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第九話 巡礼の聖女 『ペトロ』に向かう

第九話 巡礼の聖女 『ペトロ』に向かう


「危ないところだった」

『うん、やっぱり訳ありだったね』


 嫌な予感はしていた。そもそも、単体で荷を運ぶような依頼を出すのなら、定期的に都市間を移動する『駅馬車』かそれに類する運送業者に頼むほうが確実であり安上がりのはずなのだ。


 それを、わざわざ冒険者ギルドに輸送の依頼をするというのがおかしいとクリスは思っていた。それもあって、荷を下ろし、魔法袋に収納した上で、クラーラは村娘風の衣装に着替え、クリスは少年の格好に着替えたのである。


 背後を警戒しながら進むクリス。その時、視界の端に小さな黒い点が並ぶことに気が付く。恐らく、騎乗している。リモの街を出て半日ほど進んだところ、後ろから馬を飛ばしてくる数人の集団と思われる。


『おい』

「わかってる。街道を外れてあいつらをやり過ごすわ」


 クラーラに声をかけ街道を外れて隠れるように伝える。


『休憩だね!!』


 クラーラはクリッパの背に揺られて酔ったようで「きぼちわるい」と溢していたのである。言わんこっちゃない。





 街道を外れ、林の中から様子を見ていると四頭の馬に乗った男たちが近寄って来る。


「おかしいな。そろそろ女の脚なら追いつくはずなんだが」


 早足程度の速度で進む先頭の男がぼやく声が聞こえる。


「どっかで脇街道にでも入ったのか?」

「そんなわけねぇ。この辺にそんな道はないからな」

「まあ、追いつくだろ。あと少しだ。急ぐぞ!!」


 人相の悪い男たちであり、腰にはサーベル、二人はライフルマスケット、二人はフリントロックの拳銃らしきものを腰に吊るしているのが見えた。

『山賊?』

「おかしな依頼主とグルの連中だと思うわ」

『この荷物なんなんだ。盗むほどの物なんだろうか』


 冒険者ギルドの噂に詳しいクリスは、この手の話を聞いたことがある。駈出しの冒険者が依頼を受けられそうな簡単な内容である『配送』の依頼。漸く成人するかしないかの子供に近いものしか受けることはない。そして、その手の者が依頼を受けた後、依頼の品を依頼主とグルの犯罪者が奪う。依頼は失敗、商品が失われたことで商品代金のみならず取引不成立で違約金まで発生したとして、依頼を受けた冒険者に損害賠償を請求する。


 しかし、駈出し冒険者がそんな賠償請求を支払えるはずもなく、年季奉公という名の賃金奴隷にされてしまう。奴隷は王国内において違法だが、借金のかたに働かせることは違法ではない。


 不本意ながら、低賃金で働かされる『奴隷』もどきの完成であり、女性の場合借金を早く返す為に体を売らせることもある。これは、自発的意思という形に見せかけた誘導であったりする。あまりにも賃金が低いので、売春するしかないといった形に持ち込むのだ。


 個人間の契約であるから、ある程度任意であれば際どい条件での契約も同意さえあれば認められてしまう。違法かどうかのギリギリであるが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 夕方までそこで仮眠をとる事にする。


『これいいね。もふもふしていて』


 クリスとクラーラはオリヴィから譲られた『狼の毛皮製魔導テント』の中にいた。クラーラが魔力を通す事で、保温や撥水、気配の隠蔽迄かかる優れた魔導具である。


「これがあれば、西の大山脈越えの時の野営もなんとなかりそうね」


 峠道は1500mを越える高さであり、サボアの大山脈越えの峠に匹敵する難路である。サボアが王国と法国を結ぶ古代から続く要路であるのに対して、西の大山脈のそれはこのんで越える者も稀な街道でもある。


「山賊とか出るかもね」

『さんぞく、かいぞくと比べるとどっちが強い?』


 海賊は帆船全盛の時代においては「雇われ海軍」に戦時にはなる存在であり、山賊とは似て非なるプロの集団でもある。山賊は、アルバイトの近隣農民であったりするので、海賊の方が優勢なのではないかとクリスは思っていたりする。


『そんなことより、あの馬の野郎どもをどうするかだろ』


『魔剣』ジルバの言う通りなのだが、クリスには腹案があった。


「多分、今回の依頼は冒険者ギルドの受付と依頼主がグルだと思う」

『グル?』

『なるほどな。クラーラが目を付けられたってことか』

『おお、わたしのせい?』


 依頼主だけでは対応できない内容だろう。いくらかキックバックを貰い、依頼を失敗させて換金できそうな若い女の冒険者に依頼を与えるようにさじ加減している窓口職員が担当したのだ。


「ペトロの窓口も似たようなものかもね」

『で、どうするんだよ』


 クリスは「失敗」という態で依頼主の元を訪れるつもりなのだという。


「そこで、色々書類とか出してもらって、どういう風に話を持っていくのか確認するのよ」

『それで?』

「王国内なんだから、内務省警察局に動いてもらうわ」

『探偵社の看板を利用するわけだな』

『おお!! 免状が役に立つ?』


 クリス達は冒険者であり、「オリヴィ=ラウス探偵社」に所属する探偵でもあるのだ。そこで、探偵社を通じて警察局に「お伺い」を立てることにするのである。


『でも、直ぐに対応してもらえるかな』

「電信があるじゃない?」

『『お!!』』


 既に王都にオリヴィたちは到着しているであろうから、ペトロの電信局から事情を説明する電報を打ち、ペトロの近辺にいる警察局の司法警察官を二人の元に差し向けてもらい、「詐欺」や「人身売買」の容疑で捜査させることもできるだろう。


『他力本願だな』

「十二歳の子供に、何させる気なのよ」

『いやほら、十二歳ってったってな』

『クリスはおとなだよね』

『クラーラは……』

『人間になって一歳だから、まだあかちゃん?』


 こんな胸のデカい赤ちゃんいてたまるか!!


 クリスとクラーラは日が落ちたのち、街道を進み始める。顔には『魔装ゴーグル』を装着し、体温で生き物が存在するかどうか確認できるように魔力を『片側』だけに通す。


『片目だけかけてもいいかも』


 クラーラは眼帯のようにゴーグルをかけたが、革紐が髪の毛に絡まって大変なことになったのは言うまでもない。




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