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第八話 巡礼の聖女 『リモ』に到着する

第八話 巡礼の聖女 『リモ』に到着する


 クリスとクラーラはオリヴィ達と別れ、リモへと向かうことになった。王都での再会を約束し、二人は再び巡礼の旅へと戻るのだ。


「……クリッパ……諦めなさい……」


 BURURUNN


 そういえば、鳴き方も兎馬っぽくなかったなとクリスは思いだす。甲高い仔馬のような嘶きなのだ。兎馬っぽいのは気分屋な行動だけな気もする。


 鞍を付けられたことが気になるらしく、背中をフリフリして、ちっとも前に進まなくなってしまったようなのだ。鞍は背もたれがついている手綱を手放しても腰で鞍に乗っていられるタイプの物を渡してくれている。


 ゆったり乗るには少々座面が狭いのだが、恐らく、クリッパの背に乗るときは緩やかに歩を進める状態ではないだろうから、これで良いのだ。


 そもそも、クラーラは少し前まで人魚であったので、当然クリスのように馬には乗れない。クリスが乗れる理由は、そういう依頼も受けていたから覚えたまでである。


『うう、わたしも乗ってみたいのに』

「当分無理そうね。気の良い子だから、困っている人でもいれば、乗せることは乗せてくれるでしょうから、気長に待つしかないわ」


 兎馬は馬のように盲目的でなく、意外と自己主張が強い動物である。クリッパは兎馬寄りの性格の羅馬であるらしい。好奇心が強く自由気ままで頑固者といったところか。冒険者向きではある。


 次の目的地はリモ(Limp)、そして、ペトロ(Petro)へと向かう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 リモという都市の名前は先住民の部族名に由来するとされる。約二千年前に古帝国に編入され、この地域の中心都市として建設された。


「この街には『聖マルシェ修道院』って立派な修道院があったそうね」

『へぇ、ルージュの大聖堂みたいにすごい建物なのかな?』

「あった……なのよ。今は新しい市街を作るための石材に転用されてしまって、ほとんどは跡しかないんだって」

『えええ!!!』


 クラーラが驚くのも無理はない。


 リモの中心はこの地における伝道師であり、最初の司教となった『聖マルシェ』によるものに始まる。その後、聖征に時代にいたり、『聖マルシェ修道院』は王国のみならず、御神子教界において世界的文化の中心地として花開いたと言われる。


 ところが、『聖マルシェ修道院』は四百年ほど前に世俗化され大学となり解散している。

とはいえ、この地域に八十の分院をゆうしていたこともあり、大聖堂は教区教会として残されている。


 この都市を通る南北・東西への街道が王国の地へ建設され、法都へと伸びていたため、大規模な都市開発がなされたものの、古帝国の遺構はほとんど残っていない。


 また、ギュイエ公国の中心地として、公爵の戴冠式もこの地で行われることもあり、式典に用いる素材など様々な手工業などが発達したとされる。


 未だにそれらの産業は健在であり、貴族の統治していた時代の城は市街を取り込み統合され、織物、革、帽子、靴、磁器などの工業が盛んな地となっている。


「百年戦争では『黒王子』の軍に攻められて、市民が沢山犠牲になったこともあるのよ」

『じゃあ、たくさんお祈りしないといけないね』


 黒王子とは、『黒騎士王子』とも呼ばれた連合王国の王子であり、ギュイエの地が当時、連合王国の統治下にあった為、王の代理としてこの地を治め、王国と長きにわたり戦争を指導した優れた軍事的指導者であったと言われる。


 因みに、王国とこの王子は、当時の神国の王位継承権争いに加担し、神国国内で戦争をしている。黒王子は彼の地で疫病に感染し、その後重篤な体となり帰還。人生の後半は半病人のようになり、父国王よりも先に早世している。


「神様って、やっぱりいると思うのよね」

『いないとまずいでしょ? 修道女なんだから』


 少年と呼べる年齢から戦争に参加し、王国との戦争の間、戦場のみならず『騎行』と呼ばれる略奪行為で多くの街や村を攻め滅ぼした『黒王子』の最後は、下の処理も自分で出来ないほどの哀れな垂れ流しの姿であったという。長く苦しんだ末の死であったとも言う。


「英雄なんて糞よ糞」

『ちびたもそんな感じだよね』


 ちびたではなくチビ将軍な!! それまで、貴族達に支配されていた庶民が中心となる国をつくるなどというムーブに乗り、その影響を大陸中に広めようとした『大陸戦争』だが、結果として多くの王国民が戦場で死に、王国を一回り小さくしただけで終わったのである。


 勝っている間は英雄だが、いまではその名前を口にする事もはばかられる存在となっている。王国の王家が復古主義にのらず、国民の代表である議会に主権を委ねている理由は、失政の責任を国王に押し付けられることを忌避したからでもある。


 国王は承認するという「権威」と、自らが運営する王都の不動産の管理から得られる収入で世界有数の「富豪」となっている。その資金を持って、「国王派」と呼ばれる勢力を国内で扶植している。銃弾ではなく『資金』という銃弾で戦争を内外に起こしていると言えばいいだろう。


 鉄道や工業に投資をし、王国の経済を富ませる事で利益を拡大させる。


『朕は国家なり』と宣った国王もいたようだが、今では『王国』という株式会社の大株主が王家であるという関係だ。唯一の株主ではなく、多くの王国民が何らかの形で出資ししている。あるものは税で、あるものは自らの命でという関係だろうか。


 国会議員や市の参事・理事というのは、そうした大株主であったりその代理人が務めており、それぞれの株主の利益のために活動していると言えば良いだろう。





 大聖堂に参拝し、この地でなくなった戦争の犠牲者の魂の救済を願い、二人は冒険者ギルドへと向かう事にする。ここでは、簡単な次の目的地であるペトロへ向かうついでの依頼があれば受けるつもりで立ち寄ったのである。


 幸い、簡単な届け物の依頼があり、クリッパに荷を乗せて運べるので配送の依頼を受けることにした。


「では、クリスさん、クラーラさん、期日までに間違いなく届けるようにお願いしますね。期日に遅れた場合、依頼は失敗扱いとなりペナルティが発生することになるのでご注意ください」

「わかりました」


 クリスはクリッパの背に荷物を載せると、そのまま街を出てペトロへ向かう巡礼街道を進む事にした。


 街を出てしばらく進んだところで街道を外れ、クリッパから荷物を下ろし魔法袋へと収納する。その方が安全であるし、何よりクリッパの疲労が少なくてすむ。


『おお、そろそろ鞍に乗せてもらえるかも!』


 クラーラが煩いので、荷物を降ろして代わりにクラーラを鞍に乗せるということでもあった。



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