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第十話 巡礼の聖女 アジトをボルカニックする

お読みいただきありがとうございます!

第十話 巡礼の聖女 アジトをボルカニックする


 明けた扉の中に素早く忍び込む。沢山の木で組んだ棚がある。そして、そこには様々な武器がならぶ。片手剣やマスケット銃がほとんどであり、目新しい武器はない。何故か、金属鎧や兜の類も並んでいる。収集品を集めているという感じではなく、武力闘争用の雑多な装備をかき集めたといったところか。


『この辺の貴族だった一家の系統かもしれねぇな。同じ紋章の入った装備が揃っている』


 剣や鎧には同じ紋章が入っている。この地を支配していた貴族が徴兵した兵士や自分に仕える騎士に出も与えたものだったのかもしれない。


「価値は?」

『ねぇな。実用品であって、収集の対象になるようなもんでもないだろう。結構汚れているしな』


 金目のものなら貰っていこうかとも思ったが、ただの剣やマスケット銃はクリスには大きすぎて邪魔にしかならない。


 そこで、クリスは小さな樽がある事に気が付いた。


「これは……」


 強請ってみるとカサカサとした音がする。


火薬樽(Powder Keg)だ」

『お、そりゃいいな。近くに、弾丸用の鉛も置いてあるんじゃねぇか。それも回収だ』


 火薬は今手持ちの量は少ない。どこかで買わねばならないが、そういう行動は目立ってしまうだろうし、手に入るとは限らない。巡礼街道沿いで容易に再入手できる可能性はあまり高くないだろう。


『うーん、全部ばっちいかんじ』

「クラーラに合いそうなものは、上の階じゃないかな」


 三つある火薬樽のうち、二つを回収し、一つはふたを開け、ぱらぱらと中身を溢し確認する。


「間違いなさそう」

『油とかあると良いよな』

「それは別の場所に期待するかな」


 灯火用の油はここではない別の倉庫にでもあるのだろう。銃用だろうか、グリスもいただき、クリスは中身を多少振り出した火薬樽を抱え、クラーラと部屋を出ることにする。


 次の扉を開けると、中は、樽や袋が並んでいる倉庫であった。


「小麦粉とかワイン……アニスもありそう」

『クンクン、ベーコンの臭いもするよ』

『ベーコンは……貰っとけ』

「蒸留酒の瓶があれば回収して、旅先の路銀の足しになるかもね」


 小火球を展開し、クリスとクラーラはゴソゴソと家探しをする。


『主、ご無事ですか』


 明り取りの窓からシュワルツが姿を見せる。


「平気よ。何人ぐらいいそうなの?」

「一階の食堂に十人、二階の個室に四人。個室の四人のうち二人は恐らく囚われた女性です。そして、三階に館の主人らしき男と、その護衛役が二人。屋根裏には使用人と思われる男女が六人ほど居ります」


 ということは、表向きこの屋敷はそれなりの有力者の邸宅として扱われているということだろう。


『探偵社の看板が出ております』

「そう。親分は地元の有力者の分家かなんかで、汚れ仕事専門の奴かもしれないわ」

『ありがちだな。長男が当主、次男がその補佐役、三男以下が傭兵隊長みたいな感じか』


 表では、市長だ市議だ市警察幹部だと身分を持ち、その陰で犯罪組織とマッチポンプな関係で表も裏も街を牛耳る。歴史のある街で、ありそうなことなのだろう。


「オリヴィ達は、ここで私たちに何をさせたいんだろう」

『さあな。思うがままでいいんじゃねぇの。それが合わなきゃ、あいつとの関係もそれまでだ』

「じゃあ……」

『俺は、お前が一人前に魔術が使えるようになるまで、付き合うぞ。それと、オリヴィは……割とメチャクチャやっても良いと思っている奴だ』

『それって、どこ情報?』


 オリヴィが望む結果になるかどうかより、オリヴィがクリスならこんなことをやりそうだと想定し送り込んだと好意的に解釈する。つまり、これからクリスがなにを起そうが、それはオリヴィの責任に基づく結果だと思う事にする。

何があっても、あたしのせいじゃない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 アニスの樽に穴をあけ、地面に転がし、保存の利く食料と高級そうな蒸留酒の瓶を魔法袋に収める。そして、次の目的地へと向かう。


『こういう地下室ってのは、外から入れる階段があるはずだ。壁際に直接外に出られる扉がありそうだが』

「探してみるわ」

『うん、さっさと出ようよ。変なにおいがするもんねここ』


 アニスが揮発し、むせるような臭いがする。


『おい、火薬、ここで使って爆発させちまおう。燃えるものもそれなりにあるしな』


 火薬樽を木製の棚の中ほどに置く。幸い、予想通り、外階段の扉を発見する。先にクラーラを表に出し、そのあとクリスが上る。部屋の奥通路の方から人の気配がする。倉庫の扉の前を通過し、やがて奥から大騒ぎする声が

聞こえてくる。


 階段を素早く登り、先ほど猫が覗き込んだ明り取りの窓から、倉庫を覗く。目の前の棚には火薬樽。そして、乱暴に倉庫の扉があけられる。


「ここに逃げ込んだか!!」

「出てこい!! にげらんねぇぞ!!」


 男たちがゾロゾロと入ってくる。床にはアニスが流れ出しており、さらにパニックと怒りが加速する。


『もういいだろ』

『小火球』


 火薬樽に向け、小さな火球がフラフラと飛んでいく。やがて開いた蓋の中にある火薬にその火が引火する。


 ……GDOOONNNN!!!


 地響きを鳴らし、小窓から何か破片が飛び出してくる。中は真っ白な煙が充満し、視界は全く見えなくなった。


 そして、耳が痛くなるような沈黙と、パチパチと木が燃え焦げる音と臭い。小麦の袋にでも引火したのだろうか、砕けた棚や柱の木材が燃え始め

たのかは定かではない。


「これからどうしよう」

『せっかくある火の加護だ。思い切り使おう。例えば、今は薪とかどうなってるんだ』

「石炭庫ってのがあるはず……多分あれね」


 石炭は保管が難しいので、別棟の小屋などで保管していることが多い。騒がしくなる館を背に、クリスとクラーラ、そして猫と魔剣は石炭庫へと走るのである。



【第七章 了】



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