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第三話 巡礼の聖女 魔物の潜む洞窟を知る

お読みいただきありがとうございます!

第三話 巡礼の聖女 魔物の潜む洞窟を知る


 ペトロからトロワに向かう脇街道のちょうど中間点に差し掛かったところ、とある村の教会で村人から「魔物が出る」という相談を受けた。どうやら、村の司祭が「冒険者の登録をしている修道女」という事を知って、ぽろっと村人に話してしまったらしい。正確には修道女『見習』であるのだが。


「村じゃ、夜になると大きな化け蝙蝠がでての。日が暮れ始めたら、表に出ることもできねぇ」

「いる場所は分かるんだがよぉ」

「憲兵か州知事にでも相談する方が良いですよ」


 クリスは無難な答えを返すのだが、村の住人たちは納得しない。曰く、田舎の憲兵は回って来るのもごくたまであり、事件が起こらなければ対応してももらえないという。


『わたしたちが死んじゃったら事件発生だよね』


 クラーラが言う通りである。余所者の巡礼の修道女なら、危険なこともさせやすいとでもいうのだろうか。司祭も司祭である。


「洞窟に大蝙蝠がいるかどうかだけでもみてくれまいか。明るい時間に見てくれるだけで良いのだ」

「……猟師や自警団の方で見回られた方が良いのでは」

「この村には自警団もおらんし、軍隊経験者も年寄りだけでな。若いのも調査ができるほど……」


 どうやら、報告書が書けないらしい。聞き取りして書けばいいんじゃないかそんなならと思うのだが、無理やり押付けられたのである。





 教会の一室に一晩の宿を借り、簡素な食事を司祭と共にし、翌朝、二人は噂の洞窟があるという山中に向けて山道を登り始めた。村から離れると、徐々に傾斜がきつくなる。


 山の中へと進んでいく。この辺りは、鍾乳洞も多く、洞窟の奥まで技術無しに入るのは難儀な事なのだ。


『問題ない。俺が道案内できるからな』


 入り組んだ洞窟であったとしても、ジルバがナビゲートする事で、問題なく外まで出られるという。


『それと、あの村の住人、それほど多い量じゃねぇが、魔力持ちが何人かいたぞ。ありゃ、なんか良からぬことでも考えているかもしれねぇな』

「良からぬことね……」

『またもや人攫いかも!』


 クラーラが茶化すように言うが、魔力走査で魔力持ちの村人が追いかけてくる気配もない。恐らく、別の目的があるのだろうとクリスは踏んでいる。


「クリッパも頑張ってね。あのまま村に預けておくのも正直良い気はしないから」


 洞窟探検に羅馬を連れて行く必要はないのだが、入り口近くまでは同行させることにしたのは、預けておきたくないからだ。正直、胡散臭くて仕方がないのは、これまでの巡礼の旅で人間不信になるには十分な事件続きであったからとも言えるだろう。


 当然、村には冒険者ギルドどころか、店なども一切ない。オリヴィに電信を送る事だって当然できない相談だ。


『なんかあったら、力づくでなぎ倒せばいい』

『それでいこう、おー!』


 力づくでなぎ倒せるほど、クリスには魔力も能力もないと思うのだが。クリス以外の二人、一人と一本はたいそう強気であった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 深い縦穴が地を穿っている。


「ここに入るの……」

『おー 結構深そうな穴』


 穴の直径は30m以上あるだろうか。深さも相当ある。この中に入るのは、確かにただの村人には難しいだろう。


『魔力壁で階段だな』

『よしきた、おまかせ!!』


 クリッパの荷物を魔法袋に収納し、鞍もはずしてしまう。この辺りで時間を潰してくれていればよいだろう。


 穴の底まで一気に魔力壁で作られた階段を駆け下りる。ちょっと目が回るくらい、縦穴の内側に螺旋階段を作って駈け下りたのだ。


 穴の底には小さな青空が広がっている。深さは凡そ100mほどだろうか。横穴が開いており、その中は真っ暗である。


『クラーラが杖をもつから、クリスがトーチを持って前衛か』

「そうだね。あたしはトーチと銃でいこうか」

『魔力走査もかけっぱで行くね』


 どのくらいの時間調査するかわからないので、魔力量に不安のあるクリスは要所要所で身体強化を軽く使う程度に留めるつもりだ。クラーラに頑張って貰う所存。


 ゆっくりと洞窟の中を確認しながら前へと進んでいく。不思議と壁の色は白く石灰のような感じがする。


『鍾乳洞か』

「鍾乳洞ね……」


 どうやら、雨水や地下水で石灰岩が解けてできた洞窟のようである。足元もやや湿っており、つるつると滑りやすいかもしれない。足回りはしっかりとした革のブーツではあるが、転べばざっくり切れてもおかしくないザラザラとした岩が洞窟内壁を覆っている。


『魔力持ち発見……』


 クラーラが前方の中空を指さす。確かに、何か黒いものが羽ばたいている。


「大きな蝙蝠」

『いや、羽が見えたぞ』


 蝙蝠の羽は『被膜』であり、『羽』ではない。確かに、鳥の羽に似た何かが見て取れる。


『ん、あ、あれは……』


 クラーラが何かわかったようで、言葉を探してるかのようにもごもごとしている。


『クリス、あのね』

「なに、何か分かったの?」

『あれは、蝙蝠なんかじゃないよ』


 やがて近づいてくる数羽の群れ。鳥の羽と足が見て取れるが、顔は……人間の女性の顔である。


『ハピュイア』

『知ってる? 人間の顔と胸、鳥の羽と足を持っているギャーギャーうるさいやつ。あいつら、声が汚いんだよね。人魚の敵だよ!!』


 古の冒険譚に登場する魔物であり、内海の東部に古の帝国のさらに昔に棲んでいたと伝えられる。女神の姉妹とも言われるが、実際は人間に擬態しそこねた鳥の魔物と言われている。


 そして、「冥界の王の手下」と呼ばれる事もある。これは、おそらくこのような鍾乳洞や海沿いの波で浸食された洞窟などに潜んでいることから、その洞窟を『冥界』と見立てたものではないかと思われる。


「地獄の使者とでもいうのかしら。どっちが相応しいか、クラーラ、見せてあげましょう」

『人魚は地獄の使者じゃないやい!』

 

 人魚はその美しい歌声で船乗りを誑かし、船を難破させるとも言われる。海の上は、板子一枚、下は地獄というではないか。船を沈める人魚は地獄の使者であるという解釈も大きな間違いではないだろう。



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