第九話 巡礼の聖女 組織のアジトに搬送される
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第九話 巡礼の聖女 組織のアジトに搬送される
『うう、もすこし優しく運んでもらいたいかも』
それぞれ、男の肩に担がれ二人はシャルの夜の街を移動している。背後には『黒猫』のシュワルツが追走している気配がする。魔力走査でその存在が確認できるのは当然だ。
追跡者を誤魔化す為か、若しくは、定められた経路で移動しなければ警戒されるからなのか、グルグルと三人の男は街の中を移動していた。体の小さなクリスはそうでもなかったが、それなりの重さのあるクラーラは、肩に担がれ苦しそうである。が、寝たふりを継続中。
三人は市街にある石造りの城館のような建物に到着し、裏門から中に入っていく。魔剣が呟く。
『あー なんだか嫌な感じだな』
表の人間が裏まで浸透しているということかもしれない。もう少し、襤褸い時代がかった建物にアジトを持っていて欲しかった。そう考えると、強硬策は後始末が面倒になりそうである。建物も中身はともかく外壁は燃えそうにない。
館の裏口から館内に入る。そして、狭い階段を地下へと降りていく。地下は小さな明り取り兼換気用の小窓があるようで、完全な暗闇ではないのだが、小さなランプを灯し、奥へと進んでいく。
金属で補強された覗窓の付いた扉の前で立ち止まる。地下には通路の片側に幾つかの部屋が並んでいる。倉庫や食品庫、そして……牢獄か。
「開けろ」
「おう!」
ランプを持ち先導していた男が扉を開ける。かび臭い匂いがクリスの鼻腔を刺激する。
「おい、起きろ。てか、起きてんだろ?」
どさりと床に二人を投げおろし、声を掛けられる。クラーラは途中から真剣に寝ていたようで、状況が一瞬解らなかったようで慌てた様子で周りを確認する。クリスは手足を縛られた状態でクラーラににじり寄る。口を塞ぐ布がずれ落ち、口が利けるようになる。
「あ、あなたたちは何者ですか! あたちをどうするつもりですかぁ!!」
縛れている縄は『火』の魔術で簡単に焼き切れる。あとは、クラーラの縄をほどき、魔銀剣で扉を切り裂き、表に飛び出すだけの話なのだが、それはいまではない。
「はは、お前さんたちは遠くに旅立つ。まあ、船に乗って西に向かう事になる。そこは、女が全然足らないんだとよ。そこで、まあ、色んな男の相手をしてもらうことになる。慣れれば大したことじゃねぇし、運が良ければ、モノ好きが身受けしてくれるかもしれねぇ。だが、二人はこの後別々になるかもしれん」
まあ、そんなところだろうと思いつつ、目を見開き驚いた表情を作る。こいつら、ぜってぇ許さねぇ。まとめて燃やしてやるとクリスは心に決める。何人も、何十人も同じめにあっているはずだ。
「そ、そんな。お姉ちゃんは口がきけないのに……」
「ほぉ、それは珍しいな。泣いたり叫んだりしないのは、面倒が無くていい。加減ができなくて死ぬかもしれんが、そういうのが好きな男もいる」
変態が世にはびこっているという事だろうか。口々に男が話始める。
「姉妹セットってのもいいかもしれねぇな」
「そういう楽しみ方もあるか。まあ、高く売れそうではあるな」
「「がははは!!」」
身を寄せ合って怯えたふりをするクリスとクラーラ。下品な声を掛けながら、男たちは「ちょっと、待っとけ。ボスが来る」と三人とも部屋を出ていく。ガシャリと鍵のかかった音がする。耳を澄まし、足音が消えるのを待つ。
『小火球』
『お!』
親指の爪ほどの炎が立ち上がり、クリスは自分の腕を縛り上げた縄の外側をその火で焼き切る。腕から縄を取り除き、足の縄を更に外す。
『わたしも!』
クラーラの腕と足を縛るロープ、そして口元の布を取り除く。腕には魔剣。姿は『銃剣』の形を模している。
「これ、いつもあたしが使っている方。使って」
『そっくりだぁ!』
『まあな。こいつが持っている装備なら、大体真似できる。デカいのは無理だが、拳銃くらいならなりきれると思うぞ』
ジルバの能力を聞き、改めてクリスは驚く。魔剣と銃剣は似たようなものであるが、銃は相当異なる。
『嬢ちゃんの鉄鞭もまねできそうだがな。いちど、こいつが装備してみないとわからんが』
意外と節操がない。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
クラーラは右手に銃剣、左手には何も持たないがヴォルカニック銃を腰に吊るしている。クリスは、魔剣の銃剣と31M49回転式弾倉拳銃。
「なにかもっていけそうなものあるか……あるわけない」
『ここは不用品置き場兼、一時監禁場所ってところだな』
並んだ部屋には、何かあるかも知れない。
『ちょっと、喉乾いたね』
「今、水筒を出すわね」
魔法袋から水筒を取り出し、クラーラに差し出す。グビグビ飲んだクラーラが満足したのかクリスに返すと、自分でも一口飲んで乾いた口の中を潤す。
「回収できるものは回収して、それから暴れるわね」
『暴れるの大事。随分と手荒く扱われたからね。ちょっと腹立たしいかも』
クラーラは魔銀の銃剣に魔力を通すと、目の前の古びたソファを両断する。
『問題なし。扉も斬り落とせそう』
「落とさないでね。音でバレるから。この辺りを斬れば、ドアは外れると思うから」
クラーラに蝶番を切断してもらい、そのまま扉をこじ開ける。ギギと軋む音がし、気が付かれたかもしれないと緊張したが、監視役はこの階にいないようだ。
『お宝さがしだね!』
クリスが二人が通路に出たあと、ゆっくりと外した扉を元に戻していると、クラーラは右隣の部屋への前へと進んでいく。この部屋の左側は突き当りの壁で右に幾つか扉が並んでいる。
「ここはあたしがやるわ」
二本の金属棒を懐から取り出し、クリスは鍵穴に差し込んで解錠を試みる。カチャカチャと動かして引っ掛かりを見つけぐるりとシリンダーを回し、ガチャリと扉の鍵が開く。
『どこで覚えたんだろな』
「孤児の嗜みってところ」
『え、さっき扉斬る必要なかったんじゃない?』
適当な答えを返すクリスに、『だよな』と魔剣ジルバもクラーラの呟きに同意したのである。
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