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第十話 巡礼の聖女 『ペトロ』に到着する

第十話 巡礼の聖女 『ペトロ』に到着する


『魔装ゴーグル』はなかなか良い出来であった。星明りで薄っすらと街道の輪郭がわかる最中を進んでいくクリスであったが、途中で野営をする追跡者を遠くから発見することができ、幸い避ける事も出来た。


 とはいえ、遠目から見ても焚火の炎が確認でき、尚且つ大声で何か話しているのであるから、見つけることは容易かった。野営地を避けるために街道を外れ大廻りする方が余程困難であったのだが。


「このまま先に行かせる方が楽かもしれないけど」

『いや、面倒だ。夜なら、身体強化してふっ飛ばしても誰も気が付かねぇ。街道も整備されて見通しも悪かねぇから、羅馬の駈足に合わせて距離を稼いじまえばいい』

『夜のお散歩、たのしそう!』


 ポジティブ解釈すぎるクラーラである。


 早朝・薄暮の時間を含め移動に廻し、日中はテントで休息する。クリッパには負担を掛けるが、そう何日もではない。それに、このパターンは神国内でも行うかもしれないから、試しておいて損はない。夜間早朝移動、日中休息とは、まるで冒険小説に出てくる砂漠探検のようだとクリスは思う。


「では、先を急ぎましょう」


 眠くてごねるクリッパを宥めすかし、先を急ぐ事にした。確か羅馬は兎馬以上に睡眠休息を必要としないはずなのだが、余計な所で力を使わせないでもらいたいものだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 日中休息、深夜早朝移動を繰り返し、幾度となく追跡者を追い越したのち、クリスとクラーラは無事『ペトロ』に到着した。


 一先ず、冒険者ギルドに入る前に憲兵の駐屯地へと足を向ける。報連相は大事。王都のラウス探偵社に電信を依頼し、事件に巻き込まれる可能性があるので、サポートを依頼したいと告げる。


 最初、二人の少女の訪問に「はいはい」と話をまともに聞かなかった門番の憲兵であったが、ラウス探偵社の所属証明書を見せると、何度も読み返し、突然直立不動で敬礼すると、奥に連絡を取り、若手ながら士官と思わしき案内役が現れたのである。


 簡単に経緯を説明すると、思い当たる節があったようで「ご協力感謝いたします」とのことであった。若い冒険者が多額の依頼失敗の違約金を課せられ、人身売買まがいの被害にあう事案が多数報告されており、とはいえ、被害者からの訴えや契約上も個人間で成立してしまっている

為、『灰色』の判断であり民事という事から憲兵が介入することができない状態が続いていた。


「知識犯罪者の対応は、憲兵の苦手とするところなのです。荒事ならお任せなのですが」


 司法警察官である警視や警部の配下として違法なものを検挙する手伝いはするものの、本質は軍隊組織である。諜報部門や探偵業とはやはり気質や技術が異なると言えるだろう。


 オリヴィは「王都から担当者を派遣するから一日待機して」と伝えられる。幸い追跡者を追い抜いて朝早くペトロに到着したので、一日程度なら報告に遅れることも問題ないだろう。


「宿舎はこちらの息のかかった安全な場所にご案内します。それと、担当官が到着次第、使いの者を向かわせますので、それまではゆっくりと過ごしてください」


 クリスは快諾し、数日振りに入浴できると思いワクワクするのである。因みに、クラーラは湯より水が好きである。元人魚だから仕方がない。





 冒険者ギルドには内通する職員もいるであろうから立ち寄る事も出来ず、二人は一先ず修道女になり、一日施療院で奉仕活動をする事にする。宿にはその旨を伝え、憲兵の詰所には夕方顔を出すのでそれまでは修道女の仕事をするつもりである。


 ペトロの地は、この地を入江の民の襲撃から守った修道院に端を発する街であるという。


『聖フロン大聖堂』は伝道師聖ペトロの墓所を聖堂として定めたことに

端を発する施設。

 当初、ヴェトゥルム修道院として開設されたが、入江の民の襲撃により破壊されて一時消失。その後、別の修道院として再建され、当初は木造の教会堂であったが、聖征の時代を経て石造りの堅牢な教会へと改修された。


 また、巡礼街道を行くものを歓迎し、見送るための高い円蓋塔を有する。また、有名な聖歌隊が協会に所属しており、豪壮なパイプオルガンを備えた礼拝堂を有する。


 この先は既に神国との国境であり、この先千キロにも及ぶ旅路を無事に過ごせるようにという祈りを捧げる場でもあると言えるだろう。


 ルージュの大聖堂が王国を代表する多くの大聖堂が模した壮大な建物であったとするならば、『聖フロン大聖堂』は、素朴でこの地に住まう御神子教徒を見守る優し気な建物である。


「単純に、こっちの大聖堂が古い建築様式で、石材を細かく彫刻する技術がなかったってだけなんだって」

『へー そんなもんなんだねー』


 このツルっとした建築様式の『王国』式を、『帝国』式に改装した大聖堂も少なくない。聖征でサラセンの精緻な石工技術が伝わった為とも言われる。そこで活躍したのが『石工』であり、様々な建物が木造から石造へと改装されていった。ステンドグラスも、当時の技術としては希少な物であった。





 短い時間ではあるが、大聖堂に付属する施療院で奉仕活動を行い、翌日、二人は冒険者ギルドに足を運んだ。依頼についての報告のためである。


 既に、朝一番で内務省の責任者たちと二人は打ち合わせをしている。朝の混雑する時間を外し、昼には少し早いがすいている時間を選んだ。何人か、内務省が派遣した『探偵』も冒険者の振りをしてギルドの中で待機をしている。


「こんにちは、依頼の報告についてなんですけど」


 受付に話しかけるクリス。その背後には、二人を追いかけていた破落戸どもと、それを供にした高価な仕立服を着た実業家風の男が近づいてきていた。


「はい。どのような内容でしょうか」

「おお、それは、私の依頼の件でしょうか?」


 ニヤニヤと豪華な服のデブが話に割って入る。


「リモの街で依頼を出していたのですが、今日が期日の荷物の輸送がまだ完了していなかったので、心配で確認に来たのですよ」

「あ、アヴァール様。昨日問い合わせいただいていた件でございますね」

「そうなのだよ。リモの冒険者ギルドからは昨日あたりに到着する予定と聞いていてね。今日の午後の取引に間に合わなければ、こちらもまずいのですよ。それで、依頼した荷物はどちらに?」


 それらしき荷物を持っている冒険者は街への入場時に確認されておらず、見張も、協力しているだろう街の警備担当からもアヴァールとやらに報告が上がっていなかったので、依頼品を持ち逃げでもされたと思っていたと受付で言われているのだ。


「真円を長く覗く者は、真円もおまえを覗き込む……ってやつね」

『まんまるなものを覗く時には気を付けよう』

『深淵な。まあでもこの場合、罠に嵌めたつもりの奴が、自ら罠に嵌りに来てくれたってところか』


 アヴァールは懐から一枚の契約書らしきものを取り出し、クリス達の前に翳したのである。


【第八章 了】



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