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第三話 巡礼の聖女 探偵社に事務員を紹介する

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第三話 巡礼の聖女 探偵社に事務員を紹介する


「これが、回収した証拠類です」

「結構あるね。まあ、調査させましょう、内務省にね」


 シャルの冒険者ギルドの一室。クリスは後からやって来るだろうオリヴィを待っていた。早々に拉致され、犯罪組織の拠点を構成員諸共燃やしたので、仕事が思ったより早く終わってしまい、オリヴィの到着を少々待つ事になってしまった。


「この人が……」

「屋敷の使用人で、潜入に協力してくれたハンナさんです」

「……ハンナと申します……」


 オリヴィが怪訝そうな眼でクリスを見る。クラーラは茶菓子を堪能し我関せずである。


「で、なんでここにいるのか、教えてもらえる?」

「屋敷が燃えて、職を失ったので、どうにかしてあげたいなって」

「……それは、探偵の仕事じゃないわよね」


 ですよねーとクリスは思う。これが、ファンブルなら顔見知りの宿屋や下職にでも斡旋するんだが、ここはそういった仕事を紹介できる知り合いはいない。


「い、いいんですよ。その……また自分で職探ししますから。クリスさんが気にすることありません」


 申し訳なさそうに断りを入れるハンナ。しかしながら、クリスはこの先の再就職が難しいことを理解していた。前の職場の紹介状がない場合、まともに同じ仕事につくことはできない。まして、燃えた屋敷の元使用人である。


「商人が必要となる場合もあるのでは?」

「ハンナさん。あなたの主な仕事は?」

「雑役婦に近い仕事ですが、何分人が不足していましたので、食堂の給仕や使い走りなど含めて、来客と直接応対する仕事以外のほとんどに関わっておりました」


 オリヴィはハンナの雰囲気から、家政婦ではなく下級メイドであると判断していた。洗濯婦や料理の下働きなどである。しかしながら、来客応対以外の全部と言う事は、それなりの能力を有していると見て良いだろう。


 例えば、部屋の掃除などにかんしても主人の部屋にはいれるのは使用人として相応の評価と役職が必要となる。


「なら、使用人仲間だけでなく、あの場にいた組織の人間も知っている?」

「そうですね。探偵の皆さんの名前と、凡その年齢と役職、それに簡単なプロフィール程度なら……」


 他の使用人女性は、探偵たちと交際している者もいたようで、ハンナに色々話をすることもあったのだという。友達の彼氏の友達は他人だが。


「あなたは誰かと交際したりしなかったの?」

「いません。私、全然可愛くありませんし……」


 ハンナは、灰色がかった褐色の髪に、赤みがかった茶色の瞳。そして、クリス寄りの体型である。しかしながら、意思の強そうな顔立ちをしており、落ち着いた気品のある雰囲気がする。


「ふーん。で、クリス、どう考えているの?」

「証人の保護……が必要だと思います。あの館の使用人や所属探偵の顔と名前を一致させられる人で、証言しても不利益の無い人を確保する必要があると思います」


 館は燃え、半数の探偵と館の主が死亡したらしいが、あの探偵社と言う看板の犯罪組織の問題を調べ、しっかりと裁判を行うには被告不在の裁判にならないようにする必要がある。


 主犯格は全員死亡だが、生き残りは捕まえねばならないし、死んだからと言って罪が無くなるわけではない。法で裁いた記録は必要だろう。そして……


「そうね。結構、大物も絡んでいるし、しっかり証人証拠揃えて進めないと有耶無耶にされそうね」

「アニスは地下にありましたし、その出入りを記録した帳簿もありますから。あとは証言がとれれば、燃えたアニスが無くても成立するのではないかと思います」

「燃やさなきゃ……」

「運び出されて、別のどこかで売り捌かれていたでしょうね」


 クリスの言葉にオリヴィも否定できないと感じる。証拠だけ集めて探偵社まるごと裁判にかけたとしても、時間もかかるし構成員も雲隠れするだろう。消えて、別の街で別の悪さをする。詐欺師は別の詐欺の種を見つけて再び詐欺を行うし、アニスに関わる犯罪者も同様だろう。


「探偵社制度も……もう少し考えないといけないようね。それは、内務省のお役人の仕事でしょうけれど。話はもっていきましょう」

「今回の件は、一つの契機になると思います。なので……」

「わかったわ。ハンナさん、あなた王都で働く気はある?」


 オリヴィの思わぬ申し出に、ハンナは目を白黒させる。


「わ、私みたいな田舎者が……」

「何言ってるの、王都に住んでいる人の大半は田舎者よ。隠してるけどね」


 王国内から王都には様々な用事で人が集まって来る。王都生まれだけが王都の住人でないのは当たり前であるし、鉄道の普及で、地方から気軽に王都にやって来る人も増えるだろう。


「実はね、私たちの探偵社って……事務員がいないの」


 特級探偵二人だけの探偵社……今は、そこにクリスとクラーラが加わるが、それだって便宜上のものである。なんだって!!


「建物の中に住みこみの使用人部屋もあるし、お風呂も台所もあるから。あなたさえよければ、証人として保護した後も、事務員として働いてくれると助かるのよね」

「で、でも……」

「あのね、探偵って地味な方が向いているの。顔を覚えられないようにするほうが、調べものとか便利なのよ。だから、自分の容姿が目立たないという事は凄く良い事なの」

「は、はあ」

「もし、向いていないと思ったなら、私が紹介状を書くわ。それなら、使用人としての再就職も安心でしょ?これでも、お国には顔が効くからね」


 証人の保護と探偵社の職員の確保、そして、クリスにとっては自分の行動の結果、職を失い路頭に迷う女性をたまたまだが世話をする事ができて、多少、良心が咎められずに済む。


「ハンナという名前からすると、連邦のどこかの出身かしらね」


 旧帝国風の名前なので、王国出身でもこの辺りの出ではないのかとオリヴィは話をする。王都へと職場がが変わるのであるから、実家に連絡をする必要があるかもと思い話を向けたのだろう。


「……出身は……サーカスです」

「ほう、そのような街があるのですね」


 ビルが思わず口にする。サーカスと言えば、カーニバルなどで巡業に来る移動遊園地兼見世物小屋のことである。動物に芸をさせたり、アクロバティックな技を見せる。


 魔術師が珍しくなかった時代には「魔術だろ?」と関心こそされ、驚かれることはあまりなかったようだが、魔術が表向き生活に無関係となると、意外と人気のある興行になっていたりする。


 そんな名前の街があれば、耳にしたことぐらいありそうなものだとクリスは思う。


「あの、本当のサーカスです」

『本当のサーカス。本当じゃないサーカスってなに?』


 お菓子を食べ終えたクラーラが聞く気もなさげに話を振る。


「もしかして、サーカス出身の元芸人ということかしら」


 地味で目立たぬ万能雑役婦だというのは仮の姿。とでもいうのだろうか。


「面白いわ。で、どんなことができるの? 教えて!」


 両手を広げ、さあどうぞとばかりにハンナに催促するオリヴィは、途端に少女のようなキラキラした目になっていた。




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