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第二話 巡礼の聖女 館の主をボルカニックする

お読みいただきありがとうございます!

第二話 巡礼の聖女 館の主をボルカニックする


 三発の銃弾を胸と腹、顔に受けた護衛役の男が崩れ落ちるのを見て、ソファの男は硬直する。


「クラーラ、戻って来る護衛が来たら、処分して」

『まかせて!』


 ルンルンとばかりに、ヴォルカニック銃を手にすると、クラーラは扉の消えた入口から通路の先、階段の様子を警戒するように位置取りをする。


 銃を構え、見下ろすように男を見つめる。


「名前」

「……は……」

「てめぇの名前だよ。頭わりぃな!」


 完全に素の孤児モードに戻っているクリスである。ちょっと興奮気味なので、赦してもらいたい。


「じぇ、ジェローム……だ……」


 PANN!! 


 太腿にクリスの銃弾が撃ち込まれる。


「はぁ、舐めてるのかよジェジェロームさん。どっちが上か分からねぇのなら、分かるようにしてやるよ!」

「ず、ずみばぜん。そ、それでどうすれば……」

「は? 大事な書類とかどこにあるのか教えてちょうだいませジェジェロームさん」


 銃を突きつけたまま、執務用の机の引き出しや棚をドンドン開けて中身を放り出していく。


「な、なにをする」

「だから、大事な書類探し。お前と取引先の名前が書いてある帳簿とか、契約書とか証拠になる手紙だよ。全部は処分してないだろ?

お前だって尻尾きりされたら困るもんな」


 銃剣でジェジェロームの肩を突き刺す。


「がぁ。……ど、どの道殺されるなら……」

「それは確定なんだがな。ゆっくり死ぬのと、速やかに死ぬのか選べる特典付きだ。教えれば苦しまないで済むかもな」


 奥歯を噛みしめるように顔をしかめ、クリスを睨み付けるジェジェローム。


「か、金ならいくらでも出す。だから……」

「二億フルール」

「は?」

「二億フルール出せるなら、この場では殺さないでやる」


 さっきクリスが出したのは40フルールである。その……五百万倍に当たる。


「ふざけるな」

「ふざけてるのはてめぇだ。自分の命の値段を高くつけてやったんだから、ありがたく思えよ」


 廊下から人の倒れる音がする。


『おわったよ!』


 銃剣の血を拭きながら、クラーラが戻ってきた。もう一人の護衛が戻るまで時間稼ぎのつもりだったジェロームが目を見開いてガックリとうなだれる。


「クラーラ、動いたら殺してもいいから、ちょっと見張ってて。腹が立ったら、死なない程度に痛めつけてもいいから」

『わかった!』


 クラーラと入れ替わり、クリスがジェジェロームの元を離れる。クラーラは水球を作り、ジェロームの顔に押しあて呼吸ができないようにしているようだ。ガボガボと溺れたような音がして、ベショベショと水を吐き出す音がする。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 書棚の本をひっかきまわし、帳簿の入った本を見つけ出す。ついでに、机の引き出しの二重底の中の証券と、埋め込んである金庫の中身の金貨と鍵を頂く。


「だいたいこんなものかな」

『魔導具の類はないな』

「今時、そんなものないわよ」


 魔術より科学の時代、魔導具などと言うのは好事家が収集する程度の怪しげなものでしかない。魔力が切れていて、そもそも発動しないガラクタ同然のものも多いだろう。


『なんだそりゃ』

「……オルゴール……の中に何か仕掛けがありそう」

『そのまま回収だな』


 やがて、三階に人が上がってくる気配がする。報告に上がって来る

地下に降りた者たちだろう。


「悪しき者から《libera》 私たちを《nos》 お守りください《a malo.》」

「『アーメン《Amen.》』」


 クリスはマッチを一本擦り、廊下に投げ落とす。ゴゥと炎が上がり、絨毯が燃え上がる。


『えい!』


 石炭小屋で回収した石炭をざばッと廊下に投げおろし、クリスはその上に擦ったマッチを投げ落としていく。


主よ(Erhalt)御言葉もて(uns, Herr,)我らを(bei deinem)守り賜え( Wort)


 廊下の石炭が赤々と燃え始める。そして、木の床を炎が舐め始める。


「ぐぅ、お前たち、こんなことをして……」

「ただで済むわよ。あんたこそ、ここからどうやって逃げるのさ? あたしたちはこれで失礼するよ。頑張って逃げ延びられると良いよね」

「……そ、それは……」

「この館、窓が鎧格子になっているから、窓から逃げられないんだよね」


 廊下に出ると、クラーラは魔力壁を形成し、クリスを抱えて石炭が赤く燃え上がる廊下を駆け抜けていく。背後で、誰かが何か叫んでいるような気がするが、そんなことはどうでもいい。





 階段を駆け上り、屋根裏部屋に入る。既に二人が侵入した部屋以外の扉は開け放たれており、中の使用人は逃げ出したようだ。そして……


「も、戻って来たんですか」

「……ねぇ、何で逃げ出さないの?」


 先ほど金貨のお礼をした女性は黙ってうつむいている。


「ここ、燃え落ちるわよ。ほら、煙臭いでしょ?」

「……」

「名前は」

「ハンナ」

「じゃあ、ハンナさん。とりあえず、ここから逃げましょう」

「で、でも、どうやって」


 廊下は煙が充満しており、火が上がってきている。クリスはすました顔で答える。


「入ってきた入口から出るに決まってます。クラーラ。お願いね」

『りょうかいだよ』


 ひょいとハンナ嬢を御姫様抱っこすると、クラーラは窓から空中へと飛び出した。長い、絹を引き裂くような悲鳴がハンナの口から出たのは言うまでもない。




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