第六話 巡礼の聖女 何故か不思議なことに尻尾から落ちてくる
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第六話 巡礼の聖女 何故か不思議なことに尻尾から落ちてくる
鍾乳洞の探索に、ケット・シーであるシュワルツが加わる事で、この先の難易度は相当楽になる。シュワルツが先行し、偵察を行い、遺体のある場所、魔物の位置と未確認であるハピュイアの共生する魔物を特定することができる。
『なら今すぐGo!! だよ』
『いいえ。野営中の安全確保も必要となりますので、明日、お二人が朝食を済まされている間にでも偵察してまいります。ご安心を』
時間的には小一時間もあればクリス達が徒歩の日帰り探索程度の範囲は十分に調べて回れるというので問題ないようだ。できれば、魔物退治と遺留品回収までお願いしたいのだが、それは難しいという。
『なんでだ!』
『おそらく、水の精霊かそれに類する魔物が存在します。ハピュイア程度であれば問題ありませんが、精霊に関しては精霊同士というのは相性がよくありませんので、お二人にお願いすることになりそうです』
「そうね。共生する魔物が、精霊に準じたものかもしれないんだ」
高位の魔物は、半精霊化しているものもあるという。もしくは、元精霊である。
『ありえるな。水の精霊が先住民から崇められ『神』となった後、先住民が信仰を失ったりすると面倒なんだ。蛇や亀の形をした精霊が、悪霊になるとけっこう強力な『竜』になる。御神子教からすれば、神に敵対する『悪魔』だな』
楽園から人が追い出される原因を作ったとされる『蛇』は、『悪魔』とされる。悪魔は人を誘惑し、神の教えから逸脱させるように誘導する。しかしながら、『蛇』は永遠の生命を象徴するとされる御神子教以前の信仰もあり、先住民は大地母神が四季を繰り返し、新たな生命を生み出す姿と、脱皮をし生まれ変わりをすると考えられる蛇をその化身であると考える宗教が相対した結果であるとも考えられる。
蛇を神の使いと考えるか、神と敵対する存在の化身と考えるかは、同じ状況をこちらとあちらで見た同じ現象の二つの局面であると見て取れる。とはいえ、元神もしくは亜神であるから、ケット・シーであるシュバルツ単体では難しい。
「でも、竜討伐なんてできるわけないじゃない……」
『サーペントでしょ? 一族総出撃だよ!!』
人魚の世界でも、『海竜』であるシー・サーペントなら出来得る限りの戦力で戦わざるを得ない『厄災』であろう。
「もしかすると、元々は村から犠牲の山羊を鍾乳洞に贈っていたのかもね」
『ありえるな。その途中で、余計なことを考えた奴が現れたのかもしれねぇ』
クリスとジルバが考えた話はこんな内容だ。元々、鍾乳洞には『水』の精霊が潜み、村は昔から守護神として崇めていた。外的から襲われれば、村人は鍾乳洞に潜み、魔物除けの『香』を使いながら敵の撤退を待つ。
積極的ならば、敢えて鍾乳洞におびき寄せ、『水』の精霊にその敵を襲わせ喰らわせることで敵を討ち果たす。
その際、恐らく金属の武器や金貨銀貨は残されるので、あとで回収することで村の収入になっていた。
しかしながら、外敵が王国に侵攻したのは、この周辺に関しては百年戦争が最後の頃であろうか。その後、村は家畜や狩りで得た獣などを与えていたと考えられる。それも、数を揃えるのは難しくなってきた。
外敵が侵入してこないのであれば、王国人の余所者を送り込めばよいと思いついた者がいたのだろう。それは、最初は仕方がないと思って始めたのであろうが、今では村を挙げての娯楽になっているのではないかと推測される。シュワルツの報告の内容から察するに、何代も代を重ね、当たり前のことになっているのだろう。
――― 随分と罪深い村人たちである
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翌朝、予定通りシュワルツが先行し、偵察結果を確認した後、再び鍾乳洞へと潜る事にする。
『やはり、精霊らしきものが潜んでおります。ですが……』
遺骸のある場所は比較的わかりやすいという。本坑のような大きな鍾乳洞を進んでいく途中に何箇所か存在しており、『このようなものが』と今の様式とは異なる古い書体の冒険者証を一枚加えて差し出した。
「これで、証拠は揃えられそうね」
『はい。それで、実は少々困ったことになりそうです』
『これ以上、困る事って何だろう?』
クラーラの物言いに苦笑しつつ、シュワルツが『精霊らしきものが二体おりました』と答え、それを聞いたクリスは大いに困惑する。
「精霊が鍾乳洞に二体」
『はい。竜体……ではありませんが、四つ足の蜥蜴のような形態で、一対は多頭であるようです』
『多頭の竜に似た魔物で水棲となると……ヒュドラか』
『ひゅーどら』
神話に語られるヒュドラは毒の息を吐く九つの頭を持つ蛇身の魔物であり、古い神の一体であるとも言われる。再生能力も持ち、神の血を引く『勇者』に討伐されたというのがそのストーリーである。何のことはない、古き神の子孫が新しき神と人間の間に生まれた『勇者』に倒されたという神話である。
ありがち。
「神話の通りだとする討伐は……不可能」
『まずは、証拠の回収を優先でいいだろ? ちょっかい出さなきゃそれほど問題でもねぇ。それと、もう一体はなんなんだ』
『蜥蜴のようでもあるのですが、水棲の蜥蜴というのはいるものでしょうか』
『いるよ。海で貝とか魚を採る蜥蜴。泳ぐんだよ、くねくねして』
確かに、蛇もウミヘビと呼ばれる種類がおり、水の上を蛇行して進んでいる。陸生の蛇でも、泳げるのであるから蜥蜴もありえるだろう。
『そちらは、普通の魔物に近い様子でした』
「では、そっちは普通に討伐してみようか」
『おー!』
鍾乳洞内は湿度も高く、水が落ちてくることも少なくない。なので、今回の討伐に銃を使う事は難しいと考えられた。なら、クリスは銃剣で接近戦をしなければならないのだろうかと気が重くなる。魔力量が多ければ、『雷』をドンドン飛ばして戦えるのだが。
『竜って銃で倒せるのかな』
クラーラの素朴な質問に、ジルバが答える。
『ああ。魔力を籠めた魔銀の弾丸ならな』
「試したことがあるの?」
ジルバは『ある』と答える。しかしながら、吸血鬼用の小さな魔銀の弾丸しかないのに加え、クリスの魔力量ではあまり期待できないので、今回は見送る方がよいというのがジルバの見解である。
鍾乳洞にシュワルツを先頭に入っていく。入口から幾らも進まないうちに、クラーラが魔力走査の反応を確認し、同じタイミングで先を行くシュワルツが足を止める。
『白い奴です』
「白子の蜥蜴」
鍾乳洞の天井に逆さに張り付く、クリスほどの大きさのある白い蜥蜴。大きな口には小さな歯がびっしりと生えている。
―――『雷』
クリスの不意の一撃を喰らい、白い蜥蜴はGYAUと叫び声を上げると、尻尾から落ちてきたのである。
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