第八話 巡礼の聖女 『シャル』でも襲われる
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第八話 巡礼の聖女 『シャル』でも襲われる
巡礼街道は、そのまま吸血鬼街道ということなのだろう。魔力持ちに限ってだが。それを、一々討伐して進んでいくのは、密林の下生えを刈り取りながら前進するのと同じような大変さを感じる。
『まあ、ほら、最初の方は多いんじゃねぇの』
「そうね。小さな村でも王国に近い側には相応の魔力持ちを捕まえる『罠』のような場所もあると思う」
「今、警察局対魔課で当該地域の問題の在りそうな場所のリストを整理しています。王国西部から……いろいろです」
王国内から色々あるらしい。王都から遠く離れた地域では、そういった目の届かない場所もあるのだろう。ついでに掃除してきてくれと言うところだろう。
「この先だと……例えば?」
「シャルね」
『隣の街なんだ!!』
クラーラは驚いたような声を上げるが、クリスはそうだろうなと予想はしていた。ルージュほどではないが、シャルもこの地域では大きな都市だ。ローヌ川にトールの少し下流で合流する川に面した織物工業で有名な街。そうした外から人の集まる場所には、相応の犯罪組織も存在するだろう。そして、ルージュの組織と提携していたことが予想される。
「ルージュの『アニス』密造組織が壊滅した事は既に近隣に伝わっていることですから、シャルの犯罪組織も浮足立っているようです。ですが、市警はルージュより脆弱ですし相応に街に食い込んでいるので、様子見を決め込んでいるみたいですね」
ビルが、憲兵隊の調査報告書をクリスとクラーラの前に差し出す。クラーラは真剣な表情で見つめているが、王国語の公文書を読めるほど人間の言語には精通していない。ふりである。でも大事。
シャルの現況。地域では五指に入る都市であり、人口も二万に欠けるほどの都市。そして、外から働き口を求めて人が入って来る。規模は小さいものの、百人ほどの犯罪組織が根を張っている。
「市内は憲兵の管轄外。市警は奴らとなあなあ。ならどうする?」
『若い女二人が街に現れたら、そいつら何するんだろうな』
『魔剣』ジルバが問う。恐らくは、何らかの接触の後、強引な勧誘を計るのではないだろうか。勧誘に見せかけた誘拐。市警も余所者と組織のリクルーターが揉めても介入しないだろう。見て見ぬふりだ。
市民相手なら市警も対応するから、敢えて犯罪組織の人間は外部からの来訪者に狙いを定める。それが嫌なら、事前に伝手をたどって組織の窓口に幾らか支払う。それで関係ができれば、ずるずると奴らに取り込まれていく。
そんな感じだろう。
「揉めたら、反撃する……でよろしいでしょうか」
「できればぁ、街中で暴れるより事務所なり拠点なりに誘い込んで、そこごと壊滅させちゃってほしいのよね」
『大暴れ確定?』
オリヴィのさっぱとした物言いに、クラーラが確認が、それにビルが付け加える。
「あ、回収できるものがあれば回収してください。資金でも帳簿でも、備品でも貴金属でも武器でもなんでもかまいません。どうせ最後は燃やしてしまいますから」
『加護持ちは……考えなくていいから楽だよな』
恐らく、蒸留済みのアブサン・アニスが存在する。アルコール度数の高いそれらは、十分に燃料となる。残しておくより、燃やしてしまった方が世の為人の為である。
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翌日、二人と一頭と一匹は、巡礼街道を次の街『シャル』に向け歩いて行くことになった。最近、歩いていなかった兎馬のクリッパは少々機嫌が良いようで、グイグイと進んでいく。
昼過ぎ、シャルの街まで数キロといった街道の途中、なにやら不躾な視線を受けていることにクリスは気が付いた。黒猫が待機している。
『主、監視されております』
『まあ、あれだ。組織の観察役だろうな。ショートカットする脇街道でもあるだろうが、ヤバそうな奴や美味しい獲物が街道を進んでくれば、先にシャルの街に伝えて、罠でも仕掛けておくんだろうさ』
シュワルツの言葉にジルがつなげる。
「わかったわ」
『知ってても知らんぷりするってことね!』
何が起こるかは、街についてのお楽しみというところだろうか。
シュワルツは少しの間先行し、問題が無いと確認できれば暫く街道上でクリス達が追いつくのを待ち、異常なしと報告し再び先に出て安全確認をすることを繰り返している。監視役も見つけたその場で待機し、報告した後、街道を先に走り去っていった。
「今回は抵抗せずに捕まらなければならなさそうね」
『うんうん、無抵抗主義だね』
非暴力不服従ではなく、暴力の為の服従である。先ず与えてその後、激しく取り返す。そういう活動だ。
街に入り、本来なら冒険者ギルドに立ち寄るのだが、今回は華麗にスルー。散々、ルージュに滞在したのでここは最短時間で通過する為だ。幸い、オリヴィに貰った路銀は潤沢なので、小さな依頼を敢えて受ける必要は感じられない。王国内では不要だろう。
街に入ると、いかにもな客引きが寄って来る。険のある顔の太った中年女性。恐らく、若い頃はそれなりの美人で……水商売か売笑婦でもしていたのだろう。その面影は見て取れる。いまじゃ、盗人宿の女将である。
「あんたら、巡礼者かい?」
「はい。姉妹で聖地に向かっています。どこかいい宿が無いかと思っているのですが」
「そうだろそうだろ。うちは、建物は古いし大した宿じゃないけど、食事はそこそこ量もあるし味もわるかないよ。それに、余所の半額だ。どうだい、路銀に余裕があるわけじゃないだろ? うちで世話するよ」
と、つくり笑顔を張り付け、二人に話しかけてくる。それじゃ、とばかりにクリスは同意し、クラーラも会釈をする。見えない角度だと思い、顔を伏せてほくそ笑むヤリ手婆風の女将。お互い、別の目論見が成立しWin-Winな関係が成立する。
ルージュの宿よりはこぎれいで、そこそこ食事も美味しいものであった。量も偽りなしで、クラーラはお替りまでしていた。いつの間にやら食いしん坊キャラである。
『うう、お腹苦しいかも』
「この後、大立回りがあるのに、大丈夫?」
『クリスも、もっと食べないと大きくならないよ!』
確かに、クラーラの胸にいつか追いつけるのだろうかと、クリスは希望と不安共に我にありという心境だが、諦めたらそこで試合終了だと自分に喝を入れる。
幸い、睡眠薬のようなものは入っていなかったので、そのまま普通に就寝し、夜中に拉致されることにする。わざわざ抵抗したり、起きて騒ぐのは手間だと二人は考えていた。杖や銃・剣は魔法袋に入れ、クリスが服の中に仕舞っておくことにした。これなら、取り上げられることはないだろう。
やがて、夜中すぎ。音を殺してスッと部屋の扉が開く。三人組の男たちが、縄と口を塞ぐ布を持って入ってきたのである。
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