第五話 巡礼の聖女 洞窟の奥には白骨が転がる
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第五話 巡礼の聖女 洞窟の奥には白骨が転がる
『ハピュイアだけなら問題なさそうだが、この先、足元も不確かで視界の悪い洞窟に潜む何かに見習二人で立ち向かうのって、むちゃじゃねぇか』
ジルバの忠告。何か感じているのだろうか。
『ん……ハピュイアとは違う存在がいるのは確か』
「まじで」
『まじまじ。えーと、ハピュイアってのは、単独で活動することが少ないんだよ』
クラーラは人魚として知りえるハピュイアの事を説明する。商売敵であるハピュイアは、知能も低く、顔と胸以外は小汚い鳥なのだがそんなものに何故人魚が「ライバル視」するかと言えば、常に強い魔物と共生しており、その魔物が相手ゆえに容易に対処できないからであるという。
「強い魔物との共生?」
『うんそう。クラーケンとか、シーサーペントとかだね』
『おいおい……実際「ドラゴン」レベルの伝説の魔物だろ』
クラーラ曰く、ハピュイアが進路に立ちふさがり、頭上に注意を集めている間に、海中に潜む大型魔獣が船を襲い沈めるのだという。ハピュイア単体では大して強い魔物でもないのにそれなりに脅威とされるのは、この共生する高位の魔獣が存在するからなのだろう。
「港町暮らしは物心ついてからずっとだけど、知らなかったわ」
『だよね。大きな船は今は襲わないみたい。昔は簡単に沈められたんだと思うけどね』
蒸気船が建造され、船が相応に巨大化するに従い、船が沈められにくくなったという事もあるだろう。やがて、船の速度まで高まれば、追いつけなくなり被害も出なくなるのかもしれない。
『ビヒモスだっけか、あの巨獣とはつるまないのか?』
『ん、鯨の魔物ね。ハピュイアの声が嫌いみたい。見つけると襲ってるよ!』
巨大な口を持つ魔物……ビヒモスはどうやら鯨の魔物であるらしい。鯨も遡るとカバのような生活を送る水棲の動物が祖先らしいので、カバであると言えなくもないだろうか。
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とはいえ、中途半端な時間になってしまった。一旦、洞窟の外に出て野営をしても良いかもしれない。洞窟の中に昼夜は無いと言えども、鍾乳洞の中で野営するのは、魔装の狼毛皮テントが結界の機能を多少有しているとはいえ、目覚めたらテントの周りにびっしり魔物が貼り付いているという状況が無いとも限らない。
加えて、村の状況視察を委ねている『シュワルツ』との合流を優先した方がよいだろう。クリス達が村を出た後、村の住人たちがどのようなことを会話しているかを聴かせていることに加え、不審な司祭の素性をそれとなく探るように残してきたのである。そう、決して存在を忘れていたわけではない。
鍾乳洞の竪坑まで戻り、再び魔力壁で階段を形成し一先ず外へと出る。日は暮れかけているようで、既に一日が終わりかけている時間であったのは思いのほか鍾乳洞内が広かったという事であろうか。
『主、ご報告したいことが』
気が付くと、ケット・シーの『シュワルツ』が背後にいた。
「夕食を食べながらで良い?」
『承知しました』
『晩御飯だぁ!!』
クリスもクラーラも強く空腹を感じていたのは、長く狭く暗い鍾乳洞にいたことでいつも以上に緊張感と魔力を消費していたことも影響しているだろう。世の中には、洞窟を『ダンジョン』などと称し、その中に隠されている宝物や潜む魔物を狩る仕事を専業にしている冒険者もいるようであるが、危険と利益が見合っていないのではないかとクリスは感じていた。
屋外で焚火を起こす際、『火』の精霊の加護持ちが居て、『水』の精霊の加護持ちと風の精霊魔術が使える二人がいることは、炊事に便利である。あっという間に湯が沸き、適度に風を吹き込みながら、コトコトと簡易なスープが煮立ってくる。
食事をするのはクリスとクラーラだけなのだが、精霊や魔剣と言えども、燃える炎は心を落ち着かせてくれる要素があるのは共通のようだ。
パチパチと木の爆ぜる音が林間に響き、大きな岩の陰にあるやや窪んでいる場所に焚火のサイトを置いている二人は、周りに対する警戒心を緩め、食事を楽しむ事にする。周囲の警戒は、シュワルツが代わってくれているのである。
出来上がったスープに固くなりつつあるバンケットを砕いたものを浮かべ、量だけは多い具の入ったスープを口に運びつつ、クリスとクラーラはシュワルツの報告を聞く事にした。
『村ぐるみで愉快犯であるようです』
聞けば不快な事である。司祭は偽物であり、元神学生崩れのならず者。予想していた通りである。
『冒険者や旅人を言葉巧みに誘導し、鍾乳洞に潜むはハピュイアを嗾け、その者たちが傷ついた場合は介抱するなどして金品を要求し、死ねばその財貨を手に入れております』
聞けば、礼拝堂の奥には冒険者や旅人の遺品コレクションがあるという。現金などは山分けのようだが、むしろ、被害者たちの遺品を肴に酒を飲むような行為で楽しんでいるという。
『いい証拠になるかも知れん』
「どういう意味?」
ジルバは村人全員をクリス達が相手をして無茶をしかねないと危惧したようで、王国内であるから、オリヴィ経由で憲兵に捜査させるよう誘導することを提案した。頭に血の登ったクリスと、善悪の見極めが怪しい元人魚のクラーラが暴走して罪科の怪しい村人に暴行する犯罪者になりかねないと思ったからだ。
『どうすればいいの?』
『証拠を探す』「でも、コレクションされているものでは、足が付かないようなモノにしている
でしょう?」
ジルバ曰く、恐らく、換金できないようなもので危険なものはそのまま鍾乳洞内に放置してあるのではないかというのである。
『鍾乳洞?』
「遺体を持ち帰るような手間をかけるわけないものね」
『ああ。恐らく、冒険者ならギルドの冒険者証を身につけていたはずだ。金目の物や財布なんかは持って帰るだろうが、死体や身につけていた襤褸装備なんかはそのまま放ってあるだろ?』
ジルバは、その冒険者証を幾つか持ち帰り、冒険者ギルドの登録内容、受けた最後の依頼などから、不審な未帰還記録が多数、この村周辺で発生していれば、捜査が行えるだろうと考えたという。
「そこで、たまたま借り上げた礼拝堂の奥から、村には相応しくない様々な冒険者の装備品が見つかるわけね」
『そうだ。たちまち村は大パニックになる』
『ふえぇ……』
シュワルツ曰く村人が冒険者の遺体に辿り着くまで、鍾乳洞内を安全に行動できるのはハピュイア除けの『香』を焚く事で可能なのだという。その辺りも含めて、悪意を持って鍾乳洞に冒険者たちを誘導したことを村人を個別に収監し尋問することで、事件の内容を明らかにしていくことができるだろう。
恐らく、洞窟の奥には白骨が転がっているのだろう。それも、何かで磨いたようなピカピカの白骨になっている可能性が高いのである。
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