第二話 巡礼の聖女 『灰色乙女』から手紙を受け取る
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第二話 巡礼の聖女 『灰色乙女』から手紙を受け取る
『囮』の役割りも無事終わり、二人は次の街へと向かう事になっていた。
『冒険者ギルドが犯罪の片棒担ぎとは世も末だな』
「王国は広いからね。ファンブルだと顔なじみばっかりだし、そんなことないと思いたいけどね」
『あの人たちどなるんだろうね』
捜査が進むまでは拘置され続けることになるだろう。最初は「詐欺」と冒険者ギルドでの公文書偽造などで逮捕され、その後、人身売買など重要な罪科で捜査が進み、罪が重く成っていくことが想像できる。
『ギルドも半官半民から国営事業になるんじゃねぇか』
「中が変わると思うよ。輸送や手伝いに近いものはべつに冒険者である必要ないしね。護衛や司法捜査への協力なら『探偵社』のほうがいいでしょ?大体、街の中で雑用こなして経験詰んで、武装して警備とか……無理あるよね」
そうなのだ。軍隊なら、一通り歩兵の訓練を新兵に課し、その後、適性に合わせて様々な業務に割り振っていく。補給部隊や砲兵、設営や工兵に衛生兵などもあるし、最近では通信兵というものも存在する。だが、最初の半年や一年は歩兵として基礎訓練を受けるものだ。
冒険者にはそれがない。貴族が農民を集め槍を持たせて戦争をしていた時代ではないのだ。冒険者も軍隊同様、近代化されるべきなのだろう。近代化された冒険者は私設の警備・捜査員である「探偵」とみなされるかもしれない。
剣と異なり、銃はさほど訓練を必要としない。生まれつき貴族の家に生まれ、騎士として教育を受けたものと、それ以外で能力に差が生まれる時代ではないといえば良いだろうか。
クリスはオリヴィからの預かり物を捜査官から渡された。それは、小さな拳銃であった。
「これは……」
『かわいい銃だ』
『こりゃ、隠し拳銃か』
捜査官は「デリンジャ」拳銃ですねと言葉にした。州国で流行している小型の拳銃で、昔風に言えば『暗器』のようなものである。
箱の中にはオリヴィからの手紙が入っている。
『親愛なる オリヴィ=ラウス探偵社所属 クリス探偵殿
クリス、それにクラーラ旅は順調かしら? アドバイザーもいるので心配はしていないけど、油断は禁物よ。魔力は万能じゃないから、用心に用心を重ねることを忘れないでね。
それで、今回渡した拳銃は小型の隠し武器のようなものだけれど、これは、弾丸に工夫があります。魔銀の弾丸を金属製の薬莢に収めたものなのよ。これは、不死者、特に『吸血鬼』に対して有効な装備だと考えています。吸血鬼と『人狼』かしらね。魔銀鍍金の剣でも問題ないとは思うのだけれど、あなたの剣技はそれほどでもないから、念のためね。
常に身につけておくことを勧めるわ。予備の弾丸も少しだけれど同封しました。魔銀の弾丸が沢山供給できればいいのだけれど、こちらも手持ちが限られているのでそれだけしか今のところ贈る事は出来ませんでした。
不足したなら、定時連絡の際に伝えてもらえれば、次の立ち寄り先に冒険者ギルド経由で送る事もできるかもしれません。よろしくね。
クリスとクラーラが無事に王都に戻ることを願っています。
オリヴィ=ラウス』
予備の弾丸は六発。手紙に付随する取扱い説明を読むと、有効射程は5mほどで、威力も本来の火薬量では大したことが無いという。これは、対吸血鬼用の護身装備であると考えた方が良いだろう。
ちなみに、クラーラは……
『ん? 人魚の血液は毒だから大丈夫。むしろ、バッチコイだよ』
バッチコイってなに?
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一時的にペトロの街の冒険者ギルドが閉鎖されたので、次の目的地に向かうついでの依頼は何も受けることができなかった。とはいえ、懐はそれなりに暖かく、なにもせずのんびり巡礼の旅を二人は続けることになる。
街道途中の教会に施療院があれば一日滞在し奉仕活動をし、一宿一飯の恩義に報いる事も行う。王国でありながら神国に近いこの地域は、やはりどこか違う空気を纏っている。それは、元帝国である連邦においても同じなのだが。
『この辺は、ルドック語圏だからだろうな』
「……王国語じゃないの」
『方言というには全然違うな。今は、神国の南東部と王国の南西部に別れちゃいるが、元は一つの地域だった名残だ』
王国語も神国語も古の帝国語の方言のような物であり、『ルドック語』もその派生なのだという。独自の言葉になってはいるが、語源は同じ帝国語であるという。
『聖征の時代には、この辺りからカナンに向かった奴らも多かったんだぜ。おかげで、ルドック語を話す奴もカナンには相当いたみたいだ』
その後、異端であるタカリ派討伐の聖征が行われ、それまで神国南東部で力を持っていたアラゴ王国を後ろ盾としたルドック地域の君主や都市は教皇庁の圧力によりアラゴの支援を受けられなくなり孤立した。
結果、王国に帰属するか、一部は帝国に帰属することで異端であった事を改め、教皇の権威の元に平伏したということであった。
『へぇ、色々あるんだね』
「それと、建物も何だか違うわね」
『この辺は、石材がとれないからな。煉瓦やテラコッタで建物を建てるからだろうな。全体的に、赤い感じだろ?』
石材ではないから、細かく彫刻したりすることは難しいのだろうが、焼き物だからできる装飾もある。
『この辺の中心は、トロザってところだ。王都・南都に次ぐ都市だって話だな』
ルドック語を話す地域は、ボルドゥ辺りまで含まれるのだが、内海沿いの地域だけを区切ると『オクタ』という地方名になる。オクタの中心地はトロザということなのだろう。そして、四つある王国内の聖地巡礼路の一つは、トロザを経由している『内海巡礼路』である。
次の目的地は『ルド』なのだが、そこに向かうにはペトロから南に向かい、トロザで西に向かう巡礼路を経由して行かねばならない。
「それで、クリッパには乗れてきた?」
『ゆ、ゆっくりならね』
『まあ、慣れるまでは仕方ねぇ。けど、その羅馬に乗って『魔力壁』展開しながら、馬鎧と自分に魔力纏わせて突撃しなきゃだからな。馬ほどじゃねぇが、それなりの速度で突っ込まねぇと、返り討ちになるからな』
オリヴィから貰った『魔装馬鎧』は、魔力量の多いクラーラが騎乗する場合には、大きな力になるからとジルバの指示で乗馬の練習中なのである。幸い、鞍になれたクリッパは人を乗せる事も厭わないようで、カポカポとゆっくりではあるが人を乗せて進めるようになった。
とは言え、クラーラは慣れるのに時間がかかりそうで、特に、早足になると体が上下に揺れるので、それが気になるのだという。
「海の上なら、波でいつも上下しているじゃない」
『人魚は波に乗らないよ!!』
確かに、船に乗っている人間ならともかく、海の中なら波の動きはおよそ関係ないのである。
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