関心を感じているのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ヒュドラはヴァイス同様、白い体をしていた。日を浴びない故に、色素を失っているのかもしれない。ヒュドラは、白い小山のようであった。凡そ、コーチサイズの馬車程の大きさの巨体である。また、かなりの魔力を有しているようであるが、その力は主に再生能力若しくは、身体強化に廻されているだろうと想像できる。


 ハピュイアの生き残り数羽がギャアギャアとその頭上を飛び回っているのだが、それほど高い天井があるわけではないので、十分、クリスの魔術の攻撃の範囲に入っている。


『さて、どうする』

「折角だから、『火』魔術も使って攻めてみようかと思う」


 クリスは、『火球』を先ず飛び交うハピュイアに向け、放つ事にする。


「火の精霊サラマンダーよ我が働きかけに応え、我敵を炎で焼き尽くせ……『火球(flaignis)』」


 今まで放ってきた『小火球』が、子供の握りこぶし程度であったものが、『火球』は、大人の頭ほどの大きさとなっている。本来は、大人の掌ほどの大きさのはずなので、倍以上の大きさになっている。詠唱も効果を増幅させている。


 しかし、飛び交うハピュイアが驚いたものの、ギャアギャアと不快な声をあげながら火球を避けてしまい、壁に当たった火球が落ちていきジュウと音を立て消えてしまう。弾速が遅い故に、空を飛ぶ相手には効果的では無かったようである。


「駄目じゃない!」

『いや、駄目じゃねぇ。最初に小さな雷を乱発して動きを止めてから、今の火球を放てばいい』


 動き回るものが相手であれば、速い『雷』の魔術で意識を刈り取り、不足するダメージを得意の『火』で当ててやればよい。


 足らない魔力はヴァイスが、不足するコントロールは気合で何となする。


『いけぇ!!』


―――『(flumen)

―――『(flumen)

―――『(flumen)

―――『(flumen)

―――『(flumen)

―――『(flumen)


 ギャと声を上げ、動きを止めたハピュイアに、クリスは追撃の火球を放つ。


―――『火球(flaignis)

―――『火球(flaignis)

―――『火球(flaignis)

―――『火球(flaignis)

―――『火球(flaignis)

―――『火球(flaignis)


 GEEEE……

 GYAI……


 炎に包まれ、肉の焼けこげる臭いで鍾乳洞が充満する中、焼け落ちたハピュイアの背後から白い小山がこちらに進んで来る。


『我の魔力を感じたのか、奴はヤル気のようです巫女様』


 ズルズルと地面に腹を引き摺りながら、近寄って来る白い小山にしか見えないヒュドラは体表がブヨブヨと撓んでいるように見える。


『軟体動物、いや、『海のキュウリ』……に似ているかもしれねぇ』

『海の中にきゅうりはないよ!!』


 ジルバの呟きにクラーラが反応する。それはおそらく意味が違う。


「ナマコ……のことよね」

『そう、それだ。形は手足のような突起があるし、口吻がいくつか突起をもっているのが多頭に見えた原因だ。それに……魔力はかなりあるのは間違いねぇ』


 ナマコ自体、その体は強力な皮と筋肉から成り立っており、再生能力も相当のなものである。それが、恐らくは魔物化し、人の肉の味を覚えたとなれば、相当危険な存在であるのは間違いない。


「なんでこんなところに……」

『まあ、飛ばされたかなんかだろ』

『ナマコが空を飛ぶ?』


 海から遠く離れた場所に、そらから海生魚が雨のように降り注ぐことがある。恐らくは、竜巻か暴風雨でそら高く巻き上げられたものが降るのだろうが。その中に、白いナマコが含まれていて、たまたま鍾乳洞に生き残り逃げ込んだとすればどうだろうか。


 一先ず、クリスの『雷』魔術が効くかどうか、試してみる事にした。


『巫女様、魔力マシマシでまいります』


 ヴァイスの魔力を『溜』を作り大きな術へと『雷』を育てていく。光り輝く光球が鍾乳洞の中に浮かび上がり、青白い雷がその周りを跳ねまわっている。




―――『大いなる(magnus)(flumen)


DAAAANNNNN!!!!

BACHIBACHIBACHI!!!


 白いキュウリに命中した光球は、その体表の上を小さな粒になり跳ねまわったものの、雷を弾いてしまったのである。




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